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Maji and Rebirth

2021/10/19 gravityには書ききれなかった。
もう一つの真実。

日本の何処かに実在する、何処にでもいそうで、何処にもいない。そんなおっさんになりきれない男の子の世界線。




とある火曜の夜。
とある企業の執務室で、それは起こった。


高林『異物混入です!』

寺岡『パターン青!事案です!』

わたし『なにごとだ!? 状況報告!』

のんたん『お菓子箱に!♡』

高林『異物混入です!』

のんたん『ばったもんが入ってます♡』

わたし『総員、第一種戦闘配置!』

高林、寺岡『御意』
のんたん『りょ♡』


ミーティングエリアに移動し、プロジェクターを起動。
プロジェクターの光は夜の帳を壊し、埃たちのブラウン運動を観測することになる。

そこに写し出されたものは、

『源氏パイ』『ホームパイ』



わたし『誰だ!お菓子箱にホームパイ入れたやつ!』

のんたん『だね♡』

高林『本職ではありません!』

寺岡『‥‥』

わたし『怒りはしない、正直に話しなさい』

寺岡『‥‥』

寺岡『小生、小生は‥』

寺岡『不当な扱いを受けているホームパイが不憫でなりません!  であります!』

わたし『前にも説明したろ』

わたし『お菓子箱に求められるお菓子とは』

わたし『カントリーマァムのような100%の優しさと甘いお菓子だ』

のんたん『だね♡』

わたし『また、それは紛い物ではない本物が求められる!』

のんたん『だね♡』

高林『当たり前だろ!  寺岡?悩みでもあるのか?』



寺岡『みんな騙されてる!』

寺岡『本当の優しさとは?』

寺岡『カントリーマァムは甘いだけで、田舎のママが作っては、断じてない!』

寺岡『みんなの希望であって信実ではない!』



わたし『寺岡。。。信実とはな、人の数だけあるものなんだよ。』

わたし『だがな、事実は1つだけだ!』

のんたん『だけだけ♡』


わたし『源氏パイはな、1963年に日本初となるパイの量産化に成功し、その翌々年にパイ生地に砂糖を折り込んだ源氏パイとして発売されたんだよ。Japanese Spiritなんだよ』

わたし『モンドセレクションで、5回連続ゴールドメダルを受賞してるんだよ!』

のんたん『モンド♡』

高林『寺岡〜なんだか静かになったな〜』



プロジェクターはチリチリとかすかな音を立てる。埃は不規則に、時に無邪気に運動し続ける。レンズの温かみが早春の朝のそれのように感じたその刹那。静寂の中、最後の呼吸を吐き出すように。

寺岡『僭越ですが、こちらをご覧ください。』

素早くダブルクリップ、パワポが起動する。
プロジェクターには、不釣り合いに鮮やかな画像が映し出される。


寺岡『源氏パイとホームパイその闘争』

寺岡『源氏パイの由来をご存知ですか?』

のんたん『光GENJI?♡』



静寂‥



寺岡『発売翌年のNHK大河ドラマが「源義経」に決まったことから、源氏パイと名付けられたんですよ』

寺岡『もし、カントリーマァムが源氏マァムだったら?』

寺岡『もし、うまい棒が源氏棒だったら?』


静寂‥


寺岡『許せないですよね。』

わたし『そんなことは些細なことだ。』

わたし『読売ジャイアンツ?巨人だぞ?』

わたし『広島カープ?鯉だぞ?野球どころか、陸で生きられないぞ?』

わたし『名前じゃないんだよ。』

わたし『歴史と実績なんだよ。サラリーマンならわかるだろ?』

寺岡『想定内です。』

寺岡『ホームパイは源氏パイの劣化版のアイソトープ、もしくは同素体ではないんですよ。』

寺岡『こちらをご覧ください。』



パワポには、筑紫A丸ゴシックフォントで大きな文字が、わかりやすい表とともに映し出される。全てのエビデンスが白日の元に‥

悲しい現実。分かっていたのか。。。


◯ホームパイ
1968年に発売開始。薄く伸ばした生地にバターなどの油脂類を塗り、丁寧に約700層に折りたたんで、カットしたものを焼き上げて作るパイである。

原材料
小麦粉、植物油脂、砂糖、バター、発酵種、全粉乳、食塩、脱脂粉乳、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、水あめ/乳化剤、香料、カロテノイド色素

◯源氏パイ
原材料
小麦粉、マーガリン、砂糖、
食塩、香料、着色料


寺岡『マーガリンではなく、バターが入っていますよ?』
寺岡『700層ですよ?』
寺岡『歴史もそれほど変わりませんよ?』
寺岡『History、Spec、優しい味』


寺岡『これこそ、Absolutelyではありませんか?』

寺岡『ホームパイこそ、お菓子箱に相応しい。』


高林『おまっ!、そこまで!』


のんたん『それはいかんよ、寺岡くん』


わたし『Exactry!危険分子だな!』


わたし『あの悲しいクロニクル、きのこたけのこ戦争を忘れたのか?』

のんたん『〇〇主席(わたし)!保安警備招集許可を!』



わたし『寺岡。。。最後のChanceだ。』

わたし『お菓子箱にホームパイはなかった。』

わたし『いいな。』

のんたん『そんな!許されません!』

静寂‥



寺岡『殉死の覚悟です。』



静寂‥



わたし『のんたんさん 水を持ってきてくれないか?』

のんたん『?   まさか!』

わたし『そのまさかだ!』

高林『禁断のテイスティング?』

寺岡『!!!』

わたし『源氏パイ、ホームパイ セットで用意してくれ!目隠しも頼む!』

高林『かしこまりました。』



準備をする時間。
のんたんは、スマホの発信ボタンに親指をかざしている。
高林は、形状から判別できないよう、それぞれを小割にしているが、緊張のため手元がおぼつかない。
重く、暗い、空気が淀む。
こんな気持ちは、経済的な理由で第一志望大学にいけなかったとき以来だ。
相変わらずプロジェクターはチリチリと音を立てる。埃は無邪気に踊っている。



