岬の兄妹

映画『岬の兄妹』を見た。いわゆる胸糞系映画なのでおすすめはしないけれど好きな作品だった。
なおこの記事は完全にネタバレを含むので嫌な方は読まないでください。

足が悪い兄と知的障害のある妹が暮らしていて、兄がリストラされたのをきっかけに2人は貧困に追い込まれていく。ふとしたことから妹は身体を売るようになり、兄はそれを斡旋して2人は日銭を稼いでいくというあらすじ。

妹はしていることの意味すらわかってないから嫌がっているわけでもない。ただ人の道を踏み外してるのは兄はよくわかっている。
でもそうして2人でお金を稼いでいるときのほうが人間らしい生活ができているのがなんとも皮肉で、胸が痛くなった。
お金ない時、ティッシュ食べて「甘いね」とか言ってるんだよ。お金があれば、マックにも行けるし近所のお祭りに遊びにだっていける。贅沢とかじゃない、普通なら日常でしかない幸せに、手が届く。

兄がまた、ひたむきでまっすぐな好青年とかじゃないのがいいんだよな。ちゃんと卑屈で狡くて汚い。人から馬鹿にされたり疎まれて生きてきて、まっすぐでなんていられないよな。わたしだって、その環境なら歪むよ。

妹のことも100%の純度で受け入れて大切に思えてるわけじゃない。どこかで「こいつがいなけりゃ」「こんなじゃなけりゃ」ってきっと思っていて。けど見捨てないで一緒に生きてるのは、やっぱり大切なんだろう。人の気持ちは0か100ではないから。

客に「チェンジで。″こんな子″連れて来ちゃだめでしょ、何考えてんの?」みたいに言われるシーンがあるんだけど、その時の兄はどう思ったろう。ぐうの音も出ない正論でその通りなんだけど、どこかで「こんな子ってなんだよ」と妹をそんな風に言われて苛々したのかもしれない。でも、生きていかなきゃいけないから、「じゃあ1万じゃなくて8千円でいいんで」とか食い下がろうとするんよね。その姿が惨めで、見ていられなかった。

いろいろあって、ラストははっきり結論は出さない感じのちょっと歯切れの悪い終わり方なんだけど、こうやって、この世界のどこかでこの兄妹の生活は続いていて、いい方向にいくのかもしれないし悪い方向にいくのかもしれない。誰にも気付かれずひっそりと、それでも続いていくんだろうなって感じがしてわたしは嫌いじゃなかったなー。

ちなみに、生保受給しろよとかそんな犯罪すぐ捕まるだろとかそういう正論はいらないんです。
ただただ、社会的な弱者というのは確かに存在していて、その人たちだって生きていて、自分で生きていきたいんだろうな、とか、善か悪か、黒か白かって、他者によって簡単に決められない。とかそんなことを考えました。
第一、自分がいつ「そちら側」にいく可能性もあるんだってことも。

この映画を見て、何かが変わったわけじゃないけど見てこうやっていろんなことを考えられてよかったなってわたしは思いました。

いい映画だった。

ゆれるとか、空白とか、こういう見てからずーんと来る映画、わたしは好きです。

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