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日記未満 #4

二度と戻れない場所に、もう一度戻りたい。

毎年この時期、電車や図書館などで、赤字がぎゅうぎゅうと書き込まれているノートや、付箋だらけの参考書を開く受験生をたくさん見かける。自分の受験時代と重ねて、がんばれ、と勝手に思い、その姿にエネルギーをもらう。私はその人の向こうに人生の一部が垣間見えたとき感動させられる節があり(そういう人は多い気がする)、大学に入ってからしばらく勉強を教えるバイトをしていることもあってか、中でも受験生への思い入れが強い。

担当する生徒の受験勉強が終わった。2月中旬は毎年、塾から生徒の合否連絡が次々に送られてくる。毎度ソワソワするし、次の授業までの間に発表が出る、という回の授業が終わった後は、緊張気味の生徒を落ち着いているフリをして送り出すものの、正直すごく胃が痛いし、気が気ではない。特に浪人生であれば、それは尚更だ。

受験は本当に体力を消耗するし、その上お金の心配もしなければいけない。人と話す機会が極端に減る浪人生の中には、精神的に参る子も少なくなかったりと、受験生それぞれの苦労は本当に計り知れない。努力によって得られたものは決して結果によって失われたりはしないし、その没頭そのものが、何よりの価値を持っていると、私は信じている。

しかしそれは、当事者でないものの目線であって、受験生にとってはただ「合格」しかないのだ。今年の合格報告は本当に嬉しかった。この不安と孤独に耐え、1年間よく、本当によく頑張ってくれた。1人の生徒が育っていく過程と、その成長を見ることができた瞬間というのは、感動するものだ。

自分の受験からもう4年が経つ。大学に上がってから、生活において常に何よりも優先されるほど打ち込んだのは、3年間のビッグバンドの最後の1年だけ。そしてそれも、受験の1年間の努力量ほどの実感はない。今や他人のようだから書くが、受験期の私は上限まで努力していた。授業がなくなった最後の3ヶ月は1日16時間以上勉強し、勉強のこと以外を考えている時間は本当になかった。真面目でストイックで、凄まじいエネルギーを持っていた。

そして、しかしそのせいで、それを超える努力ができていない自分に、ずっとコンプレックスを抱いている。

没頭の中に暮らす人間には、ものすごい時間の流れと美しい緊張感がある。そこから溢れる涙には、世の中で最も意味のある輝きがある。そして当事者でないから、こんなくだらないことを思ってしまう。私はずっともう一度、あの没頭の中に戻りたいんだ。

2023/2/16

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