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スナックやじろべえ物語4

「あれ?兄さん、ちょっと元気無いんじゃない?」
「…そ、そうっすか??」
「うん、なんかそう見えるけど」
「さすがママですねぇ…隠せないや…」
私はうつむきながらグラスを磨いていた。
何か虚しさが心の大半を占めていたのをママには見透かされていたようだ。

「ママは知ってると思いますけど、私、note書いてるんですよね。
もちろん自己満足の記事ばかりで、自分用に書いてるんですが
実はとある目的があって続けてきました。」
「へー、その目的って?」
「ま、ある人へのメッセージを届けたかった…って感じです。
で、最近になってですが、その目的はどうやら達成されたようなので…」
「そうなんだ、良かったじゃん」
「まぁ良かったですよ。けどやっぱり寂しいんですよね。
届いたことは嬉しいんですが、もう帰って来てはくれないんだと言う事が確定してしまったので…
これはやっぱり悲しいんですよね」

そう、私にはここnoteにいる意味がありました。
未練ではないですが、悶々としていた‘’あの人‘’との繋がりが唯一ここでしか無かった、と言った方がいいのかもしれません。
それが絶たれたとなれば…
細い糸だったんだなと。

出会いのきっかけはホンの瞬間。
それが繋がったあの日から、糸はパイプとなりトンネルとなり、双方向で意思疎通が可能だとばかり思っていた。
そう、私だけがそう思っていたのだと。簡単に切れると思ってなかったのは私だけで、あの人はきっとトンネルを閉じることは簡単で容易い事だったんだな、と。
まだそうは思いたくないですが、実際キツイですね。
もう月日も経っているのでそれ程感傷に陥ることもないですが、ここらで断ち切る事、それが大事なのかなと思うようになりました。
LINEの背景画も変わっていました。
ここでの動きもありました。
私としてはそれで良かったんだと。
あの人が動いてくれた、最悪病に臥せって状態も酷いのかと…
そんな心配ばかりしてましたが、携帯も、ここnoteも触ってくれた。
それは元気な証拠なのではないだろうかと。
便りが無いのは元気な証拠。
そう勝手に信じて私のここでの目的は達成されたのかと思います。
私のここでのメッセージが届いて、途絶えるってのは覚悟もしてましたが、元気で居てくれた事は素直に嬉しい。

次の歩みを進めて
きっと自己啓発に仕事にと打ち込んでくれると信じても良さそうです。
もうこの想いが届く事は無いですけどね。
そう思うとどんな方向から書こうかと悩む所でもあったけど、あの人がいつもの暮らしをしてくれてる、そう思えるキッカケがあった事に嬉しくもあり悲しくもあり。
ま、それは置いといて
あの人が元気でいてくれた
それが分かった事で、私がココにいる意味が終わってしまったのは確か。
悲しさと嬉しさが半々です。
さてさて…
この先…
もう、ここに居る意味も無い訳で自分なりの使命も終わってしまった様な気がしてなりません。

「ねえ、兄さん何考えてるの?」

「え?別に…」

私はグラスに映る自分の歪んだ姿に笑うしかありませんでした。

「ママはそんなモヤモヤした時なんて、どーしてるんですか?」
私は思わず興味本位で聞いてみた。

「私はね、そんな時は…
長い人生で考えるとそんなモヤモヤした時間もあるのが人生だし、その時間はほんの少しの時間だと思うようにしてるの。
今、世間はとても厳しい状態だけど、それも私たち人間の寿命80年で考えたらきっとその中の数年じゃないかしら。軽く数年とか言ってもその時間を過ごすのはツライかもしれない。けど私はここに来れば常連さんもいるし、お客さんが居る。なんか仲間というかファミリーというか、そんな感じで居させてもらえてるの。それには心も身体も健康じゃなきゃいけないし、もちろん家族の健康もだし、兄さんやお客さん、お年寄りや子供もね。自分の出来る事をして皆が普通の生活を取り戻せるまで”気を付ける”事が大事。
兄さんも今はツライかもしれないけど、自分の心が病んでしまったら私もツライしここのお客さんに誰がお酒を作るの?」

「…え?そこですか?」

「え?そこでしょ」

ママの顔は笑っていたが…
本心だろうか…冗談だろうか…?
いつも思うがここのママはホントに読めない人だ。

今夜はメーカーズマークもVIPでも開けさせてもらおうかな…



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言わずと知れたバーボンのメーカーズマーク
私もこのお酒は好きだ。
もちろんお値段もお手頃に入手出来る逸品だと思う。
私がまだ若い頃、同僚と飲みに出かけた先にVIPがあった。
こちらは非常にコスパの悪い高額な価格だったと思う。
それを同僚3人で割り勘にして買った。
それぞれいつ来て飲んでもいい様に3人の名前でキープした。
トップの蝋を切って開ける、それは斬新な印象を受ける。
VIPの蝋は現在金色から赤色に変わっているようだ。
私が覚えている範囲では、このトップの蝋は
一つ一つ手作業で行われているとか。
勿論、流れる蝋にどれ一つ同じ模様になるはずもなく
それが私の遊び心をくすぐるのだ。
バーボンの傑作、手軽に手に入るので是非ロックでお試し頂きたい。
その後、3人でキープしたはずのボトルだが
私が再び訪れた時にはもう既に空瓶になっていたのは言うまでもない…
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