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おにいさんに睨まれた

トライアルというスーパーがある。

24時間営業のいわゆる業務スーパーである。

そして、24時間営業ゆえに深夜の客層は悪い。

襟足の長い茶髪のキッズと、やたらと声のでかいサングラスパパ、金ストライプジャージのヤンママ。みたいな構成の家族をよく目にするのはこいう空間である。というか、この類の家族はこういうところでしか目にしない。
普段はどこで生活しているのか謎である。

そして僕たちは深夜のトライアルという魔窟に期せずして飛び込んでしまった。



友人と夜のドライブを楽しむ。
僕が車を運転し、他愛もなくてくだらない話をしながら、場がだれてきたら適当なお店に入って気分転換をする。

僕はその日、そんないつもの休日の夜を楽しんでいた。
そう、トライアルに入店する前まで、、、、

僕たちはエディオンに立ち寄った。。。。そのつもりだった。

24時間営業、そう書かれた看板が立つエディオン。今から思えば24時間営業のエディオンなんて存在するわけがない。

というか、その時も同じ疑問をもったので
「朝五時に電気屋いくやつなんか存在すんのか?」
みたいな話をした記憶がある。

もちろんエディオンはしまっていた。
そしてその建物はなんと一階がトライアル、2階がエディオンという構造だったのだ!!!

狂気の沙汰である。こんなにも悍ましい罠は古今東西見たことがない。
エディオンという名の誘蛾灯に誘われて、僕たちは魔窟に飛び込んでしまったのだ。

とんで火に入った僕たちは、そのあまりの客層の悪さ、襟足の長さに意識を失いかけていた。実際、数秒は失神していたとも思う。

すると、おもむろに店内BGMが僕の鼓膜を振動させる。

「言葉はまるで雪の結晶 君にプレゼントしたくても〜」
そう、official髭男dismのsubtitleである。

ここで友人Aが
「髭男の歌詞きもくない?」
などとほざきだした。

「馬鹿野郎!!!」
そういってAの口を塞ぎ、急いで周囲を視認する。

半グレと流行歌の相性はとてつもなくいい。
しかも彼らは、自分たちの好きなものを貶されることに過剰に反応する。
そんな空間で『髭男の歌詞キモくない?』だと、、、?
holly shit!!完全に自殺行為だぜ。

周囲には怒号が飛び交い、半グレたちは髪の毛を逆立て、息を荒げている。

鉄パイプを引きずる音が近づいてくる。
「カラン、、カララン、、、カラン、、カララン、、、」
殺される、、、!!!!


人は強いストレスに晒されると笑い出すことがあるそうだ。
その笑いは一種のパニック状態であり、衝動であり、抑えられるものでは無い。パニックは人に思わぬ行動をとらせるのだ。


極度のストレスに晒された僕はなぜか必死の替え歌を披露した。
これもパニック状態の一つの結果なのかもしれない。
「精子はまるでペニの結晶〜」
声量はマックス、ビブラートこぶし、緩急を意識した完璧な歌唱。すこしでも彼らからの加点を勝ち取るため、懸命に歌う。

「君にプレゼントしたくても〜」

その時、僕の頭蓋骨の内側で何かが炸裂した。まばゆい閃光に目は眩み、意識が急速にシャットダウンされる。
半グレの鉄パイプが僕の後頭部をクリーンヒットしたのだ。



そこから先は正直何も覚えていない。
次に目覚めるとそこは病室だった。

医者が言うには、僕は運がよかったらしい。
奇跡的に後遺症もなく、三ヶ月後には退院できるそうだ。

ただ、Aは、、、ダメだった。





彼のことは本当に悔やまれる。
だが、元はと言えば彼の蒔いたタネでもある。
あの時Aが髭男を貶す発言さえしていなければ、、、いや、タラレバはよそう。

このことから僕が学んだ教訓は二つ。

1.夜のトライアルには近づくな
2.流行歌は貶すな

僕はこの二つを教訓に今日も生きていく。
強く、強く生きていく。。。





全部嘘です。
トライアルで髭男の替え歌を披露したら怖そうな人ににめちゃくちゃ睨まれただけです。

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