ジェントルアタック

昔のこと。

地下鉄で厄介な人に絡まれたことがある。

休日に電話で、仕事場でのトラブルの連絡があって、対応に出かけることになったのだが、その移動である。

急いで出かけた上、半日以上台無しになることに、苛立っていた。

電車に乗って、座席に腰掛けようとすると、隣の車両から来た男性が一瞬、前を横切った。

全く気にならなかったのだが、その時である。

その人が詰め寄ってきた。

「今、座席に座ろうとしたのに、邪魔してすいません!」

え? どいうこと?

その人「今、こちらの席に座ろうとしてましたよね! それを邪魔してすすいません!」

俺氏「全然、空いてますから、お気になさらず」

その人「いえ、お前なんか、この車両から出て行けって、おっしゃって下さい!!」

(なんだー、コイツ)

そこで苛立ちもあって、躍起になって、言い放った。

俺氏「この車両も休日で空いているので、お好きなお席をどうぞ。お気遣い、恐れ入ります」

その人「いえ、お前はこの車両から出て行ってしまえって、怒鳴ってください!」

こわー。

そんなやりとりをしている間にも、電車は次の駅に。職場から遠いので、降りずにいると、その人は降りて、ドアを塞ぐように両手を開いて言った。

その人「もう、この地下鉄には二度と乗るなって、怒ってください」

俺氏「足元お気をつけて下さい、危ないですよ。扉閉まるので、下がっていただけますか。どうぞ、お気をつけて、こちらで失礼いたします」

深々と頭を下げて、見送った。

怖かったー。ドエムな人だったのだろう。叱られたかったのだろう。なんか、そういうお店とかあるんじゃないのか。調べろよと思った。

この経験から得た教訓がある。

感情面において、愛情以外は相手と同じ温度にならない、ということだ。
憤慨している人に面罵されても、どこかで彼の声が聞こえるのだ。

「この地下鉄に二度と乗るなって怒鳴ってください!」

そう。こちらがヒートアップしてしまうことを望んでいるのなら、すまない。先に降りる。

密かに名付けた。紳士な攻撃。優しく、穏やかに、動じないで毅然としていることに、内心躍起になっている。

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