Fly a Letter to the Wind~マフラー

翼と出会ってから迎えた三度目の誕生日。

1年目は航空機の模型。

2年目はドラ○もんの目覚まし時計。

大人に渡すプレゼントとしてはどうなんだろうってのが本音ではあったが、祝ってくれる行為そのものが嬉しいわけで。

やっぱり今年もワクワクしている俺がいた。


夜、インターホンが鳴る。

俺の家のインターホンの9割は翼が鳴らすものだった。

ドアを開ける。

ほらな?

やっぱり翼だった。

しかし違和感が半端ない。

まだ9月だと言うのにマフラーをしているのだ。

半袖にマフラー。

「お前…首だけ冬だぞ?」

ニヤリと笑う翼。

「ハッピーバースデートゥーユー」

翼はマフラーを外しそれを俺の首に巻いた。

これがバースデープレゼントのようだ。

「ちょ、季節外れもいいとこだなw」

「どうせ冬が来るんだから何でもいいでしょ?」

「それは冬に水着をプレゼントしても良いってことだからな?」

翼の誕生日は真冬なのだ。

「冬に水着を買いに来る男…。そんな怪しい行為があなたに出来るかしら?」

「帽子にグラサンとマスクしてくわ」

「怪しさ増すよwそれ通報レベルだからwてゆーか冬に売ってるかな~?こっちは夜な夜な眠たい目をこすりながら編んだんだからね~」

「え?そうなの?」

手編みと知った俺はメチャクチャ嬉しくなった。


「つーかさ、普通プレゼントを思いっきりオープンにして来る?しかも自分で着用しながら…なんか紙袋に入れたりとかしない?」

「相変わらずうるさいな~。おとなしく喜んでなさいよ~」

冗談っぽく膨れる翼。

「でもまぁ…お前にしては上出来なんじゃない?」

「でしょ?」

膨れっ面から一変、得意気な表情になる。



“ありがとう”

このたった一言がなかなかどうしてだろう…。

俺はいつも口に出来なかったんだよね。



「実は去年の誕生日に渡そうと思って編み始めたんだけど全然間に合わなかったのw」

「えっ、なんだそりゃw」



“ありがとう”も言えない俺が
“好き”だなんて言えるわけもなく…




「去年の目覚まし時計は急遽用意した繋ぎみたいなもんです」

「お前、去年は自信満々に“今年はちゃんと準備しました”的なこと言ってなかったっけ?」

「よく覚えてるね?あれはマフラーの存在を隠すためのフェイクみたいなもんよw」

「そんなフェイク入れなくても気付くわけねーじゃんw」

「お隣さんですからね、油断は禁物よ」



そう…。

この隣人という距離が近くて。

ホント近すぎたんだよな。



「俺が気付いたとしたらそれはお前がよっぽどドジか俺がエスパーだった場合だけだねw」




もしも俺がエスパーだったなら…そうだな。

お前の未来を視れたらって思う。


そしたらきっと…

もっと…



「冬が待ち遠しいでしょ?」

ニヤニヤしながら翼は言った。

「俺、冬嫌いなんだけどなぁ~」

マフラーから香る翼の匂い。

その匂いを残して

この冬───
翼は俺の前からいなくなるんだ。

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