Fly a Letter to the Wind~紙飛行機

翼がいなくなってから1年が経とうとしていた。

心の傷を癒すのは時間だとはよく言うが、時間ってのは本当に優秀なもので二度と立ち直れないと思っていた俺も少しずつ歩み進めることができていた。

窓辺で燃えるように咲く赤いシクラメン。

結構神経使ったけど…ちゃんと咲かせたよ。

テーブルの上、隣同士に並ぶ航空機の模型とドラ○もんの目覚まし時計。

その前方にA4の真っ白い用紙を置き、俺はペンを取った。

自分の中にあるやり切れない想いってのを言葉にして吐き出したくて…。

届かないって分かってるんだけどやっぱり伝えたくて…。

自己満足にもならない手紙を書くことにした。

『拝啓───』


───────────────

気付いたら夜が明けていた。

そのまま眠ってしまっていたようだった。

12月30日。

翼が亡くなってから1年…。

ふと目の前にあった目覚まし時計を見ると0時丁度で針が止まっていた。

電池が切れたかな…?

そして、何故か殴り書きしたA4用紙は航空機の模型の上に乗っかっていた。

それを見て、ふと思い付く。

手紙を書いたのはいいけど自分で保管してるのもアホくさいし、かといって渡したい相手ももういない。

どうしようか困っていたのだが、そうだな。

そうしよう。

俺はA4用紙を折り始めた。






いつか、翼と来た砂浜に立つ。

寒い。

風が強い。

マフラーに顔半分を隠す。

懐かしい香りが仄かに漂い胸が締めつけられる。

1年経った今でも俺の気持ちは当たり前に何も変わらないよ。

でも、きっといつかは新しい恋を見つけるのかな。

それはそれで寂しいな。

ちゃんと好きって言えば良かったよ。

それで関係が壊れたとしても…。

お前がいない世界になるよりは何倍もマシだった。

馬鹿だな。

何も言えなかった俺も…死んじまったお前もさ…。

俺はA4用紙で折った紙飛行機を構えた。

「飛んでけー!」

俺の馬鹿みたいな叫び声と共に放たれる。

そしてそれは…

海に向かって飛ばしたはずの紙飛行機は潮風によって俺の頭上高くに舞い上がった。

「あれ…ヤバ」

海に落ちて消えるのを想定していた俺はちょっと焦る。

道端にでも落ちて誰かに見られるのはさすがにちょっと恥ずかしいだろ。

見失わないようにしっかり目で追う。

しかし、しっかりと目で追っていたはずの紙飛行機は空中で何かに吸い込まれるかのように消えた。

「え…?」

俺は唖然とする。

「消えた…?嘘だべ…?」

そんな驚きと同時に俺は、翼が言っていたあることを思い出した。





───「飛行機といえば昔ちょっと不思議なことがあったんだよね…」

「不思議なこと?え、なにそれ?」

「えー、絶対嘘とか言うから言わなーい」

「いや、そこまで言ってそりゃないよ!嘘とか言わないからちょっと言ってみ?」

「絶対だよ?んとね…私が小学6年生の時の12月30日だったかな…?部屋の大掃除してて窓を開けてたの。そしたら急に窓から紙飛行機が入ってきて…」

「紙飛行機!?」

「私の部屋2階だったしすぐ外も見たけど誰も人いなくて不思議だなーって」

「へぇー」

「それだけじゃないのよ。その紙飛行機ね、手紙になってたのよ!なんか、ラブレター…みたいなんだけど…でもなんか叶わない恋みたいな…内容で…」

「で、どうしたの?それ?」

「なんか捨てられなくて…机の引き出しに入れといたんだけどある時見たら無くなってたの」

「怖っ!それ怖くない?」

「何回も読んだから結構覚えてたんだけど…今は断片的にしか思い出せないなぁ…」

「例えば?」

「“もう届かないけど、好きだったよ”みたいな?」

「…へ、へぇー」

「なんでちょっと引いてるのよ?」

「いや、そういうクサいの苦手なんだよ」

「えー、ちょっとロマンチックじゃん!好きな人には届いてないかも知れないけど私の胸にはちゃんと届いたよ、って思ったし」

「怖っ!お前も怖っ!」

「うるさいなー!もう!」───




いや、まさかな…。

でも、繋がるワードが多すぎて一概に偶然とも思えない俺もいた。

「いやいや、まさかだよな…でも…」

知らず知らずのうちに涙が溢れていた。

それはどういう意味で流れた涙だったのか…。




『私の胸にはちゃんと届いたよ───』






「ありがとな、翼。じゃあな」

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