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SUNTORY将棋オールスター2021①解説会(谷川先生・木村先生)

2021年12月26日、将棋界として初めての試みである関東関西所属棋士による団体戦「SUNTORY将棋オールスター東西対抗戦」が渋谷区明治神宮会館で開催された。

前日のクリスマスに開催された前夜祭は50名。この解説会もS席88席・A席150席・B席252席と、おそらく将棋ファンの母数からしてプラチナチケット争奪戦になることは確実だった。

午前10時発売開始からわずか7〜8分で全席完売。前夜祭やS席などはわずか2分だったそうだ。運動神経の無さに関しては自信のある私だが運良くB席を確保できた。

受付開始ちょうどの午前11時におすまし顔で入場列に並んだが、実は明治神宮の広大な境内で明治神宮会館への分かれ道を見逃し、原宿口から代々木口まで(約1.5km)15分かけて歩いてしまった。代々木口に出てしまったことに気づいた時の私の落胆はご想像にお任せしたい。

明治神宮会館の座席は前からあいうえお順ではなくいろは順だった。いろはにほへとちりぬるをわかよたれそつねならむ…目指す「ら列」の自分の座席を見つけた。

前から約20列目なのだが個人的には見やすいと感じた。緩やかに傾斜があるのと密を避けて一つ飛ばしの座席配置なので、目の前には人がこないようになっている。

いよいよ開会式。スポンサーSUNTORY様と和服姿の佐藤康光会長の挨拶の後、出場棋士10名が登壇された。

写真撮影はトークショー、エキシビション(リレー将棋)、表彰式とエンディングのみOKとアナウンスされていたので、この時の写真は撮れない。しかしステージ上に立ち位置テープが貼ってある訳でもないのに綺麗に等間隔に整列した先生方、さすがの状況判断力である。

開幕局の澤田七段VS戸辺七段戦の対局開始前に今日の解説陣である谷川浩司九段、木村一基九段、聞き手は本田小百合女流三段、山口恵梨子女流二段が紹介された。

司会「対局場はちょうどこの下あたりになりまして…」木村先生「(ピョコンッ、とその場ジャンプ)」足音でちょっとうるさくしてやろうというイタズラ?アピールが何ともキュートな木村先生。あぁ、こういうところなのかと感心した。

第4回ABEMAトーナメントでチーム木村を率いてリーダーを務めておられた時もそうだったが、とにかく人の心を掴むのがお上手だ。これから何が起こるんだろうと緊張気味の観客を、笑いで一気に和ませる。これは木村先生を好きになってしまう。

この解説会、いつもは必ずある大盤が無い。正面に映る対局場の盤面モニターを見ながら、あれこれと解説をして頂けるスタイルだ。初手から30秒の早指しなので複数パターンの検討などは確かに必要ない。とはいえ指示棒もないので初心者には符号だけではちょっと厳しい。

それを踏まえて谷川先生も木村先生もきちんとわかりやすく話したり、対局者の裏話をしてくださったりと、とても配慮してくださっていることを感じた。

谷川先生は今年(2022年)還暦をお迎えになるとはとても思えないほど姿勢も良くすらりとした長身の立ち姿が若々しい。決して口数多い感じではないが、最年少名人から約40年重ねてきたトップ棋士としての経験が、気品溢れる佇まいを形作っておられるのだろう。

谷川先生の解説はベースがしっかりとしながらも少しユーモアを交えておられるところが何とも心地よかった。

棋戦スポンサーのSUNTORYがいかに文化活動に力を入れているかの話では、経済界の名士である佐治敬三サントリー会長の声がけで年末の風物詩である一万人の第九にご自身が参加した話などをお聞かせくださった。

そして参加者の女性比率の高さをこんな日が来るなんて、と嬉しそうに仰っておられた。私もまだ両手で足りるほどしか将棋イベントには参加していないが、確かにこの日はジャニーズイベントかと見まごうばかりに女子、女子、女子だった。少なくとも私の周りを見渡した限りでは圧倒的に過半数越えは確実だった。

康光会長とのW解説となった豊島将之九段VS横山泰明七段戦では、豊島九段、言い慣れないと仰っていた。また、豊島先生に二つ感心していることがあり、一つは今年酷い目にあわされた藤井竜王にJT杯で勝ったこと、もう一つはNHKスペシャル(竜王戦終了後)の取材に真摯に、謙虚に答えていたことで、普通なら取材拒否したいくらいでは、と豊島先生を慮る言葉が温かかった。

