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12.チューターという名の権力者

いよいよ寮生活が始まった我々新入生であるが、そこに待ち構えていたのはとんでもないシステムであった。我が母校の学園寮にはチューター制度というものがある。それがどういう制度なのか、まずは学園寮のサイトから見てみよう。
「現在、チューターの生徒達が新入生のために一生懸命、指導をしています」
寮頭の言葉である。(当時若かったアノ人も年をとったものだ)
「一生懸命、指導をしています」といっても勘違い野郎がかなりいた。
「チューター活動は今まで先輩達が築き上げてきた伝統、叡智の結集であり、時代の変移と共に柔軟に形を変えながらも、集団生活を送る上で必要な本質的な部分は変わることなく大切に守られてきていると感じます。約二ヵ月間の活動が始まったばかりですが一年生の「自治、自立」の意識がしっかり定着するようチューター諸君には頑張ってもらいたいと思います」
高校1年(新入生)寮(高校46期生)の担当職員の言葉である。
これらはあくまでも建前である。綺麗ごとすぎるのではないか?ましてや「叡智」なんて言い過ぎである。いまの新入生達は集団生活に従順でチューター制度もこれといったトラブルもなく機能しているのかも知れないが、我々の頃は違っていた。いろんな意味で既存のシステムに反抗していた我々にとって、チューターとは目の上のたんこぶであり、ことある毎にチューターに対して毒づいていたものである。「時代の変移と共に柔軟に形を変えながらも・・・」と述べられているところを見ると、いまのチューター制度は変わったのかもしれない。欠点も改善されたのだろう。そう願いたいものである。しかし、我々の時代は、チューター制度の実体は、わずか16歳のガキが15歳のガキの生活を指導するというものであり、そこには未熟で歪んだ権力の構図が存在した。権力の何たるかをまだ知らない16歳のガキが権力を振るうとどうなるか?
・スリッパがベッドの下からはみ出ていたから説諭
・個人ロッカーが施錠されていなかったから説諭
・衣装ケースのふたが閉まっていなかったから説諭
・ベッドメイクがいまいちなので説諭
・夜誰かの寝言が面白くて笑っていたら私語と間違われて説諭
・誰かのお菓子を勝手に食べたとかで問題になって説諭
言い出したら切りがない。探せばまだまだあったし、もっと理不尽なのもいっぱいあった。
私の体験から述べてみよう。
1年生のうちは大部屋生活であるとは以前にも述べたが、1年生には寝室とは別に自習室があり、毎日決まった時間に強制的に自習させられた。自習室は35人くらいずつに分かれていて、それぞれ自分の自習机がある。いつものように夜の自習の時間が終わり、消灯後の大部屋の二段ベッドで寝転んでいるといきなり懐中電灯を灯され叩き起こされた。
「洗濯室に来い!!!」
チューターだ。悪いことをした覚えはなかったが、ここで抗議してもヤツらの権力欲に火を付けるだけだと思い、素直に従って洗濯室(洗濯物を寮生別に配布していた部屋)に付いて行った。洗濯室ではメガネをかけた意地の悪そうなチューターがこちらを睨みつけている。基本的には寮の規則を破ったということになり、該当者はその呼び出される部屋の前に行列を作って自分の番を待つのであるが、中に入ると先輩チューターが偉そうにあぐらを組んで待ち構えている、
恐る恐るヤツの前に正座すると、5円玉を突き付けられた。
「コレに見覚えはあるだろう!!!この5円玉がお前の自習室の机にあった。自習室には勉強用具以外持ち込んではならないという規則を忘れたのか!!!」
そのチューターは後輩の新入生に対して説教を垂れることがことのほか嬉しかったのか?気持ちよかったのか?わからないが、しきりに「反省しろ!!!」と怒鳴っていた。    
自習室にエロ本を持ち込んでいたならいざ知れず、たかが5円玉一枚である。なんでそこまで顔を真っ赤にして怒っているのか不可解だった。あまりにも理不尽すぎる。まるで説教がしたいばかりに難癖をつけられたような気がして言いようのない怒りが込み上げてきたが、反抗なんかしたらそこにいるチューター全員の集中砲火を受けることになる。何度も「ここは我慢」と自分を抑えつけて30分近い説教を耐え凌いだ。
チューター制度は「一年生の自治、自立」など促すどころか、むしろ彼らから「自主、自立」と言ったものを奪う制度であったように思う。ただ、「集団に従順であれ」と。
このチューター制度に対して嫌な思い出を持っているのは私だけではないであろう。
「元は互いに、ただの被験者だった連中が、かたや裁く側、かたや裁かれる側に簡単にシフトしてしまうことの恐怖。「秩序」「ルール」「しきたり」という大義名分の有用性と薄気味悪」 同感である。
問題は大人の専門のチューターが指導するのではなく、人間関係がまだ分からない上級生がチューターとして下級生を指導という名のもとに威張り散らしていることである。

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