LINEの生活#22 怖い
外に出てから、東は、今日の考え事をするのを忘れていたことに気づいた。
「忘れるなんて...な...」
東は今日の考え事を忘れていた理由に気づいていた。
「怖いからだ」
東はここにきて、言葉の怖さを味わった。
喋る物には、言葉の「ブレーキ」が効きにくい。いつでも好きなように、好きな事を喋れる...
そして神は、言葉に「嘘」を与えた。
「そのせいで...」
東は地面に座り込んだ。
「怖い...」
もう誰にも騙されたくない。怖い、怖い、怖い。
東は前に進む力をなくしそうになっていた。
「けど...」
(行かなきゃ)
東は立ち上がって、前に進んだ。「お」という仲間に、本音を答えてもらうために...
東が少し進むと、所々から、たくさんの文字が出てきた。
そして、物を投げつけてきた。
「『ボス』になれ!!」
「反逆者!!」
飛び交う物と暴言...
「俺は---!」
東は声を張り上げて言った。文字たちの動きが止まった。
「俺は、人間の世界から来たんです。恋も...自分の夢を叶えることもできずに...。こんなに...こんなに心残りがある俺は、この世界を収めるなんて、到底無理です!!!!!」
あたりが、時が止まったように静まる。
「だから...俺は『ボス』にはならない!!!せめて、俺が人間の世界に置いてきたものを取りに帰らせてくれ!!その後だったら俺はいつでも『ボス』になってやる!!いいか、俺は、人間の世界に置いてきたものを撮りに行って、満足してからじゃないと、『ボス』にはならないからな!?絶対に!!!」
辺りにいる文字たちは、言葉を発せないようだった。その隙に、東は、一番言いたかった事を叫んだ。
「だいたい、この世界の裏切り者が、この世界をまとめられるわけねえだろが!!せいぜいこの世界を這いずり回って、『ボス』に殺されろ!俺は絶対に『ボス』にはならない!!!」
そして東は、ハッとした。今、東は、言葉の「ブレーキ」をかけ忘れてしまった...
なんの罪もない文字たちにこんな事を...
現実では、言葉一つで死んでしまう人間だっている...東はそこに、手を突っ込んでしまったのだ。
「...」
東は、恐怖、罪悪感、と言った感情に囚われ、その場から動けなくなった。
すると、東を囲んでいた文字たちは、目に怒りの色をあらわにし、
「てめえええええええ!!!!」
家から椅子、机など持ってきて、東に投げつけた。
「お前のせいで、LINEの世界も人間の世界にも、大混乱を起こすことになるぞ!!」
「『ボス』になれ!!」
東は、言いたいことがたくさんあった。けれど、今は口を開けず、『ボス』の屋敷に向かって、走ることしかできなかった----。
昨夜、「老」の住処にて。
「テンヌキ、ちょっときてくれんかの」
「?」
テンヌキは「老」の前に座った。
「なんでしょうか?」
「テンヌキ...明日、東を一人で屋敷に行かせなさい」
「ど、...どういうことですか!!?」
「東を裏切るんじゃ」
テンヌキは、ギリッと「老」を睨んだ。
「何を言っているんですか!?東は僕の大切な仲間ですよ!?それを裏切れと!?!?!?!?」
「しっ、テンヌキ、東が起きてしまうではないか」
「...」
「老」はテンヌキを宥めて続けた。
「お前さん、『ボス』になる気はないかの?」
「...なぜ急に」
「いいか、テンヌキ。東は『ボス』になる気がない。そのまま東が人間の世界に戻ったら、LINEの世界は大混乱。人間の世界にも影響がある。あずまに迷惑がかかってしまう」
「...東は、自分のやりたい事をするためには、迷惑なんて関係なしです」
「東以外にも、人間に迷惑がかかってしまう!」
「っ...」
テンヌキは言葉を失った。
「テンヌキ、お前さんは、『ボス』の一番近くにおった。治め方くらいわかるじゃろう?」
「...」
「テンヌキ、頼む、この世界のためじゃ。やってくれんかの?」
テンヌキは少し考えてから、言った。
「わかりました。やりましょう」
「------テンヌキ、準備はできたかの?」
「はい」
テンヌキは銃を手にとった。ずっしりと重い。
「では、行くぞ。突撃じゃ」
続く
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