Fly a Letter to the Wind~別れ

年末になると翼は毎年のように実家に帰省していた。

俺は実家に帰ったり、彼女のいない友達と過ごしたりとその年によって適当に過ごしていた。

少し変だと感じたのはカウントダウンを終え新年が明けてから。

別に翼とはほとんどLINEとかそういうのはなかった。

何せ隣同士に住んでるからね。

でも『明けましておめでとう』的なメッセージは過去2年すぐに来ていた。

その時俺は、友達と飲みながら騒いでたんだがスマホを確認すると何の通知もなかったからちょっと気にはなっていた。

飲んだくれて寝落ちして…。

昼頃に目が覚めて…。

やっぱり何もなかったから俺の方から『明けましておめでとう』と送った。

少し経ってから返信があった。


『翼の母です。
翼は12月30日に交通事故で亡くなりました。』


目を疑った。

ドッキリ?

だとしたら笑えない冗談だ。

メッセージの続きには通夜と葬儀の場所や日時も書かれており、最後に『翼と仲良くしてくれてありがとう。』と締め括られていた。

心が…
受け入れようとしなかった。

だって、ついちょっと前まで普通に一緒にいたのに…。

普通に笑って話してたのに…。





通夜当日。

まだ信じられない気持ちのまま、俺は翼の実家のある町まで車を走らせた。

式場に入り翼の遺影を見て…
ようやく涙が溢れた。

涙が溢れて止まらなかった。



その日は猛吹雪でホワイトアウト状態だったらしく、翼は帰省途中に車線をはみ出した大型トラックと正面衝突。

即死だったという。



帰り際、翼の両親に
「翼さんの隣に住んでいた井瀬といいます。翼さんには色々と良くしていただきました。もし…もしアパートの件で協力出来ることがあれば何でもしますので…声を掛けて下さい」と伝えた。

こんなこと言う立場じゃないってのは分かってたけど。

何だかこのまま終わりってのがやるせなくて…。

思わず口から出ていた。

そんな俺に翼のお母さんはこう言ってくれた。

「あなたが歩くんね。翼がよく話していたわ。ありがとうね」

それを聞いて俺はまた大泣きした。





次の日曜日。

翼の両親がアパートに来ていた。

あの時はあんなことを言ったものの、やはり赤の他人で…。

ただの隣人で…。

ましてや異性である俺が立ち入るわけにもいかず、自分の部屋で時々響く物音を耳にしながらただボーッとしていた。

翼がいなくなってからの数日…
俺はまるで脱け殻だった。


その夜、突然インターホンが鳴った。

翼のお母さんだった。

生前翼が話していたことを俺に教えてくれた。

隣の部屋の人が同い年で面白くて良い人だと言っていたと。

一人暮らしに不安もあったみたいだけどあなたのおかげでそんなもの吹っ飛んだようだったと。

そして葉書を渡された。

「車の中にあったの。途中で投函するつもりだったんだろうね」

それは俺宛の年賀状だった。

「そういえば…毎年来てましたわ…」

我慢できずにまた泣いてしまった。

「俺…翼のこと…。すいません…。悔しいです。こんなの…」

色んな想いが込み上げてきて上手く言葉にならなかった。

本人に伝えたくて伝えられなかった想い。

そしてもう、決して伝えることの叶わない想いが胸の中で渦巻いていた。

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