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東京の皮下に潜るの巻(2007.0210)

10年以上前の文章を掘り起こしてみました。

 町内会の掲示板で見掛けた「首都高速環状線トンネル見学会」に躊躇無く申し込んで、午後1時に近所のビル前集合、オンタイムで行ってみたら既にほとんどの人は来ていて、名前をチェックしてもらうが他のメンバー(自分を入れて30名、予約はすぐに一杯になったそう)は平均年齢60歳以上といったところ、土曜とは言えこんな余生みたいな行事に参加する人、そりゃオレだ。

 山手通りの中洲にある工事現場に入り、ヘルメットと軍手を受け取って小屋のドアから階段を下りると、もうそこには床一枚を地上と隔てて途轍もない空間が広がっているのだった。仮設の展示室みたいなところで工事の説明受けてビデオを見て、10人ずつ囲いも何もないエレベータで更に地下へ宙吊り。

 扉が開いて眼前に広がる景色にいきなり茫然とする、何じゃこりゃ。あっちにもこっちにも馬鹿でかい横穴が「ずうっと」延びていて先が見えない。素人目には何に使うんかさっぱり判らない重機・工具の山に血が沸騰する。案内してくれる首都高速の人は説明しなれているらしく、ふえ~、とか言いっぱなしの平均年齢60歳を前によどみなく工法、現在地、道具に解説を加えていくのだが如何せんメガホンの声がうゎんうゎん反響するので何を言っているのかよく聞き取れない、取りあえずコケないように気を付けながら写真を撮ってまわる。

山手通りの坂下までの約700mを歩いて戻る区間には全て、総重量2,000t、直径13mのシールド(円筒形の堀削機)で空けた穴が続いている。内回りと外回りの道を二本掘らないといけないので、起点に掘った縦穴からまずそのシールドを降ろし目標点まで掘っていって、そこで2,000tを「くるうり(引用:笙野頼子『母の大回転音頭』)」と180°回転させて(10時間かかるそうです)引き返して掘る、とこれだけ終わらせるのに一年半だったか、まるで修行。

 途中またやたらな機材が積み上げてある箇所があって、説明によると土を凍らせて掘りやすくしているそうで、実際に掘削した凍土を触らせてもらったらこれがホントにカッチカチで石のようでした。今日はこの見学会のために作業のほとんどを停止しているとのことで作業員の姿はまばらだったけど、所々では複雑に雑然とした足場をひょいひょいと登っているおっちゃんもいるカッチョエエ。

 最初に降りた地点まで戻って、見学者ズは呑気に記念の集合写真なんて撮ってるがここが何年もに渡って職場、ってのは壮絶だわなぁ。デカい穴に興奮してあまり気にしていなかったけど、現場は乾燥しているので空気中にはかなりの粉塵、黒いズボンを穿いていた人は総じてキナコ餅のようになっていて、自分も黒いスニーカーがやや安倍川、鼻を噛んだらティッシュがほんのり黄土色。

 最初のレクチャールームに帰ってもっかい説明と質疑応答、「費用はどのくらいですか」という質問に、首都高速の人は何故か照れたように笑って答える。熊野町[板橋区]から大橋[目黒区]までの区間総長約11kmのうち、要町[豊島区]の高松入口から大橋までは全て地下トンネルで、総工費が約7000億円(どよめくお年寄り)、併せて地上山手通りの拡幅工事に約3000億円(どよめく以下同)なので合計金額およそ1兆円(以下同)、実に慣れた感じの首都高速の人は「私の、まぁちょっと短いですが足の歩幅が1mとしまして(ここで足を拡げてみせ)、ざっくり言うと1mが1億円です」(どよめく平均60歳)だそうです。マジどよめくわ。帰りに伊藤園(工区の真上に本社がある)の「お~いお茶」を一本いただいて、ふらふら地上に出たら空気が全く違ってクラクラした。


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