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学校心臓検診③ 【不完全右脚ブロック】

不完全右脚ブロックの定義

心臓の電気の通り道は,His束の先で左右に分かれますが,この右側を右脚(うきゃく)と言います。
この伝導に問題があると,電気信号が予定のタイミングで右室に届けられず,他の通り道から回り道してきた電気が「右室をあとから刺激する」ために,12誘導心電図におけるV1誘導で,2つの山(RSR' patternと言います)が認められます。

rsR' pattern。大文字と小文字は,波形の大きさで決めています。
(私は「振幅が0.5mVを超えないものは小文字」と教わりましたが,
小さい方を小文字とする流派もあるようです。)

(医療者向けの話)
右脚は,筋性中隔の頂上から右室側を走り(ちょうど三尖弁の内側乳頭筋が付着する辺り)中隔円柱を経て調節帯→三尖弁の前乳頭筋に最初の信号を出します。
両心室とも,心室内で最初に興奮するのは乳頭筋で,逆流しないように準備してから心室壁を収縮させる順番になっているそうです。
また,V1のrは右室,sは左室で,後半のR'は右室流出路の興奮を示しているらしいです。

不完全か完全かは,このQRS複合体の持続時間が120msecあるかないかで分かれます。
右脚ブロックの波形は,工事のため通行止めになっているところ。回り道して目的地に間に合ったものが「不完全右脚ブロック」,間に合わなかったものが「完全右脚ブロック」というイメージです。

不完全右脚ブロック型波形の原因

原因は,大きく3つに大別されます。

  1. 右脚の伝導障害(本物の不完全右脚ブロック)

  2. 右室拡大(右脚ブロックと同じ型の心電図)

  3. 心臓の位置と計測部位との関係(右脚ブロックと同じ型の心電図)

ただし,1.は小児では少なく,学校検診で見つけたいのは 2. 右室拡大を呈する疾患です。
つまり,1次検診で不完全右脚ブロック波形を見つけて,2次検診もしくは精密検査で,右室拡大を呈する疾患がないか?確認することになります。
疾患が見つからない場合は,3. 心臓の位置(個性)や計測の問題が疑わしいということになります。

(医療者向けの話)
3. 計測の問題について
小児循環器学会雑誌の2022年2月号に「電極を1肋間あげると右脚ブロック型波形が出てしまう」という話が載りました。健常者にも認める不完全右脚ブロックですが,その一部にはこういったerrorがどれほど隠れているんでしょうね。
また,Brugada症候群も不完全右脚ブロック型の波形として自動判別されていたりします。見逃したくないものです…。

不完全右脚ブロック型波形で見つかる右室拡大と先天性心疾患

上記2. 右室拡大を呈するもので,学校心臓検診で見つかるものは,ほとんどが【心房中隔欠損】です。
なお,実際に1次検診で不完全右脚ブロックがあっても,2次検診以降で「問題なし」となる方が9割なので,検診で異常を指摘されただけで悲観しないで下さいね。

心房中隔欠損とは?

詳細はいずれ別に書きたいと思っていますが,ポイントをかい摘むと次のようになります。

  • 先天性心疾患の1つです。先天性=生まれつきということです。
    心房中隔というところに穴(欠損孔:けっそんこう)が空いており,通常はこの欠損孔を通して左房→右房へと余計な血液が流れます。
    すると,右房〜右室〜肺動脈に流れる血液量が増えて,負荷をかけ続けるわけです。

  • 欠損孔の大きさと,右室の軟らかさによって症状が出るタイミングが変わってきます。余計な血流が多いほど心不全症状が出ますが,生まれつき&ゆっくり進むので,症状には気づかないことも多いです。心臓への負担と加齢が重なって不整脈が出たり,肺動脈が痛んできた場合(肺高血圧症)に,それぞれの症状を呈します。

  • 上記もろもろの結果,発見のタイミングが数パターンあり得えます。
    1. 乳児期に心不全;呼吸が速い,哺乳に時間がかかることで気づきます。
    2. 乳幼児健診;心雑音で気づかれ,小児科(小児循環器科)で診断されます。
    3. 学校検診や職場検診;心電図や心雑音を契機に発見されます。
    4. 成人期に心不全や不整脈,肺高血圧;運動時にすぐ疲れる,息切れ,突然の動悸,失神などで気づきます。30歳頃から発症してくることが多いです。
    5. 脳梗塞の原因になり得ます…。脳梗塞の原因探しをしたら,心房中隔欠損のせいだったなんてことも。

小さい心房中隔欠損は自然閉鎖したりしますが,3.の学校検診以降で検査異常を伴うレベルのものは,多くは残ってしまいます。
大きい欠損孔があるものは30歳過ぎてからは寿命にも関わってくるようになり,肺高血圧がひどい状態で発見された場合,もはや治療できない状態(Eisenmenger:アイゼンメンジャー症候群)ということも…。脳梗塞だって,後遺症が残ると生活に支障をきたす,できれば避けたいご病気です。

以上のことから,心房中隔欠損が見つかった場合,さらに治療したほうがよい大きさのものであった場合,医師は治療をオススメすることと思います。
心臓や肺動脈に負担がかかり続けることは言わずもがな,他にも①手術にせよカテーテル治療にせよ週単位の入院になること,②自立支援医療が受けられる年齢制限…を加味して,私は無症状であっても小児期に治療した方がよいと考えております。

その他の原因?

2次検診や精密検査では,心エコー検査を行うところが多いと思います。
結果,部分肺静脈還流異常などの先天性心疾患が見つかることもあります。
それらの検査で異常がなければ,前述したように「個性の範囲」ということで安心してよいと思います。

まとめ

学校心臓検診で不完全右脚ブロックが見つかった場合,大事なのは心房中隔欠損があるか? 他の稀な疾患ではないか?を確認することです。

以上です。
ご意見,ご質問,異論のある方は,ぜひぜひメッセージ下さい!

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