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学校心臓検診①【心室期外収縮】

学校心臓検診の概要

日本では,小学1年生,中学1年生,高校1年生で学校心臓検診(1次検診)があり,次の3つのチェックを行っています。
・調査票(保護者が記載)
・学校医の診察
・心電図
検診の目的は「もしかしたら異常があるかもしれない」人を,できるだけ漏れなく見つけ出すことです。
医学用語では"感度を高く"などと表現されますが,「大丈夫だと思うんだけど,念のためね~」という所見も拾い上げて,病院・クリニックでの検査(2次検診)に繋げます。

1次検診から2次検診に回る確率は約3.3% (30人に1人)
2次検診以降で要管理(引き続き受診が必要)となる確率は約1%
 (つまり,2次検診に行きなさいと言われた人のうち,3人に1人)

学校心臓検診のガイドライン 2016 より

なお,筆者は現在,北海道で仕事をしていますが,1年間だけ東京都の心臓検診を担当しました。
2次検診に回す基準は,日本循環器学会のHPにも載っているガイドラインが有名ですが,医師会ごとに独自に設けているところも多いです。
実際,2020年度だったかな?東京都の2次検診に回す基準はガイドラインより狭かったです。つまり,2次検診に回る人の割合は,東京都の方が少ないということになります。

心室期外収縮

心臓検診と心室期外収縮

ガイドラインでは,心電図で心室期外収縮を認めたものは,それがどんなものであれ,抽出区分A(抽出すべき所見)です。
なぜなら(いきなり怖い話ですが)数年に1人の程度,心室期外収縮のために経過観察している児童が学校で突然死してしまったという報告があるからです…。
ただし,病名は心室期外収縮でも,その重症度というか,危なっかしさには幅があります。なので,2次検診以降では「あなたの心室期外収縮は,どれだけ危なっかしいか?(安全か?)」を判断することになります。

心室期外収縮とは?

心室期外収縮は,「心室―の―期外収縮」です。
まず,心室の説明。
心臓は,大雑把に4つの部屋―右心房,右心室,左心房,左心室―に分けられます。
このうち,左右の心房は,心臓に還ってくる血液を受け取る部屋で,筋肉も薄く,ざっくり言ってしまえば,脇役です。
一方,右心室は肺に,左心室は全身に血液を送るポンプの役目を担う部屋です。
心室は,筋肉が多い,仕事量が多い⇔低酸素・低栄養に弱い,という特徴があります。

次に,期外収縮の説明。
心臓が規則的に拍動するのは,電気の司令塔と,電線があるからです。
電気の流れは,次の通り。

洞房結節;校長

心房;職員室

房室結節;担任の先生

(His束,Purkinje繊維,左右脚)

心室;教室

専門用語が多いと理解しづらいので,学校に例えてみました。
学校では,まず校長先生が職員室で連絡をし,担任の先生が各教室に連絡する。そんなイメージです。
そして「期外」とは,予定していた時じゃないタイミング,ということです。英語では「早期収縮」とも言うこの期外収縮のイメージは…
『心室という教室の中に,悪ガキがいて,先生の言うことを聞かずに走り出しちゃう』
です。

心室期外収縮があると?

1発だけの期外収縮に気付くことはありません。
・頻度が多いと,動悸
・連発すると,眼前暗黒感(気が遠くなる),失神
といった症状がみられます。

どんな心室期外収縮が危険なのか?

言い換えれば,2次検診で調べる項目とは何か?ですね。
次のような所見があるときは,治療薬を処方したり,運動制限をお願いしています。

  • 複数個所から期外収縮が出ている

  • 運動すると期外収縮が増える

  • 連発する

複数の悪ガキがいて,先生の言うことを聞かなくて,うるさすぎて正常な授業ができないのがダメな所見です。
よい心室期外収縮はこの逆で,「1分間に2回以下,運動したらなくなる,単発でいつも心電図の形が同じもの」は,1~3年ごとに外来に来てもらう程度にしています。
(特に見つかったばかりの頃は,時間が経って増えることもあるので,通院は続けて下さい。)
また,次のような所見も注意とされています。

  • 頻度が多い(私はホルター心電図で10%以上あれば,ムム?と思う)

  • かなり早いタイミングで期外収縮が発生する(R on Tという波形)

  • 心電図の形が悪い(後続心拍のT波異常)

実際には,これらのチェックを①12誘導心電図を3分間,②運動負荷心電図,③ホルター心電図,の3検査でチェックしています。

また,何らかの基礎疾患(=持病)があって心室期外収縮が出る人もいるので,
胸部X線,心エコー図検査をすることが多いです。
基礎疾患が見つかった人は,そちらの学校管理も併せて考えなくてはいけません。

学校生活の制限

2次検診の結果,診断によっては「学校生活管理指導票」というものが必要となってきます。
学校→保護者→担当医という流れで我々は書類を引き受け,逆の流れで学校に提出して頂きます。

心室期外収縮では,最も厳しい運動制限の場合【D】中等度の運動まで可能という区分になります。
細かい制限は書類を見てもらいたいのですが,コンセプトとして
「同年齢の平均的児童にとって,少し息がはずむが息苦しくない程度の運動。楽に会話ができるくらいの運動」です。
【E】は,事実上体育などの制限はありません。
ただし,運動クラブ活動は別個に制限が必要なことがあり,【E禁】と表現されます。
【E可】は,特に制限はいらないけど,通院しています~という感じです。
さらに,具体的な制限を設けることもあります。
(失神したことがある人は,溺れたら困るので水泳禁止~など)

まとめと注意点

学校心臓検診で心室期外収縮と言われたときの,その先を書いてみました。
だいたいガイドライン通りに書いていますが,実際には皆さん一律に同じ方針とはできません。
個別に診療した結果,危なさを判定しているので,主治医の意見を優先してくださいね。

初めてNoteで記事を書いてみました。感想や,ご意見や,要望などあれば,遠慮なく教えて下さい。
屈託なく参考にさせて頂き,記事を洗練させていきたいと思います。

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