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世界の漁業でなにが起きているのか ー日本漁業再生の条件ー 第5章 中層・深海資源にむかう — どうなっている日本近海

※この記事は平成8年に発行された書籍「世界の漁業でなにが起きているのかー日本漁業再生の条件ー」の内容です。発行されてからかなりの年数が経過している為、現状と乖離している内容もございますが、何卒ご了承の上お読みください。

1 ジャンボ・ネットはヨーロッパで開発された

ワールド・ウォッチ研究所は『地球白書』の中で、「漁業者の急増や漁具の進歩が、もっとも繁殖しやすく生息数も多い種さえ危機的状況に追い込んでいる。魚群探知機や飛行機によって外洋でも魚の群れを探せるようになったし、巨大な網が文字通り海から魚をこして取っている。アイスランドで最近つくられたトロール網の開口部は、12機のジャンボジェット機を捕獲できるほど大きい。環境団体のグリーンピースによればさらに大きなトロール漁船を建造中だという。」と述べている。それにしてもグリーンピースはよく調べている。感心する。ただこの文章では誤解を与える。「トロール網の開口部は12機のジャンボジェット機を捕獲できるほど大きい。」というところだ。このジャンボ機はその長さを指している。長さ70メートルとすれば840メートルだ。ここまでは間違いない。
網の構成は簡単にいえば、袖部分と袋部分から成っている。日本人のこれまでの常識では、網はメッシュ(網目)であった。これには、日本の漁業者はかなりこだわり続けていた。今でもこだわっている人が多いだろう。日本人の常識のメッシュで開口部840メートルの網を曳いたとすると袖網の網地抵抗で、船は動くものではない。網の経費だけでもほう大なものとなり見合うものではない。この常識を大きく破ったのが西ドイツだ。1950年代後半西ドイツが中層トロールを完成させ、伝統的トローラーが1週間で漁獲する量の2倍の魚を一網で揚げ、ニシンやサバの大きな群れをキャッチすることができるようになった。(The Wealth of Oceans)
 昭和56年(1981年)出版の川上太左英著『漁業解析入門』にソ連フリッドマン氏来日の際の話として「近年中層曳網などで、網口に近い部分に進行方向に平行になるようにロープを賽の子状に張り、魚を追い込む作用は網地を用いたのと同様の効果でしかも漁具の抵抗を減ずるという試みが提案された。」とある。魚の追い込み効果が同程度といっていることは、魚の逃避の防止がある程度できると言っているのであって一網打尽と解釈されては困る。それだったら、コッドエンド(袋部)以外はすべてロープでという考え方もでてくるがそこまでは踏み切れるものではない。
 この開発は、魚の生態・行動と漁具漁法の関係を研究しつくした結果で画期的な事例といえる。日本人の伝統的発想からは到底でてくるものではない。私はこれを動く巻網といっているが、中層操業の場合、底曳と異なり仮に魚群に当たったとしても魚は上にも下にも横にも逃げられる。キャッチは失敗すれば全くのゼロだ。それだけに中層曳に挑戦することは勇気のいることだ。定置漁業などでも応用は可能だと思う。いずれにしてもこのネットの開発により、サバの大量漁獲が可能となり、輸出競争力を高め、遠く日本まで輸送してさても採算がとれるようになったということだ。
日本では魚の生態と行動を研究し、どの方法がもっとも効率的かの研究は行われていない。井上実著『魚の行動と漁法』の魚の遊泳行動の項はほとんど海外の研究者の研究成果だ。1962年FAOのフィッシャリーズ・レポートがベースとなっている。
漁業者は最小の経費で最大の成果をあげたいと考えている。過剰漁獲で成果をのぞむものは多くはない。たとえば、この魚種の曳網速力はどの程度が適正なのか知りたい。それがわからないので曳網速力は早ければよいとの思想が夢延する。馬鹿でかい、エンジンを装備し大きな音を発し高い油を沢山使って操業しているのが実態だ。多少脇道にそれた。
中層操業にもどす。日本の研究者の中にもそのようなジャンボネットを使えば乱獲になるという見方をする人もいると思う。だが乱獲というのはある程度資源量がわかってはじめて使える言葉だ。例えば普通のネットで操業し年間の最大漁獲が1万トンだったとした場合、資源量をその10倍の10万トンとする研究者はいるだろうか。ところが、ジャンボネットの使用で、年間20万トン以上の漁獲が続けば資源量は20万トン台に修正させざるをえないだろう。それがノルウェーでありアイスランドだ。ヨーロッパでは青物は人気がなく漁獲対象魚ではなかったのではなかろうか。ところがマーケティングをしてみると日本をはじめとした東洋では結構よい値段がつくということで漁獲対象としていったというところが本当のところでは。
『フィッシング・ボート・ワールド(F.B.W)』が中層網に進歩と題して報道。
「アイスランドの大手漁網メーカーのH社はおそらく世界最大の中層トロール網(伸張時の全周3,072メートル)を製作するだろう。この意味を理解するためには、その発展の背景を探る必要がある。H社はイルミンガー海、アイルランド南西部で外洋性赤魚漁を行う漁船向けに1989年中層トロール網の政策を開始した。この会社は網規模と網素材の2つの面でトロール網を発展させた。最初に作成した綱は伸張時の全周が、1,152メートル。今のところ最大の網で全周が2,560メートル。来年には3,072メートルのものが登場することになる。目合の最大値は当初32メートルであったが、現在では網の前部に128メートルの目合いを用いている。カバーする開口面積は全周2,560メートルの網で3,600平方メートルである。」
そして、その後このジャンボ・ネットのコッド・エンドが真空ポンプとジョイントしていく。ここではポンプ漁法と呼ぶことにする。実はA社も20年近く前に南氷洋の沖アミ操業でポンプ漁に収り組んだ。某大手造船所と共同研究し2年近くテストを試みたが成功しなかった。

