速読の訓練方法について

前々回、前回の記事では、速読と向き合う上での心構えの部分を中心に書きました。
今回は、具体的な速読の訓練方法について、私が考えて実践しているものを紹介したいと思います。

まず、私が過去に学んだ速読法によると、速読ができるようになるためには次の3つの要素を鍛える必要があると言っています。

  1.眼を鍛える
  2.脳を鍛える
  3.読み方を変える

1の「眼を鍛える」というのは、眼の周りの筋肉を鍛えて、視点移動をスムーズにできるようにすることです。

2の「脳を鍛える」というのは、脳の処理速度を向上させて、眼を速く動かして読んでも内容理解が追いつくようにすることです。

そして、3の「読み方を変える」というのは、通常は数文字ずつをなぞりながら読む読み方を、10文字、20文字といった塊で読み、更に1行を同時に読む、2行を同時に読むというように一度に読み取れる塊が大きくなるような読み方に変えていくことになります。

速読の訓練は、この3つの要素を鍛えることがポイントになります。
私は、過去にいくつかの速読教室で学んだり、様々な速読関連本を読んできましたが、色々試行錯誤して最終的に下記4つのシンプルな訓練だけで十分という結論に到達しました。

  ①視点移動訓練
  ②視野拡大訓練
  ③ページめくり訓練
  ④ブロック読み訓練

これから一つ一つ順に解説していきたいと思います。
まず最初の視点移動訓練のやり方ですが、両手を大きく広げて親指を立て、左右の親指を交互に眼を動かして見ます。
首は決して動かさず、眼だけを動かして5往復くらい見ます。

この時、よく巷にあふれている速読訓練では、できるだけ眼を速く動かすことを推奨していますが、それよりも私はどちらかというと普段意識的に動かさない眼をしっかり動かすストレッチ的な要素の方が重要と考えています。
そのため、無理に速く眼を動かす必要は無いと考えており、それよりも大きくしっかり動かすことが重要だと思っています。

左右の運動が終わったら、次は片方の手を上、もう片方を下にして上下に眼を動かします。
その次は、右手を斜め上、左手を斜め下にして斜めに眼を動かし、次は右手を斜め下、左手を斜め上にして同様に斜めに動かします。

その次は右回りに円を描くように眼をグリグリ5回転ほど動かし、次は逆回転で同様に動かします。

最後は、目の前に親指を立て、それを見た後に遠くの目標物を見て、これを交互に繰り返し5往復くらい見ます。
これは速読とは直接関係ありませんが、眼の焦点を調節する毛様体筋を鍛えることになり、視力回復の効果が期待できるようです。

以上の眼筋訓練は手を大きく広げたりして目立つので、他人がいるところではできませんが、壁やパソコンのモニターの四隅を目標物にして見ることで、仕事中などでも眼筋訓練ができます。
例えば、パソコンのモニターの四隅を左上→右上→左下→右下→左上と順番に見ていき、その後逆向きに右上→左上→右下→左下→右上の順に見ていきます。
更に、右上→右下→左上→左下→右上と見ていき、次は逆向きに左下→左上→右下→右上→左下と見ていきます。
最後に右上→右下→左下→左上→右上と右回転、そして逆向きの左回転で見ることで、上下、左右、斜めに眼を動かす筋肉をまんべんなく使います。

以上が視点移動訓練になります。

次は視野拡大訓練ですが、これは複数文字、複数行を同時に読む「読み方を変える」ための基礎訓練になります。
最初に視点移動訓練と同様に手を大きく広げ、親指を立てます。
そして、眼は真正面に向けたまま、周辺視野で左右の親指を同時に10秒くらい見るようにします。
この時、少し親指を動かして、どこら辺を意識すればよいかわかるようにするとよいと思います。

次に手を上下にして、同様に上下の親指を周辺視野で10秒くらい見るようにします。
その次は右手を斜め上、左手を斜め下にして、斜めに配置した両手の親指を同様に見るようにし、その次は右手を斜め下、左手を斜め上にして同様に見ます。

そして最後は、手を使わずに全方位を周辺視野で見るようにします。
この最後の訓練方法は、改まって速読訓練として実行する必要もなく、例えば街中を歩いている時に周辺視野で周りの風景を意識して見るといった訓練もできるので、時と場所を選ばず、いつでもできます。

次はページめくり訓練になりますが、これは高速で本のページをめくって見ることで、脳の処理速度を向上させることを主な目的とした訓練になります。

ページめくりに適した本は、ソフトカバーでそれなりのページ数があるものが良いので、よくある一般的なビジネス書や自己啓発書などが適していると思います。
また、何度も高速でめくることで、内容が潜在意識に刷り込まれる可能性がありますので、間違っていると思われる内容やネガティブな内容な本も避けた方がよいでしょう。
これを最初に1秒で最初のページから最後のページまでめくりきる位の猛スピード、繰り返しめくります。
縦書きの本ならば右手で背表紙を持ち、左手でページをはじいてめくっていきますが、この時できるだけ本の奥の方も見えるように、大きくしならせてめくるようにします。
そして、めくりながら視野を狭めず本全体を眺め続けます。