高林『準備できました。。』

わたしは厳かに並べられた、それらを凝視し、生唾を飲む。

わたし『いこうか』

のんたん『〇〇主席!本当になされるのですか?』

わたし『うむ』

わたし『寺岡の気持ちを無碍にはできない』

わたし『ここまでの人生、悪くはなかった』

高林『〇〇主席!』

わたし『行くぞ!』



わたしを徐に目隠しをしばる。
先程食した、カントリーマァムをリセットするため、水を一口飲む。
静寂の中、クチュクチュ音だけが、生を感じられる。


わたし『いざっ!』


片方を手に取る、ブショネを確認するかのように、匂いを感じる。
徐に頬張る。
ゆっくりと反芻する。



うまい。



リセットするために、水を一口飲む。
静寂の中、クチュクチュ音だけが、生を感じられる。

わたし『つぎっ!』

差し出された、もう片方を手に取る、再びブショネを確認するかのように、匂いを感じる。
徐に頬張る。
ゆっくりと反芻する。


うまい!

のんたん『〇〇主席!』

わたし『時間をくれ』


静寂‥



吐き出すように
呻くようにつぶやく


わたし『高林!次!』

高林、寺岡『!!!』
のんたん『ヒッ!』


一呼吸おいて
高林『かしこまりました』

再び準備をする時間。
わたしは、目隠しを外し、目元を押さえる。
昂っている心を悟られないように。
のんたんは、相も変わらずスマホの発信ボタンに親指をかざしている。
高林は、形状から判別できないよう、それぞれを小割にしているが、よく見たら、爪が汚い。衛生的に大丈夫か。
重く、暗い、空気が淀む。
こんな気持ちは、ドラクエでフローラを妻に選んでしまった時以来だ。
相変わらずプロジェクターはチリチリと音を立てる。埃は無邪気に踊っている。 

心を鎮めたわたしは、再び目隠しを縛る。
その手にはついつい力が入ってしまう。


高林『準備できました。。』

わたしは厳かに並べられたであろう、それらを想像し、生唾を飲む。


2セット目。


わたし『さぁ延長戦といこうか』

片方を手に取る、ブショネを確認するかのように、匂いを感じる。
徐に頬張る。
ゆっくりと反芻する。なんとなく高林の爪を思い出す。



うまい。



リセットするために、水を一口飲む。
静寂の中、クチュクチュ音だけが、生を感じられる。


わたし『つぎっ!』

差し出された、もう片方を手に取る、再びブショネを確認するかのように、匂いを感じる。
徐に頬張る。
ゆっくりと反芻する。なんとなく高林の爪を思い出す。


うまい!




沈黙のときが流れる。


わたしの額に一筋の汗が流れる。
鼻をつたい、分水嶺のように片側のくちびるへ。
それはいつかのほろ苦い懐かしい味がした。


そう、この判断を口にしたとき、
二度ともとには戻れない。


のんたん『もうだめ!』

親指を押し込もうとする、のんたんの手を優しく抑える。



何をもって正しいとするかは、わからないけれども。
興奮とも冷静なのかも、わからないけれども。
もう元に戻れない判断を、することになるけれども。
たくさんの「けれども」飲み込んで
「それでも」こそが美しい。



この判断にかける時間に長すぎるということはない。
そして、ゆっくりと吐き出す様に絞り出す。







わたし『どっちも、ズッ友!』







わたし『You copy?』

寺岡『I copy!』
のんたん『I copy!』

一呼吸遅れて
高林『I copy!』


わたし『どっちも本物で、偽者なんだよ』

わたし『偽物の方が圧倒的に価値がある。そこに本物になろうという意思があるほど、偽物の方が本物より本物だ。』

わたし『寺岡は正しい』

わたし『ホームパイをお菓子箱に入れることを承認する。正式には明朝、部長の許可を得てからだがな。』

寺岡、高林『!!!』
のんたん『♡』


わたし『これは重合反応なんだよ』

わたし『重合反応とは、ある物質体(モノマー)が一つ一つ連結していくことで次第に大きな分子量の物質(ポリマー)を作り上げていく反応のことを指すんだよ。』

わたし『チームとはこういうことを乗り越え、結束し、重合反応を起こし、より強固なものになるんだよ』


わたし『寺岡!辛かったな』

寺岡『ありがとうございます!!!』 

寺岡は、深々と頭を下げたあと、天を仰ぐ、そこには一筋の涙が‥

高林『寺岡!辛かったな!水臭いぞ!』

のんたん『みんな!ズッ友 だよね♡』

『Yes,We copy!』


#違いがわかる男
#まぁまぁリアル
#寺岡は来月退職
#のんたんは来春産休
#高林と二人きり
#チーム崩壊
#gravity文字数制限あるからNOTEに来た人


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