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京都チャリ旅レポート

およそ半年ぶりの三連休、何か楽しいイベントを企画しなければ酒を飲み散らかして寿命を縮めるだけなので「そうだ、京都行こう」ということにした。とはいえあたしは関西在住歴で言うと、のべ四半世紀を数えるコテコテの関西人であり京都には幾度も行っている。広告代理店の営業マン時代には京都営業所に配属となり毎日京都市内を車で走りまくった経験もある。
そのあたしが思うに京都旅において「車」は圧倒的に不便である。何せ都心部は平日だろうが休日だろうが祝日だろうが関係なく、1年365日慢性的に渋滞しているのである。しかも気軽にドライブしようにも駐車場が少なすぎて降りたい場所で降りられない。
あたしは大阪市内も毎日運転していた経験があるが中心部は渋滞でイライラすることはほとんどなかった。それは大阪市の渋滞対策が本気だからであると思われる。例えばメインストリートの御堂筋は8車線もの大盤振る舞い、広大な路線だが南へ向けての一方通行しか認められない。渋滞はしないが慣れないドライバーは曲がりたい交差点で曲がりたい方向へ曲がれず右往左往するばかりで目的地にたどり着けないことになる。何かを犠牲にしなければ渋滞の解消など出来ない、その覚悟を感じる政策である。
京都の町も大阪と同じように東西南北に碁盤の目のように道が通る。ざっくり東西には北から二条、三条、四条、五条とメイン通りがズドンと貫く。南北には西から大宮通、堀川通、烏丸通、河原町通と貫き鴨川を挟んで清水寺や八坂神社といったメジャー観光スポットが建ち並ぶエリアとなる。
とりあえずこのメイン通りの交差点付近はすべて慢性的に渋滞していると考えて間違いない。公共交通としては京都には一応地下鉄もあるが南北に一路線ずつとあまり旅客輸送にやる気が感じられず、メインは京都市バスである。確かに市バスは京都市内に隈なく張り巡らされているが、そもそも慢性的な渋滞のため不便である上にメインの路線は慢性的に通勤列車を彷彿とさせる混みようであり、ゆったりと旅程を楽しむことは到底できない。
以上の条件を知っているあたしが思う京都旅の最も効率的な移動手段は何か、それは「チャリ」である。「自転車」である。京都市内は先のメイン通りの間に平行に走る細い道が無数にある。この細道をチャリで移動することが限られた時間の中で京都を楽しむために一番効率的な方法なのではないか。実際にチャリ旅をしてみて検証する。

今回の旅行はほぼほぼノープランで、京阪電車で七条まで行きそこから自転車で鴨川に沿って北上してみよう、という感じでざっくり旅程を組んで偶然の出会いなどを楽しもうという趣向である。まずは京阪電車で京都へ、先述したようにあたしはコテコテの関西人であるから京都へはしょっちゅう行っている。しかし今回は旅行である。旅行とは非日常であるのだから移動にも特別感がなければならない。というわけで京阪特急のプレミアムカーに乗ることにした。

乗車賃に500円プラスするだけでラグジュアリーなシートでの京都旅をサービスしてくれる京阪電車さんの素敵な計らいである(ちなみに乗車賃は420円)。なお個人的な感想としては京阪特急は普通の席でもJRや阪急と比べてシートの座り心地が良い。揺れも少ない。JRなんかは乗り心地をかなぐり捨ててスピード重視、なんと大阪、京都間を29分で結ぶ。その代わり椅子取りゲームに負けると道中が頑張ってつり革に捕まってなければ立っていられないレベルの横Gとの戦いになる。この点京阪特急の場合は今回の旅程である京橋から七条間で40分と比較的のんびりである。今回のように急かぬ旅の場合には京阪特急がおすすめである。

さて七条で降り、駅近の高瀬川のほとりにちょこんと立つレンタサイクルで自転車を調達。

高瀬川の清流と色づいた葉の調和感がいきなりエモい。この川は森鴎外の「高瀬舟」の舞台であり、また古くは物流の要であった。すぐ東側には鴨川が走るが流れが早いし荒れるしでとても物流の水路としては使えない。そこでこの高瀬川が京の都の物流を支えていたというわけである。現代では意図的に水かさは下げているものと思われるがそれにしてもこの水深とこの幅で都の物流が成り立ったことに驚きである。
さて、旅行を始める。北へと走り出すと早速面白い建物が現れる。