図5-1.

 1992年2月F.N.I.で新型中層トロール船を詳しく紹介した。肝心のポンプ漁法部分については記載されていない。船型はこれまでのスタン式トロール船とまるっきりちがう。航走しているこの船をみても船種がわかる人は少ないだろう。船尾にはランプウェイ(スリップウエイ)もなく、トロール船特有の広い甲板もない。

写真5-1.

『ベロニカ — 日産200トンを凍魚』
 「3,800万ドル、106メートルのスタン・トロラーは操業に従事。船主兼船長、アイルランド、凍結能力200トン、積載能力3,000トン。サバ・ニシン・アジ・ブルーホワイティングをアルゼンチン、EU海域と公海で漁獲する予定。製品はヨーロッパ、日本、アフリカに向ける。建造はノルウェー、船のローンはノルウェー・エキスポート・ファイナンスが提供。ノルウェーの銀行とアイルランドの銀行がギャランティする。ノルウェー政府はプロジェクトのコストの11.5パーセントを補助する。総トン数5,206トン。純トン数2,151トン。主機馬力7,956HP、漁獲物はポンプで船内のタンクに。そこから真空ポンプで工場甲板に送り、選別凍結する。50トンのトロール・ウインチ、ネットドラム2、デッキクレン2、フィッシュ・ポンプでコッド・エンドを空にする。スキッパーにもっともよいアプローチを決定できるよう、魚のスピードと方向がデジタルに写し出される。44名の乗組員の居室はアッパーデッキにあり1人または2人部屋。およそ30名のクルーが凍結や包装作業に6時間交代で従事する。」
 原魚日産200トンを44名の乗組員で処理するとしたら、その生産性はかなり高い。日本の凍魚トロール船と比較した場合1人当りの生産性は2倍近くになるのではなかろうか。

写真5-2.

写真5-3.

2 深海操業時代に入る — 医薬品を求めて

 F.B.W-23は多くの漁場で漁獲強度が増加している現在、深海漁場への興味が増してきているとして、フリードマン教授の小論文を紹介している。
 「この問題は、漁業者の生き残りの可能性の一方策として重要である。同時に造船業者、漁具製造者、その他の船具製造者も積極的に興味を示している。フランスの全長23メートルのB号やスコットランドの全長24.5メートルのW号のような比較的小型の船でさえ、冬期の複雑な海況にかかわらず操業を試みている。ロシアの漁船は60年代初期より大陸棚以外の深海漁場で操業を開始した。ニュージーランドでは70年代後半より始め、10年後にはフランスでも始まった。今日、この問題は英国の漁業者にとって緊急の課題の一つとなった。そしてリストに連ねる魚の名前は長くなってきているように思える。魚類が海洋の深海に生息するという事実は昔から知られていた。しかし大きな群を形成することは意外であった。深海での漁獲は深くなればなるほど急激に効率が低下するということで生物学者より反対されていた。しかし私の恩師のバラーノフは『生物学者は漁業者の経験より知見が浅い。漁業者は単に200メートル〜300メートル以深での漁業技術がないだけである。』とくり返していた。
 現在、世界の深海漁業の潜在能力は明確でない。それにもかかわらず、技術的な問題解決に向けてさまざまな問題を克服し、操業するための活発な研究活動が実施されている。概して深海操業には高度な技術とマンパワーが要求される。これらの要求のエッセンスは、漁獲量が曳網中の網の漉水量に比例するという基本的なトロール漁業の概念から明白である。その条件で漁獲量は3つの値より見積もられる。それらは、
1. 網口面積、2. 鬼網速度、3. 鬼網時間、
である。深海操業では次のような理由から三つの値すべてが減少する。
・機関馬力に限度があるので網口は小さくしなければならない。
・同じ理由により曳網速度も小さくせざるをえない。
・ロープ(ワイヤーロープ)が井常に長くなるので操業において漁獲に関連しない投網揚網時間が増加する。つまり実際の曳網時間/操業時間の割合が小さくなる。
 これらのロスを補う可能性については、すでに議論されてきた。ウインチの交換。直径を細くできるような特別のワープの使用などがそれである。しかしほかにも可能性がある。ここではロシアで試みられているアプローチを説明する。その中のいくつかは実現されている。そのほかは操業試験により実現を待っているが継続的な開発のスタート、ポイントに立ったところである。」

