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トロンボーンの口調 #毎週ショートショートnote

トロンボーンの口調が荒い。徴税人が来たのだ。

私たちの村では昔から大麦を育ててきた。大麦は痩せた土地でもよく育つ。その大麦で作った酒は村の貴重な収入源であり、何より私たちの生き甲斐だった。しかし、隣国と合併してから国は酒に重い税を課すようになった。もとよりギリギリの生活だったのだ。税を払う余裕などない。私たちは酒を密造するようになった。

酒は作るそばから樽に詰めて隠し場所へ移しているため問題ないが、密造小屋の蒸留釜は取り締まりに合わせて隠さなければならない。その時間を稼ぐために使うのがトロンボーンだ。村へとつながる道の遠くに徴税人の姿が見えたら、聖歌隊がトロンボーンを思いっきり吹く。教会に置かれたトロンボーンは、村中に危機を伝えることのできる唯一の道具だった。

神への祈りにしては不敬な、雄叫びような口調のトロンボーンが村中に鳴り響く。絶対に隠し通す。私たちは各々の密造小屋へと向かった。

おわり (395文字)


お読みいただきありがとうございました!

ウイスキー飲みながら考えていたらウイスキーの話になりました (安直)。スコットランドのウイスキー密造時代を舞台にした話です。貧しいハイランドで酒は生命線だったそうなので、なりふり構わず聖職者もグルになって密造してたんじゃないかな?と想像しながら書きました。実際には賄賂渡して見逃してもらったり、村民総出で徴税人をボコボコにして取り締まり自体がなかったことにしたりしていたみたいですが……

たらはかにさんの企画に参加しています。
今週の裏お題は【トロンボーンの口調】です。


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