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そして、僕はつゆだくを卒業した



ギュウドンナミツユダクダク、タマゴトオシンコ


どうも。こんつは。僕です。


誰かに聞いてほしいけど、わざわざ話すまでのことでもない話です。

ギュウドンナミツユダクダク、タマゴトオシンコ

何の話かと言えば、吉野家の話なんですよ。

行ったことあります?吉野家。


僕の吉野家デビューは5歳くらいでした。



ある冬の朝、親父と漁港でまだ暗いうちから釣りをしてましてね。
5:30ぐらいだったかな。海風が強い日でした。キンキンに冷えましてね。
こりゃあ無理だ、って話になってさっさと片付けてたら親父が言うんですよ。

「かぷりこ!吉野家行くぞ!!!」って。

僕はキン肉マンでしか吉野家を知らなくてね。
親父が連れてってくれるってんで、もうそれはそれは嬉しかったです。大人扱いっていうんですかね。


近所に吉野家がないもんですから港から15分くらいかな。
車を走らせるんですよ。

ちょうど今の時期です。

海の向こう側にすこーしだけオレンジの明かりが見えだす頃。

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結露に滲む朝焼けの空気とその重たさ。
思えば僕が子供の頃の空気はもっと密度が濃かった気がしますね。


ギュウドンナミツユダクダク、タマゴトオシンコ


夜明け前の薄暗くてガラガラの道を走っていくと、遠くに煌々と光るオレンジ色の看板が見えてくる。

そう、吉野家です。

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片田舎のロードサイドの吉野家の明かりってなんか独特の頼もしさみたいなのがありますね。


駐車場に車を止めて、親父と連れ立って入店ですよ。


90年代前半の吉野家の空気感、って伝わりますかね。

こう、今みたいなファミリー感はないんですよ。
殺伐とした大人の男が、黙々とエネルギーを蓄える場所という感じ。

家族席なんかないんですよ。
U字形のカウンターで、前に小さい埋め込み型の冷蔵庫があって、そこにサラダと御新香が冷えてるんです。

椅子もね、子供なんか一切想定しない高さなんですよ。
5歳児では独力で座るのも無理、みたいな。

それで僕は親父に抱えられて席に着いたんです。


ちょうど向かいの席では、近場の漁師さん2人組が一仕事終えて、牛皿と缶ビールで飲んでましてね。もう、大人そのものなんですよ。

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目が合うと、一瞬ギロッと睨まれたように記憶してます。
今思えば、あの時間に子供が来るのが珍しかっただけだと思うんですけど。

緊張しながら座ってると、親父が聞いてきたんですよ。


「かぷりこは何にする?」って。

こちとらメニューなんか知らないわけですよ。

で、困った顔して、確かわからない、みたいなことを伝えたように思います。


すると親父が店員さんにこう伝えたんですよ。


『ギュウドンツユダクダクタマゴトオシンコ、あとギュウシャケゴハンダイ』


で、目の前の冷蔵庫からサっと御新香取り出して、僕の目の前に置いたんですよね。

僕は牛丼食べる前にはこれを食べないとダメなのかな?と思ったりしたのを覚えてます。


20秒も経過してなかったと思います。


僕の目の前には牛丼と卵が。

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親父の前には牛鮭定食が鎮座してました。

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どう食えば良いか迷ってたら親父がね

「一番旨い食い方を教えてやる」って言いながら玉子をカカっと溶き始めたんですよ。


「ほら、一口食って、玉子入れる穴作れ」
そう言われて一口食ってたまげましたね。

こんな旨いもんある?!ってぐらいの旨さでした。痺れる旨さでした。

そうすると親父が

「ほれほれ、スペーススペース」って言いながら玉子の穴を掘ってくれて、その穴に玉子を流し込んできたんですね。

飯の白と、つゆの茶色のコントラストが美しいところにね、
黄金色の溶き玉子がたーっと注ぎ込まれましてね。

「よし混ぜろ!!」って煽るもんですから、それはもう急いで熱心にガシガシとかき混ぜましてね。

そこにお新香をポイポイと入れてさらに混ぜて。
口に放り込んだんですよ。


ふわっふわになったつゆだくの玉子ごはん。
甘辛く炊かれた牛の旨さと玉ねぎのコク。
そしてお新香のさっぱり感がね、混然一体となってね。


旨すぎて脳が痺れるっていうんですかね。無我夢中で食いました。

5歳児なのにペロッと一人前平らげましたからね。あっという間に。


すると、ふと親父が食ってるものが気になったわけですよ。


「何でこの人は、牛丼屋で鮭を食ってるんだ???」と。


それで聞くわけです。なんで父さんはその定食なの?って。


親父は「大人はこれの方が旨いのさ」と。

そんなもんかー。と僕は納得したものです。




その後も吉野家に通うたびに、僕はもう着席するや否や唱えました。


ギュウドンナミツユダクダク、タマゴトオシンコ


この呪文を唱え続けて、27年。


ふと気づきました。




僕はもう大人で、何なら息子が当時の僕と近い年齢になってきたということに。




先日のことです。



吉野家に行きましてね。


すっかり変わったなと気づいたんですよ。
家族連れの座る席、バリエーション豊富なメニュー。
気付けばあの小さな埋込冷蔵庫はなくなったし、女性のお客さんもいる。




席について僕は、


牛鮭定食。


そう頼んでました。


今度、息子と行こうと思います。

アイツ、玉子アレルギーですけど。

僕は肉が好きです。ステーキ食いたい。