図5-2.

 さらに、1993年4月、F.N.I.が深海漁業の現状などを詳しく報道した。その要旨を紹介する。
『北東大西洋斜面における深海漁業』
 —— シーフィッシュがその可能性と危険性について検討。
・大陸棚の資源は充分開発された状態となりつつあり、市場価値の高い新しい資源を求め漁業者はより深い海域に漁場を移しつつある。
・そこではフランスのトロール船が現在操業しており、英国もそこでトロールか延縄のいずれかで操業することを検討している。英国のシーフィッシュ・インダストリー・オーソリティは最近『北大西洋斜面域での漁業』と題する報告書を発表。著者は英国ハルにあるシーフィッシュの技術部門の部長を最近引退したアラン・フーパーである。フーパーはこのレポートの中で次のように述べている。「この深海にすむ魚は北大西洋の水深500〜2,000メートル水域の生態系の一部である。この生態系は大陸棚のそれとは全く異なったもので、食物連鎖、産卵パターン、回遊などにおいて異なっている。この水域に生息する魚はベントス食性またはベントスおよび海底付近に生息する生物に依存する食性である。こうした魚は急な大陸棚斜面や大西洋海盆に無数にある海山の斜面域周辺に生息し、より小型の動物の垂直日周回遊を追って生活している。このことから斜面漁業という言葉がより適切かもしれない。というのは大陸棚での従来の底曳き漁業という概念を変える必要があるということを示唆することになるからである。深海資源のうちどの種が商業的に価値があるかといったことについてほとんどわかっていない。すなわちチャンスと危険の双方があるということである。商業的価値が認められている魚もある。例えばソコダラの類である。しかし、この種については限られた市場性しかなく、また一方でトロール操業のためのコストは高いものになると考えられている。またリスクのひとつとして、この資源に関する十分な情報がない状態で漁獲が開始されるとその資源か食料として本当に必要とされるようになる前の段階で取り返しのつかないダメージをその資源に与えることとなる可能性がある。成長の遅い魚もいる。ある種類の魚は成熟するのに20年以上を要する。現在可能な操業は高密度群を形成する種についてのみであるが、この資源がいったん枯渇すると資源の回復には長い期間が必要となる。シーフィッシュはこうした資源をどのように開発していくのが最善であるのか注意深く検討されねばならない。」と述べている。トロールは好ましい操業形態かもしれないが最善のものではない。「経験的にいって、特に斜面漁業ではとりたいものだけをとることのできる魚種選択性の高い漁法を選択すべきであり、地球上の最後の未開発資源を短期間で破壊する愚はおかすべきではない。」とシーフィッシュは述べている。生物学的調査によればロックオール・トラフの海域では少なくとも85種の魚が知られている。このうちわずか9種あまりが商業的な開発の可能性をもつにすぎない。数種類は現在フランスの漁業者によって開発されつつあり、他の種類については漁獲後の処理や加工食品として製造するための必要な処理方法についてもっと検討する必要がある。これらの資源に関しては、ロシアの漁業者が1970年代から80年代にかけて強度に開発を行ったことがある。
(イ)ヒウチダイ科 英名 オレンジラフィ
・体長 最大65センチ、体色赤、価格高い。
・魚肉 白、肉質堅く貝肉に似た歯ごたえをもつ。美味、側線に沿った脂肪部分は除去する。38.5パーセントがフィレーとして可能。
(ロ)ソコダラ科 英名 ラウンドノーズ・グレナディア
・体長 60〜80センチ。このうち25パーセントは尾。体色黒。
・価格 中程度
・魚肉 氷漬け状態で17日間ほどは良質が保てる。肉質はやや軟、香り弱く口あたりはよい。フィレー皮付きで39パーセント
(ハ)タチウオ科 英名 ブラック・スカッバード
・体色 黒
・魚肉 堅い、非常に白く平板で薄いフレークをもつ。フィレー歩留まり19パーセント
(ニ)ギンザメ科 英名 ラビット・フィッシュ
・体長 100センチ、体色黒くなめらか。価格安価。
・魚肉 フランスの加工業者によれば肉質柔弱だが良いフィレーがえられる。