次に、ページをめくるスピードを徐々に遅くしてきます。
遅くするにしたがって、徐々に文字がハッキリ見えるようになってきますが、決して視野を狭めず、見開きのページ全体の文字を見るようにします。

更にめくるペースを落とすと、だんだん1ページずつめくるのが難しくなってきますが、続けて練習していけば、かなりページをめくるのが上手になります。

ページをめくるペースが遅くなってくると、右手で背表紙を持った状態ではめくりづらくなるので、本の右端に右手を移し、左手親指ではじいたページを右手の親指と人差し指で押さえてめくっていくというやり方がよいと思います。
最終的には見開き2ページを1秒で見るくらいまで、めくる速度を落とすのがよいでしょう。
ただし、何秒で何ページめくるみたいなことを厳密に考えると、逆にそのことに気を取られて文字を見る方の意識がおろそかになり上達が阻害されるので、少しずつめくるスピードを遅くしていく、十分遅くなったら次は一度に見る範囲を狭めていく程度のラフな考え方でよいです。

視点を本の真ん中に固定して見開き2ページを1秒くらいで見る訓練をした後は、今度は視野を狭めて2~3行くらいを一度に見るようなイメージで視線を波打たせながら本の文字を見ていきます。
これが最後の仕上げで、実際に文字を読むのと近い感覚にまでスピードを落とし視野を狭めます。

この訓練は、よく速読本などで解説されているように、脳のインターチェンジ効果を利用しています。
高速道路で車を運転する時に、最初は速く感じますが、徐々に慣れていき、その後一般道に移った時についスピードを出し過ぎてしまうことはよくあります。
この脳の速いスピードに慣れる特性を利用して、脳の処理速度を鍛えていきます。

ページめくり訓練の主目的は、このように脳の処理速度を鍛えることですが、他にも効能が期待できます。
1つは見開きページ全体を見ることで、徐々に視野が広がっていくことです。

また、人口的には右利きの人が圧倒的に多い世の中にあって、縦書きの本を左手を使ってめくる行為は、左手と直結している右脳を鍛えることにもつながります。

そして更には、この次に紹介するブロック読み訓練の究極の形が、ページめくり訓練でもあります。

速読の達人は、眼をほとんど動かさずにページをめくるだけで内容が理解できる次元に到達していると言われますが、その達人の道への訓練がこのページめくり訓練というわけです。
ただし、これはスポーツの世界に例えれば、世界最高峰のプロ選手と一緒に練習しているようなものです。
ハイレベルな選手と一緒に練習することで色んな気づきは得られるかもしれませんが、あまりに周りのレベルが高すぎると適切な負荷を自分に与えることにはならず、スムーズな上達を阻害する要因にもなりかねません。
ほとんどの人がプロは愚か、全国大会に出場できることも稀なのですから、速読も同様にこの様な究極の次元の訓練だけではなく、地道な基礎練習が必要になります。
それが最後に紹介するブロック読み訓練になります。

このブロック読み訓練ですが、私はこれが速読訓練の中で最も重要なものであり、最も多くの時間を説明に割くべき訓練だと思っています。
しかし、様々な速読関連本を読んだり、ネットで調べたりしましたが、不思議な事にこのブロック読み訓練についてはあまりページ数を割いて詳しく解説されているものを見たことがありません。
そこで、この記事では、このブロック読み訓練について一番文字数を多く割いて説明していきたいと思います。

まずイメージをつかむために、本を使ったブロック読み訓練を紹介します。
例えば、縦書きの本であれば、最初に1行全体を同時に見るようにします。
そして、視線を横に平行移動しながら、1行ずつ順番に見ていくようにします。

この時、視野を狭めて意味を理解するのではなく、視野は1行の上から下まで同時に捉えた状態で、見ていくのが秘訣です。
視野を狭めてしまうと、従来の一字一句文字をなぞるように読む方法と変わらないため、速読が上達しません。
広範囲の文字を同時に見ながら内容を理解する読み方を、声帯を動かしたり心の中で声に出したりして読む「音読」の対局にある「視読」と呼びます。

1行ずつ見る訓練を数分くらい続けたら、次は2行ずつ見る訓練を行い、最後に3行ずつ見る訓練を行います。

ここで、3行ずつ見る訓練をしたら、次は4行、5行と増やしていくべきかというと、私の考えではその必要は無いと思っています。
その根拠は、過去の記事でも書いた通り、そもそも我々は2行を同時に読むこと自体が既に通常の読書の感覚とは大きくかけ離れており、満足にこなせない人が大多数なので、そこにあえて4行、5行と行数を増やして訓練していってもほとんど意味が無いと考えられるからです。

