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やじろべえ物語14


「今日は来ますかね??」

「いやー来ないんじゃない?」

「お気に入りの蝶さんと朝までツンツンでしょー」

「ですよねww」

今日はココやじろべえの常連さんの作務衣さんの誕生日だ。
いつもタイはバンコクの夜を赤裸々に語ってくれる。
オレはその話を聞いてただただ羨ましがっている。
だってツンツンしてるんだもん。
何を隠そう…隠してないけど私はおっぱい星人でやんす。

アチラのホステスさん、作り物率が高いみたいだけど、私の印象としては皆さん優しい気配りが出来る素敵な蝶さんと蛾さんであると思う。
商売であると言う立場もしっかりしているとは思うが
ちょうど良い距離感があるのは気持ちの良い事だと。
中にはのめり込んでしまった方も居たようだが、作務衣さんはその距離感を大切にしておられると思う。
それが長続きの秘訣では無いだろうか。

私と彼女もまた長続きした。
始めは3日、3週間、3ヶ月
3の周期で持てば良いかな、くらいに思ってた。
気が付けば3年を超えてもイチャイチャしてる仲良しになってた。
ある時彼女が

「長続きするコツってなんだと思う?」

「んーお互い求め過ぎ無い事かな」

と答えた。
そう、この”求めすぎない”距離感って長続きするコツだとオレは思っている。
どちらかが独身、もしくは単身者で時間の自由がある程度あると、相手の都合より自分の都合で欲が出てしまうと思うのだ。
オレと彼女はお互い既婚者である。
もちろん子供もいて、家庭がある。
それがお互い理解出来てるからこそ無理も言わない、それが心地良いのだ。
もちろん今暇だから電話したいなぁとか、明日暇だから会いたいなぁと思う事はある。
けど、それはこちらの都合だ。
お互い自由は効かない。
そう思っていなければこちらの都合を押し付ける事が出来ないのは当たり前。
その当たり前を守る事は長続きの大前提であると思っている。
お互いの誕生日も会う事は出来ない。
それも承知の上。
いつ会えるか分からないのだから、誕生日にはLINEで言葉を交わすだけだ。
誕生日だからと言ってプレゼントをするとか、何か品物を…ってのもお互いやめようと理解してくれてた。
「誕プレは消えるモノにしようね」
って言ってたのを思い出す。
お互いの誕生日の近くで会える時はささやかながらのスィーツでお祝い。
消えて無くなるから…それが嬉しいのである。

今ではもうそんな事も出来ない。
彼女の誕生日は奇しくもカミさんの誕生日の1日前…
初めてそれを知った時、彼女に言われた。
「私の方はいいけど奥さんの誕生日、絶対間違えちゃダメだよ」
まぁ間違う事は無かったが、カミさんの誕生日前日に
「今日誕生日だっけ?」って聞いた事はある
ヒヤヒヤモノであった…。

彼女の誕生日はもう一生忘れる事は無いだろう。
そして命日も…。

「そろそろ店も片付けますかぁ」

「そーね」

「あ!」

音のするドアへ目をやると
作務衣さんの姿だ

「きゃーサムちゃんいらっしゃ〜い」

もうヘロヘロペロペロの作務衣さんだ

そして私とママは揃って
「サムちゃん誕生日おめでと〜」
と用意してあったクラッカーを盛大にぶちまけた。