 シーフィッシュによれば、大陸棚操業のためにこれまで開発され、常識となってきているトロール漁法は長期的に見れば誤った選択であったかもしれないということである。この深さで曳網するには巨大な力が必要となるのみならず、生態系を急速に破壊する危険性がある。ドイツの漁業者の報告によると予期できない強い深層海流があるということで曳網荷重についてもかなり検討が必要かもしれない。フランス・ドイツおよびニュージーランドでは漁業者はすべて1,800馬力以上のかなり強力な漁船を使用している。
 ここで、深海操業を研究している英国シーフィッシュ産業研究所を紹介しておく。
 『漁具研究の再構築』 —— 持続的漁獲のための専門部(F.N.I1993年4月)英国のシーフィッシュ産業研究所の技術部門はイングランドのハルにあるが、フィル・マックミュレン部長のもと新しく作られた部局海洋技術グループを発足させた。
 マックミュレン氏は本紙につぎのように語った。「このグループは、90年代にシーフィッシュが何を求められているかを注意深く検討し、その機構および業務が定められたものである。同グループは効率性と持続性を第一義とし、貝類をふくむ海洋および汽水域(淡水と海水のまじった所)資源の漁獲に関し、すべての観点から取り組むこととなる。同グループは3セクションで構成されている。
・漁具セクション
 漁具の物理的機能、動きおよび設計に取組む。流水タンク実験、実寸大模型実験によりオッター・ボードの設計および性能を研究する。
・漁具技術セクション
 どのようにして合理的かつ効率的に魚を漁獲するかに重点を置いて一連の甲板作業過程についての工学的研究を行う。またこれまでと同様スクウェア・メッシュに関する研究などの漁具開発と資源保護に関する研究を行う。
・資源開発セクション
 漁獲の過程が対象となる資源とどのように関連するかについて研究する。投棄の問題、海底への漁具の影響の可能性を減少させることなどに取組む。
 技術的な資源保護の方法は、英国において努力量削減の一つの可能性を見出すものとしてかなりの興味をもたれている。漁業者の団体はこの件をシーフィッシュ保護法による規制の衝撃を緩和する一つの方法としてとりあげている。
 マックミュレンによれば、スクウェア・メッシュのような技術的な手法による資源保護の研究などが今後の中心的課題になろうということである。政府資金による業務も多いがまた同じようにECからの技術的解決策に関する研究費も同額程度きている。」
 以上がシーフィッシュ社の事業内容の一部であるが、同社は深海魚を食用魚のみに目を向けているのではない。TIME誌が報道したように深海魚をファインケミカルの資源としての位置づけもしているのだ。その関連する記事を抜粋しておく。
 「調査は、深海サメなどの非食用魚についても行われる。サメに含まれる天然のオイルは、薬や化粧品に活用できる可能性を持っている。シーフィッシュの報告は、大西洋の北西部の大陸斜面の水産資源は21世紀の貴重な食糧であり、生化学資源となり得るだろうと結論づけている。」
(深海操業へ向けての各国の動き)
深海に向けての世界各国の動向を列記していく(F.N.I)
『スコットランド人が深海に向かう』(1992年7月)
先行するフランス漁業に続き、2人のスコットランド人船長が荒れる北大西洋で価値の高い深海資源を求め操業する。彼等は75フィートと100フィートの鋼製トロール船を使用する。B船長は100フィートの新船で出漁する。同船より2〜3倍も大型のフランスのトロール船がすでに開発中である深海資源を求めて、1,200メートルまでの深さを曳くという。今、スコットランドの漁業者は漁獲枠および漁業規制の問題に直面し、深海資源へと向かっている。(1992年7月)
『カナダ沖海山で豊かな資源』
カナダ漁業海洋部は太平洋と北大西洋での深海操業を報告した。その報告によると深海での商業漁業を拡大する目的でカナダ西岸沖の太平洋海山を調査した結果、底魚が豊富であり潜在的資源も明らかになった。当初の調査では水深855メートルで漁獲されたが、1,800メートルでも漁獲があることもわかってきた。(1994年2月)
『フランス、五種の魚を開拓』
フランスは北東大西洋のスロープ、水深1,200メートルから1,500メートルのところで、ブルー・リング、グレナディア、オレンジ・ラフィを開拓したとフランス海洋調査機関が述べている。1973年以来、大陸棚のスロープでブルー・リングを、1989年からグレナディアを、1991年にはオレンジ・ラフィを漁獲した。1992年の漁獲高はオレンジ・ラフィ4,548トン。グレナディア12,219トン。ブルー・リング4,923トン、ブラック・スカバード5,428トン。ブラック・シャーク3,573トンであった。(1994年1月)