それよりも、1~3行ずつを同時に見ることをしつこく反復する基礎練習に重点を置いた方が、速読の上達にとってプラスに作用すると思います。
これは言わば、スポーツや習い事における基礎の反復練習と同じ概念になります。
野球選手がバットの素振りを何度も繰り返すことで、徐々にフォームが様になってよい打球が飛ぶようになる、サッカー選手が基本的なシュート練習を繰り返すことで、徐々に速く正確なボールが蹴れるようになる、といったことと一緒です。
1~3行の文字の塊をしつこく見る基礎訓練を繰り返すことで、実際の読書においてもそのような塊の単位で概要を把握しながら読む能力が、自然に発揮されるようになっていくという理屈になります。

以上が本を使ったブロック読みの訓練となりますが、実際にやってみればわかる通り、本の文字はブロックの単位が分かりやすく形成されて印字されているものではないため、訓練がやりづらいと感じることがあります。
そこで、私はWordを使ってブロック読み訓練用のツールを作成し、それを利用するようにしています。
そのツールについて、以下に紹介します。

まず、訓練用の文章を用意し、1行20文字で並べていき、行間はハイフンを配置して各行の境目が分かりやすいものを作ります。
イメージは次のような感じです。

ブロック読み1行

これを一行一目でリズムよく次々と見ていきます。
本での練習の場合は一行の区切りがありませんが、これは各行がハイフンで仕切られていてブロックが分かりやすいので、とても見やすいです。
パソコンのモニターに表示する時は、Wordの閲覧モードにして、次々とページをめくっていきながら1行のブロック単位で見ていくのがよいでしょう。

次に、以下の様に2行ずつのブロックのツールも同様に作成して練習します。

ブロック読み2行

更に、3行ずつのブロックも作って練習します。

ブロック読み3行

どのくらいの量のツールを作ればよいか?という点については、一回当たりの訓練時間をどのくらいにするかによって決まります。
私は大体1ファイル200ブロックくらいで作成し、2分くらいかけて見る練習をしています。

また、横書きの文章は眼を上から下に垂直移動させて見る練習をしますが、こればかりやっていると、眼を左右に動かす筋力が発達しません。
そこで、縦書きのツールも同じように作成し、交互に練習することで、眼の筋力もバランスよく鍛えることができます。

文字を見るスピードについては、速すぎず遅すぎず、自分の感覚で最適なペースを決めればよいと思います。

ところで、なぜこの自作教材は1行が20文字なのか気になる人もいるかもしれません。
私もこういった細かい部分に対してなぜ?といちいち考える傾向がありますが、このようなこだわり性の人は、残念ながら速読の上達が遅いようです(笑)。
しかし、性格というものはなかなか自由に変えようがないので、そうであれば疑問に対して自分が納得する答えを徹底的に用意するしかありません。

一般的な書籍は1行が40文字くらいなので、そのように教材を作成するのが実践的でよい様に思われますが、そうすると文字が小さくなって見づらくなってしまいます。
文字が大きくハッキリしていて見やすい方が、より脳に塊で文字を捉えるイメージを植えつけやすいことから、文字数よりも文字の大きさを優先して1行は20文字としています。
また、私が以前受講していた速読教室でも、1行は20文字前後で訓練をしていたので、40文字でなくても速読がちゃんと上達するのか講師に質問してみました。
その時の答えは、20文字でも十分練習効果があり、上達すれば40文字の行を一目で読めるようになるとのことだったので、その言葉を信じて20文字のブロックによる訓練を続けています。

ブロック読み訓練は、この様に本や自作のツールなどで訓練できますが、街中でも訓練に適したものがあります。
それは、看板などに書いてある文字です。
これを端からなぞるように読むのではなく、一目でパッと見る訓練をするのも、ブロック読みの能力を鍛えるのに役立ちます。

ところで、上記の通りページめくり訓練やブロック読み訓練の方法の記述の中で、私は何度も文字「読む」のではなく「見る」という表現を使用しました。
速読では、文字を読もうと意識的に努力しなくても、見ているだけで意味が勝手に理解できるというのが理想的な読み方です。
そのため、私が速読を学んだ教室では、とにかく読もうとしてはいけないことを強調していました。

以上、速読の訓練方法について一通り紹介しましたが、前の記事でも書いた通り、一番重要なのは正しい訓練を正しい方法でたくさんすることではありません。
最も重要なのは、複数行を同時に読むというスピードは速いが理解度は大雑把でありいい加減である右脳速読(視読)という読み方を、自分の心の中でどれだけ許容できるかという意識改革の方であり、これが速読を習得する上で一番重要であるということをよく理解する必要があります。

とりあえず目の前の文章を、まずは全て2行以上同時読みの右脳速読で素早く処理し、その後詳細理解が必要な重要文章のみを1行ずつの左脳速読で処理することを検討するという2段階プロセスが、簡単かつ確実に速読を実生活に活かせる方法だと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?