ふと、豊島先生の新四段誕生インタビューの事を思い出した。ご自身との対戦を心待ちにしていた豊島先生の事を、きっとデビュー当初からずっと優しい目で見守って来られたのかもしれない、と感じた。

『豊島将之・金井恒太 新四段誕生のお知らせ』

「強い人達と指していき、頑張って強くなりたいです。早く、羽生善治三冠と谷川浩司九段と指したいです。」

https://www.shogi.or.jp/news/2007/03/post_147.html

谷川先生は私にとって、君たちは悔しくないのか、と2018年第11回朝日杯で藤井聡太先生の優勝を誰も止められなかった時のコメントのイメージが強かった。ご自身が光速流で時代を築いた天才棋士ゆえの歯痒さからくるものなのかと思っていたが、それは間違いだった。

羽生世代より少しお兄さん世代の谷川先生。きっと、どの若手棋士に対してもまるで父親のように気にかけておられ、心配するあまり思わず出てしまった励ましの言葉なのだろう。こんな素敵なお師匠様を持つ都成竜馬七段のことが心底羨ましくなった。

そして谷川先生と康光会長という新旧会長揃い踏みの豪華な解説陣のあとは何と藤井聡太竜王と羽生善治九段のW解説だという。自分たちはおそらく前座ですねと谷川先生がジョークを仰り、会場からは歓喜の声が上がった。

どれだけ絢爛豪華な布陣なのか。豪華過ぎて目がチカチカする。まさにオールスター。出場棋士の解説会での様子まで書くと長くなりすぎるので次の投稿に書きたい。

再び解説陣が交代し、木村先生が登場された。木村先生の解説は非常に人気があり生で聞くのは初めてで、とても楽しみにしていた。
今年は木村先生ご自身が王座戦に挑戦されたりとご多忙だったからか、ABEMA中継でもそこまで頻繁にはお見かけしなかったように思う。

初めて木村先生の生解説を聞いた感想は、圧巻のひとことだった。もちろん他の先生方も素晴らしいのだが、初心者(3手詰めをウンウン悩むレベル)の私でも説明がどんどん頭に入ってきて、木村先生の世界に引き込まれる。

将棋棋士の先生方にはYouTubeチャンネルを持っておられるかたや解説の常連で慣れておられるかたなど、皆さんそれぞれ大変お話し上手でいつも楽しく拝見している。

しかし、木村先生のわかりやすさは、段違いなのだ。特に初心者のかたなら顕著に感じ取れると思う。
次はこの手を狙ってますね、この手を回避しないと次に王手がかかっちゃいますよと、木村先生の仰る通りに盤面に目を向けるだけで対局者の作戦が読み取れる。そして局面は先生の予想通りに展開する。

勝勢になった時の判断も早かった。これは豊島さんの勝ちになりそうですね、この手で逃げようとしてもここで捕まりますね、と玉の動きを封じる手順をすらすらと仰る。

強い。すごい。私は木村先生の頭の回転の速さと、それを私たちにわかりやすい平易な言葉に翻訳する才能にただ驚いた。手の流れを符号でまくしたてられても、今そこにない駒が動いた後の局面を頭にパッと思い浮かべるのは難しい。

棋士の先生方には9×9=81マスの脳内将棋盤があっても自分たちには無い。そして詰めろなど独特の将棋用語の連発。それが解説の置いてきぼり感に繋がるのだが、木村先生には全くそれがなかった。日頃からいかにわかりやすく伝えようと努力されておられるのか。本当にありがたかった。

語り口はソフトで優しく、ジョークを交えながらなので全く飽きさせない。もし木村先生が予備校講師なら間違いなくダントツ一番人気の講師になるだろう。

解説を聞いただけで香車一枚強くなったような気がして嬉しかった。才能に溢れるかただからこそ、ABEMAトーナメントのような早指しでも、タイトル戦のような長丁場でも活躍されるのだと感じた。

今回の解説会に参加して、谷川先生というレジェンド棋士の解説や貴重なお話を伺えたこと、木村先生の棋界の至宝ともいうべき見事な話芸を堪能出来たこと、これだけでも十分満足だった。

それに加えて出場棋士による解説や、トークショー、リレー将棋など楽しめる企画が満載で、まさに将棋の1日限定のテーマパークに来たような楽しさだった。

かなり長くなったので、次の記事②でまたこの続きを書きたい。将棋界、とんでもない魅力の宝庫である。藤井聡太先生だけではない。知らずにいるのはもったいないと、たくさんの方に魅力溢れる棋士先生のことをお伝えしたいと思った。

(②解説会に続く)









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