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日記未満 #9

compartment no 6

集中講義が終わり、いよいよ春季休暇だ。大学生だというのに、何故2月の下旬まで講義や課題に悩まされなければいけないのか......大学生活の本分は少しの勉強とまとまった休暇を自由に消費することにある。家族や地域、延いては国を担い、その責任を負う立場になる前に、我々は残りの人生における自分に合った息抜きの仕方、添い遂げたい生き甲斐、心地よい生活を探さなければいけんというのに、なんでこんなに勉強ばっかりなんだ。今のうちしかないんだぞ!
まあ私はサボりまくって単位が足りず集中講義を受けているだけなので、完全にお前が悪いだろ、マジで何なんだ、という感じだ。カス学生め。

表紙が大変可愛くて毎年買ってしまうPOPEYEの「ガールフレンド」号をペラペラ見ていて、そのスチル写真に惹かれてずっと付箋が付きっぱなしだった『Compartment No.6』。いよいよ公開となったので、晴れて長期休暇を迎えたことだし、久しぶりにシネマカリテまで行ってきた。予告編があまり得意ではないので内容はほとんど知らないまま鑑賞したが、見終えた後は反芻でしばらく話せないほど、豊かで鮮やかな内容だった。簡潔に感想をまとめるならば、人間的な、痛々しく小綺麗でない生々しさが、どの一瞬にも美しく誠実な映画だった。

人の愛の形は様々、という人がいるけれど、その通りだと思う。それは親しい中における愛情でもあれば、隣人愛のことでもある。各々が何を持って愛となすかは親しい仲でも知ることが難しいし、余程の関係でなければ意識的に探さなければまず気づくことはできない。他人の愛の形を知るため、そしてそれを真っ直ぐに受け取るためには相応の気力が必要で、そして時にそれは、精神の余裕なくして不可能だ。

同映画は、そんなことを思い出させてくれるような素敵な作品だった。綺麗とは言えないような客室で相部屋するストレス、慣れない場所での他人への過度な警戒、等級の分かれた車輌、そして人間が成してきた些細な事など知りもしないというような、圧倒的な自然の受容性----全てに正直で、小細工を加えることなく撮られた映像はとても“リアル”だった。それは私たちに、まるで同じ列車旅をしているかのように感じさせた。人間好きにはきっと、2023年で片手に入るような映画作品になるんじゃないかと思う。それくらい素敵な映画だった。サブスクやレンタルで出るようになったら、もう一度だけ見てみようかな。

2023/2/21

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