嘘八百と真昼の月

自分を偽ることが何より最も悪だと思うから、自分の犯した罪や不機嫌な心を忘れないように手帳に書いている。
いつも夕方に起きてはベッド横の閉じた朝顔に水をあげて、洗面所で歯を磨き、顔を洗う。ご飯をゆっくり食べる時間なんて無駄だし、必要最低限の栄養をサプリで摂るだけでいい。それだけでいい。ソファに沈んでテレビを点けると、日が長くなっていてまさに夏へと向かっていることなどを伝えている。わたしにとってはなんの関係もない。だって夕方に起きているから。

たった1人で暮らしていても、苦しさや憤りを感じることがある。そのやりきれなさを背負って足を動かす。外に出て、枯れた花や仰向けになって死んでいる虫をみて、絵を描いた。それはそれは恐ろしく寂しい絵になった。

昔親友との電話の中で、わたしがみたある夢の話をしたことがあった。のどかな町に小さな川が流れていて、その岸辺からみる夕日が忘れられない、それが夢であるにもかかわらず。まるでこの目でみたような、あの焼きつくような情動を言葉にするのが難しく、鼻で笑われた。その日もわたしは絵を描いた。

爪を切ると、わたしの一部だったそれは欠片に変わりゴミと成り果てる。風呂に入るたびに生まれ変わり、寝ては元に戻る。
濡れたタオルを絞ったときのその水は、これからどこへ向かうのだろう。わたしもまた、どこへ行き何をするのだろう。
確証がないものに囲まれて、たったひとつ右手の筆だけが正解を導き出す。

空が赤く染まり、わたしの朝がはじまった。

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