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日記未満 #6

恋愛が苦手だった頃と、東京の早朝が見たかった事。

大学3年の梅雨明け頃、コロナ禍も2年目に突入し、家にいるのも鬱陶しくなったので、友人に誘われたサークルに入った。新生活の中で「友達を作る」という期間がなにより苦手で、大学に入ってばかりの頃はバイトにしろサークルにしろ勝手に居心地の悪さを感じて萎れていたが、大学も折り返しとなると、なんというか、新しさも緊張もなく、なんか寂しいな、と思った。自分の生活が安全すぎていて、自分が主役である感じが全くしなかったのが気に食わなかったんだと思う。なにか起こさなきゃと、新生活に身を投げた。

友人は、ライブがあるから見においでと下北沢のライブハウスに私を連れて行ってくれた。それは私の紹介も兼ねてと思ってくれていたらしいが、それにしては、友人は知っている人など1人もいないフロアの中に私を放ったらかしにした。こういうのが苦手なんだよ!と、早速こんなことをした余計な自分に後悔して、打ち上げなんかいけるかと吐きかけたが、何も言わず友人をおいて帰った。

1ヶ月ほど経った頃、私を放り出したことを思い出してか、友人がサークルの人たちに私を勧めてくれ、夏のライブに出るためのバンドに入れてもらった。友人はそこにはいなかったが、みなとても素敵な人たちだった。どう弾くか、どんな抑揚をつけたいか、どんな雰囲気にしたくてどんな気持ちで演奏するのか、いろんなことを話し合いながら曲に書き込んでいくことがとても刺激的で、やっぱり入って良かったと思った。一度ライブに出たあとは、他の同期と仲良くなるまで時間はかからなかった。途中から入ってきた私に、同期はとても優しかった。

私は友達と飲むときサシが多いが、同性より異性の友達の方が少し多くて、異性とサシで飲むことも度々ある。気が合いそうだったり面白そうな人だと思ったりすると自分から誘うこともあって、そのとき恋愛的な意味は全く持たずに誘っているので、それをわかってくれる人としか飲みに行ったりはしないのだけど、そのサークルにはそのことを理解してくれる人が多かった。

男女間の仲が恋愛的な、ましてや肉体的なものに安直に結びついていくことが私は嫌いだった。友達だから傷つけるのも嫌で、それで安心するならと付き合ったことも何度かあったが、結局その関係にあまり心地よさはなく、プライベートに靴を揃えずに入り込まれるのが苦手で、少しずつ疲れていくのが嫌になり別れた。別にどちらが悪いわけでもない。だけど、ただ朝まで冷たい都内を散歩したり、夜通し公園で遊んだりすることが、どうして異性とだとこんなに難しいんだろうと思う。

夏のおわり頃、そのサークルの、まだそこまで仲良くなかった人と飲んだ。打ち解けられたことが嬉しかった私は、時間こそ怪しいもののまだ帰りたくなかったので、公園で飲もうと誘った。その子もノリが良く、2人でコンビニに寄って公園で酒を空けた。木の下の地面に座り込んで駄弁っているうちに、2人とも終電を無くした。話していると眠くなって、どうしようかと考えたが、別にどうでも良さそうだったのでそのままその場所で寝た。身体が冷えて目を覚ますと、その子はもう起きていてぼーっと空(くう)を見ていた。夏の湿度が引いた夜明けの空気はとても綺麗で、とても嬉しかった。

煙草を吸って別れて乗った始発の電車の中で急に現実に戻り、異性と、それも寒いのに公園で朝まで寝るなんてダメだろ!と反省した。それは自身への罪悪感というより、社会通念的にそんなことをしては嫌われるだろうという反省で、自分が心地よい時間を過ごしたと感じている分、相手には申し訳ないことをしたんじゃないかと凹んだ。

サークルを卒業したとき、同期で寄せ書きを送り合った。そこにはその子が撮ったその夜の私の写真が貼られていた。ああこれが、あの日深夜の公園にあった心地良さだったんだと、ただただ純粋にあんな事が起こったんだと、ひとりこっそりと感動した。もう会う機会は無いだろうけど、本当に良い奴だ。

2023/2/18

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