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オロナイン

おとなになってからできるにきびは「吹き出物」と呼ぶらしいって誰か言ってたけど、そんなのどっちでもよくて、「吹き出物」って響きがリアルで悲しいから、27歳の私は頑なに「にきび」という可愛い名前で呼んでいる。

にきびって言うときに、そのにきびが突っ張ってちょっとだけ痛むような、下唇の下みたいな、顎のところに最近ふたつできてしまった。ひとつはまだ噴火前の火山みたいにこんもりしてる(と言っても噴火前の火山の形知らない)んだけど、もうひとつは既に噴火していて、こないだ中の膿を全部出しちゃおうと思って潰したのが失敗したばかり。今はかさぶたになっている。


小学生の頃、親が誕生日プレゼントにティーン向けファッション雑誌を買ってくれた。その雑誌は中学生くらいのお姉さんたちがモデルをやっていて、読者にとってモデルたちは憧れの的だった。モデルたちが通学バッグの中身を公開すれば、その中に入っている文房具は全部欲しくなったし、最近モデルの間で流行っている匂いつきのリップクリームが紹介されれば親にそれをねだった。

ただ私は、リップクリームを塗っても意味がない子供だった。唇が何かによってコーティングされているのがどうも苦手で、塗っても舐めとってしまう。そんなことを繰り返していたある冬、唇の荒れが酷くて気になってしょうがなくなった私は、授業に集中できず泣き出し、保健室に行き、そのまま早退したことがある。嘘かと自分でも思うけどこれは確かに記憶の中に存在する事実。

話を戻そう。憧れの的である中学生モデルたちは、広告のページにも載る。そりゃ憧れのモデルが宣伝すりゃその商品は大ヒット間違いなしだろう。毎月いくつかある広告のページのひとつに必ずあったのが、「オロナイン軟膏」のページ。

漫画ちっくになっていて、気になるサッカー部の男の子(役をしている男子モデル)の部活動風景を、女子モデルが覗いてみると、彼は転んで膝に傷を作ってしまい、すかさずオロナインを出す女子モデル。恋も急接近大成功!みたいな感じで描かれている。そりゃ全読者買うわ。
私もそれに洗脳されたうちのひとり。オロナイン軟膏が欲しいと親にねだるも、所詮は薬なわけで、親は「真似したい!」みたいな理由で買ってくれるはずがなかった。


オロナイン軟膏の広告には思春期の悩みである「ニキビ」も題材にされる。
にきびに白くオロナインを乗せるとたちまち治るらしい。私もいつかそれを経験するのだ!と思っていた。

しかし。
私は中学生になっても、高校生になっても、にきびができなかった。遺伝だった。三姉妹のうち末っ子だけが思春期にきびに悩んでいたが、私と三姉妹の真ん中は、思春期にほとんどにきびができなかった。母親もそうだったらしい。そして父親は思春期にきびがいっぱいの子供だったらしい。

「オロナインを使ってニキビや傷を治す」夢はあっけなく散った。そうして私はそんなことも忘れて大学生になり、やがて大学を卒業した。


初めてにきびができたのは23歳のときだったと思う。
なんか痛いんですよね。なんか痛いしこりみたいなのができて、少しずつぷつっとしてくる。思春期にきびの経験がなかった私は、肌に異物があるのが嫌で、潰して対処した。そのときはすぐ治ったんだけど。

それからだんだんにきびができる機会は増え、最近では2ヶ月に1つペースでできるようになった。しかも全部あごに。その度にどうしたらいいかわからず潰してしまう。それらは残るようになり、かさぶたになりやがて完治する。忘れた頃にまた同じところにできる、を繰り返してる。


今回のにきびができてから、どうしたらいいのかわからなくなり、友達に聞いてみた。

にきびできたらどうやったら治る?
「軟膏とかステロイドとか、なんか塗っとけば治るよ」
そうなんだ。なんかを塗っておけば治るんだ、へえ。

「オロナインも効くっていうよね」

オロナイン、家にあったかもしれないなって感じて家中を探す。が見当たらなくて諦めた。とりあえず「なんか」を塗っておけば治るから、ずいぶん前に眼科でもらった、細菌を殺すらしい軟膏でも塗っておこうかな。


また舐めたり触ってとれたりしたら、むしっちゃうんだろうな。
小学校から何にも変わってないわたし。

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