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履歴書には書けない「ネットダフ屋」仕事選びに失敗した経験

昔の話だが仕事選びに失敗したことがある。求人のキャッチコピーに惹かれて「パソコン作業は得意だから」と思い入社したら実態はネットダフ屋だった。
チケット転売がグレーゾーンだった頃、転売ヤーと呼ばれる個人だけではなく、組織的に転売行為を行い成功を収めている会社があった。

チケット取得には巧妙な手口が使われていた。架空の人物を作りネットでの抽選申し込みに応募するのが基本の業務。バレないように使い捨てのフリーメールアドレスを使ってIPアドレスは1回ずつ変更する。VPNもGoogleのシークレットウィンドウもこのときに知った。

一般発売の朝は、電話回線に優先的に繋がるプログラムが組みこまれた機械に接続した固定電話を1人4〜6台同時に使い、音声ガイダンスに従って次々とチケットを取得する。簡単に聞こえるが、集中力と記憶力がないとできない。
直接オペレーターに繋がるときは、適当な偽名と電話番号を自分で考えて使うようにと説明された。

発行、または郵送されてきたチケットはネットオークションサイトに高額で出品し売れたら発送というのを繰り返して利益を得る。
長く勤めている人は宝塚歌劇団の友の会にも入会していた。もちろん宝塚ファンではない。お金持ちの宝塚ファンの得意客も数人いた。

表向きは「不要になったチケットの販売」である。金券ショップと勘違いして電話をかけてくる人も多かった。

スタッフは正社員のほかに子持ちのパート主婦が数人いて皆気が強い人ばかりだった。社会的倫理観に反する行為を理解した上で何年にも渡って勤務していたのだから当然と言えば当然である。

私はそこまで鈍感にはなれなかった。チケット取得に失敗するなというプレッシャーと罪悪感がこころを蝕み、強迫性障害と睡眠障害を発症し短い期間で退職した。大手の求人広告サイトで堂々と募集しているからといって健全な仕事だとは限らないと知った。

それからは本質を見抜く力を養うために仕事探しをしていなくとも定期的に地元の求人をチェックするようにしている。
結果、要求が多い求人ほど待遇が悪い気がしてならない。月給や時給が低いからといって誰でもこなせる楽な仕事というわけではない。

昨日見て「応募する人いるの?いるんだろうな…」と思ったのは、WEBデザイン経験、HTMLとCSSコーディング経験、WordPressテーマのカスタマイズができるレベル、などがずらっと並んでいてフルタイム月給16万円の求人。
「あなたが休日でもほかの人は働いているのだから仕事の対応はして当たり前、プライベートを分けたい人は向いていません」という会社もあった。書いてくれるだけ良心的だけれど。

IT業界はフリーランス経験のある人はお断りの会社も多い。都合良く使いにくいからだろうか。夫も自分がそうだったからか「ほとんどの会社からすると自営業経験者に良い印象はないと思うね」と言っていた。

良い言葉ではないが、搾取する側と搾取される側でこの世は成り立っていると思う。

ちなみに冒頭のネットダフ屋の年間の売上高はグループ全体で5億円以上あったが、チケット不正転売禁止法ができたため既に閉業している。
しかしその利益で別の事業を展開したので、トップにとっては規制後のダメージは少なかっただろう。今もある地域ではそれなりに名の通った会社のようだ。

経営者の名前とチケット転売のワードを検索すると一致するのだがきっと誰も気付かない。表向きは真面目な会社を装って裏では悪どいことを平気でする、成功さえすれば良いという世の闇をほんの少しだけ見た気がした。
この世に因果応報があるのか見届けたいけれど、そんなのないんだろうな。

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