Fly a Letter to the Wind ~プレゼント
「そういや俺、今日誕生日なんだよね…」
「えっ?そうなの?早く言ってよ!なんも準備してないし!」
「いや、別にいいよ。そういうつもりで言ったわけじゃないからw」
「じゃあ1週間くらい過ぎてから言ってよ!」
「はっ?」
「今日誕生日って言ってる人を目の前に何もしないのも嫌じゃん!」
「いや、本人が良いっつってんだから別に良いじゃんw」
「良くないし!ちょっと待ってて!」
そう言うと翼は部屋を出てった。
(せわしねぇ女だな…)
翼とはアパートの隣同士に住む間柄だ。
5ヶ月程前に引っ越してきた翼が挨拶に来た時、何やらこの街について色々と訊いてきたので一度周辺を案内したのがキッカケで仲良くなった。
以来、たまに何となく会って話したりしたりするような付き合いが始まったのだ。
翼が部屋を飛び出してから2~3分程度か…。
「ハッピバースデートゥーユー♪」と、ちょっとしたどや顔で歌いながら戻ってきた。
「私の強運を甘く見ないでよ」
「別になんとも思ってねーしw」
なんか一人でバタバタしてる翼の行動が可笑しくて俺は笑っていた。
「はい、まず誕生日といえばコレでしょ!」
そう言ってテーブルの上に置かれたのがショートケーキだった。
「たまたま食べようと思って買ってきてたの。ちょっと歩にあげるの口惜しいけどね…」
「いや、いいよwじゃあお前食えよw」
「じゃあ半分こね?」
「この小さいケーキ半分こかってw」
「もう!文句ばっかうるさいなぁ~!はい、プレゼント!」
そう言ってショートケーキの横に置かれたのは…
ちょっと玩具感の強い飛行機の模型だった。
「え?何コレ?」
「飛行機ですけど?」
「いや、見れば分かるけどさ?俺はお子様かってw」
「ちょっとー!人の宝物に対してヒドくないですか!」
「え、いや…なに?てゆーかお前飛行機好きなの?」
「こう見えてもね、小さい頃はパイロットになりたいなぁ~とか思ったりしてたんですよ!」
「パイロット?女にしては珍しいね?CAとかじゃなくて?」
「うん、なんか空が好きでね。空を飛びたいな~って思ってて」
「名前が翼だからとか?」
「そんな安直じゃないし!あ、そういえば!」
「なに?」
「飛行機といえば昔ちょっと不思議なことがあったんだよね…」
「不思議なこと?え、なにそれ?」
「えー、絶対嘘とか言うから言わなーい」
「いや、そこまで言ってそりゃないよ!嘘とか言わないからちょっと言ってみ?」
「絶対だよ?んとね───」
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「え、怖っ!マジで?ちょっと怖いじゃん!それ作り話だべ?作り話でいいよ、それ!」
話を聞き終えた俺の感想はそれだった。
「本当だし!ノンフィクションだから!確かに今とかだと私も怖いと思うかもだけど…。でも当時は怖いとかなくてさー。むしろちょっと温かい気持ちになったのがまた不思議だったんだよねー」
「ふーん。よく分からんけども…」
「てゆーか絶対信じてないよね!?やっぱ言わなきゃ良かったー!」
「いや、ごめんごめん!決してそういうつもりじゃないんだけどね」
「ふん!」
「そう怒んなよ。あ、それよりこれ良いのか?」
俺は飛行機の模型を手に取った。
「歩はそれの価値分かってないしなぁ…」
「え、どゆこと?」
「それ今や非売品のレア物なんだよ」
「マジで?じゃあ大事な物なんじゃないの?貰いづれーわ!」
「一応私の中の大事な物を持ってきたけど…。でもまぁ、私の価値観だから歩にとってはしょーもない物だよねぇー」
「いや、なんかそれ聞いたらスゲー物に見えてきたわ…。ありがたくいただいてもよろしいでしょうか?」
「本気で言ってる?」
「うん、マジマジ!」
「ちなみに売ったら結構な値がつくよ」
「マジ?」
「売ったらブッ飛ばすけどな!」
「怖いわw」
これが翼と出会ってからの俺の最初の誕生日の話。
そして二度目の誕生日───
今年はちゃんと準備したと胸を張った翼は大きめのバースデーケーキを用意してくれた。
「はい、じゃあプレゼント!」と綺麗に包装された箱を貰う。
俺は中を開け…
「ちょ、お子様かって!俺はお子様ですかw」
反応が1年前の再現になってしまう。
それはドラ○もんの目覚まし時計だった。
「約1年半、井瀬歩という人間を観察したところ今あなたに最も必要なのは目覚まし時計と判断しました」
「いや、にしてもドラ○もんって!どんだけ空を自由に飛びたいんですか!」
「可愛いじゃんドラえもん!歩の部屋は殺風景だからね、こういうのを少し置いといた方がいいよ?絶対」
「なんだよ、それw」
「そもそも歩の場合スマホもマナーモードにしっぱなしだからアラームもマナーモードになってんじゃん?アラームにマナーは要りませんよ!」
「いや、俺に対してのマナーですから!俺の睡眠を妨害しないためのマナーですから!」
「アラームの役目果たしてないじゃん!いっつも遅刻ギリギリで慌ててるのは誰ですか~!」
「……」
俺は右手をそぉーっと挙げた。
「はい、じゃあ明日からはドラ○もんに起こしてもらいましょうね」
「ドラ○も~ん…翼がいじめるよ~」
「こらw」
俺は飾っておいた飛行機の模型の隣にドラ○もんの目覚まし時計を置いた。
翼はその様子を眺めながらちょっと満足そうに微笑み「そのゾーンを私のプレゼントで埋めるのも悪くないかもね」と言っていた。
俺はその言葉が何だか嬉しかった。
そしてその翌年が───
翼に祝ってもらう最後の誕生日になることをこの時の俺には知る由もなかった。
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