『深海で漁獲の増ーニュージーランド』
 北大西洋ではオレンジ・ラフィに特別に関心がもたれ、深海魚の漁獲の増加が続いている。ニュージーランド海域では、7つの主要漁場で700メートルから1,500メートルの水深で漁獲されている。これまでのところ総漁獲量は年間でおよそ40,000トンから50,000トンと報告されている。漁法はすべてボトムトロールで、いろんなタイプと大きさの漁船が従事。これらの中には比較的小さな20メートル級から30メートル級の氷蔵船から95メートル級の凍結トロール船まであり魚はフィレーなどに加工されている。オレンジ・ラフィは生長が遅く生産性が低く、寿命が長いことを考慮に入れて資源管理を行う必要がある。(1994年1月)
『アイスランドの深海操業』
 公海の赤魚シーズンはアイスランドの南西およそ450マイルの海域のレイキャビック・リッジで本格的となる。数隻のスターン式トロールは2〜3日の操業で赤魚300トンを漁獲。30トン位の漁獲は通常のことで最近は特に状況がよいと報告されている。アイスランドのトローラーは水深700メートルから800メートルの間で曳網しているがロシアの漁船はこのような水深では効率的に曳網する能力がないので漁場が混雑することはあまりないといわれている(1995年6月)
『深海操業の難しさ』
 フランスとスペインは伝統的なホワイト・フィッシュの厳しいクォータや新しい漁業を確立する必要性から特に熱心に深海を開拓している。北ローナの南からセイント・キルダまで拡がっている大陸棚のスロープの水深は360メートルから1,080メートルのところで操業するようスコットランドはスキッパーを指導している。深海操業は現在ホワイトフィッシュのクォータを補なわせるための選択肢のひとつとして考えられているが、大きな問題は投揚網に時間がかりすぎることで所要時間は90分となっている。(1995年5月)
『南アフリカ深海で試験操業』
 西岸沖の海山では水深1,500メートルから1,600メートルのところで漁獲されると考えられている。(1995年4月)
『ニュージーランドの深海操業』
 これまでに操業されておらず、潜在的に大きなオレンジラフィの生息地がニュージーランドの南の海域で科学者により発見された。水深1,000メートルあたりで産卵する深海種は海山に集まり輸出魚の中でトップにランクされている。昨年の売上高は、16,900万NZドル。
 漁業調査船タンガロアがその調査に従事し、オレンジ・ラフィやオレオドーリィの生息地、水深1,000メートル以深のこれまで知られていなかった火山である海山の位置数百をチャートに入れた。(1995年6月)
 以上のとおり漁業先進各国は技術的な諸問題を克服し、中層曳操業や深海操業に挑戦している。日本の200マイル内でも、一部東北の沖で深海操業に従事していると聞いているが、ヨーロッパやニュージーランドで漁獲しているオレンジ・ラフィなどのような新魚種ではないようだ。日本近海も現在海上保安庁が海底調査を実施しており、その結果海盆や海山も発見されてきている。その海域に魚群がいたかどうかの報告はないが、大西洋、東太平洋や南太平洋で深海魚の魚群が発見されて、日本近海の海山付近に魚群がすんでいないといえるだろうか。深海魚は、英国ホワイト・フィッシュやTIME誌が報告しているとおり、医薬品や化粧品の原材料としての可能性が秘められているのだ。その調査が急がれる。中層の魚群についても同様だ。クジラやイルカが表層をのんびりと遊泳していて水深400〜500メートル以深の中層に魚がいないと断定はできまい。アザラシが年間1.4トンの魚を食べているとしたら、クジラはその数倍を食べていることになる。マリン・マンマルは中層深層に餌が豊かであれば、安心して表層にでてくるといわれている。深海での試験操業は厳しいものが予想されるので、熟練された乗組員が必要である。深海丸などの大型トロール船で徹底した資源調査が必要だ。

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