マリッジブルーの底

私の婚約者は結婚という言葉に対してアナフィラキシー、つまり強いアレルギー症状を呈する。

結婚を前提に付き合い始めたつもりだったが、"前提"は単なるベクトルの向きであって、その大きさは・・・。6年経った今も彼の立ち位置は1mm変わったかどうか。石橋があろうがなかろうが川を渡る私を冷ややかな目で見ながら、彼は石橋だろうが船だろうが安全性や耐久性に難癖をつけて叩き壊すのである。結婚という目的地に至る気持ちは彼に存在しないように見える。

それでも無理やり結婚に持ち込んだ。親に挨拶させ、自分を改めて紹介させ、結婚することを伝えさせた。両家顔合わせもした(本人は一言もしゃべらなかったけれど)。そして今年結婚することにした。11月22日に結婚式場を予約した。でも結婚式の予約をする時、彼は現れなかった。

結婚指輪を見に行った時、気分が悪いと言われた。

入籍の日は1月30日は嫌がられ、2月22日もスルーされ、5月5日にするようなことを言っていたのに、いざ1ヶ月前に尋ねたら無口になられた。

私は彼に「カサンドラ症候群」という本を買い与えた。アスペルガー 障害か問題回避型か、いずれかあるいは両方の特徴のために彼は生きづらい状況に陥っていると思ったからである。そして私はカサンドラ症候群に似た状況に陥っていた。

彼はその本をどこまで読んだか知らないが、1週間ぶりに電話をするとひどい口内炎と扁桃腺炎に悩まされていた。彼がストレスを感じると発症する病気である。カナダにいる時幾度となくかかっていた。彼は自分が医者であるにもかかわらず、単なる口内炎でがんだの難病だのの診断基準に自分の症状を当てはめて、自己憐憫に浸っていた。

この人と結婚しても大変だろうなと思う。歳も取ったから子供もできないし、第一子供を育てられるような父親にはなりえない。もっといい人がいただろうに、私は何を血迷ったんだろう。何を悩んでいるんだろう。

そんな問題から逃げるためにチェロを始めた。一生懸命になれることが別にあると精神衛生上いい気がする。

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