任天堂の旧本社である。1889年に京都の地に生まれた任天堂は、花札やかるたを製造する企業として成長し、その後テレビゲーム業界に進出し今では年商1兆円を超える超優良グローバル企業である。その任天堂の旧本社はモダン建築として大変価値が高いものであるが、現在はホテルとして活用されている。

https://www.asahi.com/and/article/20220902/422132339/

さて、のんびり自転車を漕ぎながら細道を北へと向かい先斗町(ぽんとちょう)へたどり着く。

案内板の解説の通り品格を感じる細道であるが解説にも花街とあるように現代でもスケベの道として存続している。ただし伝統的なお茶屋として存続しているわけではなく、ド直球に即物的なファッションヘルスとして存続している。

格調の高さを感じる料亭が居並ぶなかに普通にあっけらかんと現れる「格安ポッキリ鉄道」の文字。この清濁を併せのむ懐の深さがなければ1200年もの長きに渡って都であり続けることなど出来ないのかもしれない。

さて、旅と言えば飯である。そして京都を訪れるならば必ず食べなければならないラーメンがある。

新福菜館 府立医大前店

京都名物(筆者認定)、新福菜館である。1938年創業で恐らく名立たるラーメン店が居並ぶ京都においてもっとも古くから現在まで変わらぬ活気を誇る老舗のラーメン店である。

醤油の量を間違えたとしか思えないこの真っ黒なラーメンのスープを一口飲めば、カドもえぐみも一切ないうま味スープであることが分かる。飲み干したら死ぬんじゃないかと心配するレベルの色であるがあら不思議、全部飲み干してもっと飲みたいと思わせる端麗うまみスープなのである。

さて、腹ごしらえがすんだので旅行を先へ進めることにする。店の近所には京都大学吉田キャンパスがありその外壁には一面アホな学生たちがこさえたタテ看板が並んでいるはずである。それらのメッセージを眺めに行きつつ歩みを北へと進めたいと思っていたのだが・・・。

画像の赤枠付近にいつもあった立て看板がない!?不思議に思ったところで、そういえば数年前に景観条例かなんかの絡みで撤去していたんだっけ、と思い出した。

私はこの京大前の学生たちの若い叫びを眺めるのが好きだったのでいささか寂しい気持ちがした。ちなみにかつての光景はこんな感じである。

2017年11月25日 朝日新聞

この学生たちの若気が弾ける表現を排除してまで景観というものは守るべき価値があるのだろうか。確かに表現の一つ一つは実にしょうもない。ただしょうもない表現が溢れかえっている状態こそ、自由社会の健全なあり方なのである。昨今の日本は中核的な人権である表現の自由を軽視しすぎなのではないかと思う。

プリプリ怒りながら歩みをさらに北へ進める。京都最古とされる下鴨神社と上賀茂神社を両方お参りして、苦労ゼロで大金を手に入れられますように、とお祈りすることにする。そしてお目当て、上賀茂神社横の西村家庭園へ行って、お庭を眺めながらお抹茶をいただこうという企みである。

https://www.kyoto-ga.jp/greenery/kyononiwa/2016/05/post_25.html

上賀茂神社境内から流れ出す明神川の流れに沿って神官たちが家を構える社家町。この中の一軒、西村家庭園は日ごろ観光客に庭を開放しお抹茶を振舞ったりしてくれている。今回は臨時休業とのことだったがここのお庭はマジでエモすぎて世知辛い世の中で削られた生命力がみるみる補充される気がするのでおすすめである。社家町の外観を眺めるだけでもかなり癒される。

上賀茂神社 社家町

さて、趣ばかりを求めていてもつまらない。京の台所「錦市場」へ行って食べ歩きをするぞ、と思って冬の京都の風を切りながら猛然と自転車を漕ぐ。ちなみに京都は町ぐるみで自転車を推奨しているためか自転車移動が非常に快適に作られている。道路にもわざわざ自転車ゾーンマークがプリントされているレベルである。

京都市街はどんな細道でも基本的に東西南北にまっすぐ通っているため道に迷うリスクが皆無である。つまり地元民しか知らないような細道も迷う心配がないというストレスフリー状態で楽しむことが出来る。

最寄りの駐輪場へ自転車を止めいざ錦市場へ、と思ったものの・・・。

とてもではないがのんびり食べ歩きを楽しめる人の数ではない。無理もない、居並ぶグルメに対して道幅が狭すぎるのである。世界中から観光客が集まっている、たまに日本語が聞こえると珍しいと感じるレベルである。

人が殺到するのも無理はない。あたしは関西住まいだから楽しみはまた今度にして、と言いたいところだが絶対に欠かせない楽しみだけは堪能しなければならない。

京都の食は大豆の活用にあり有名なのは湯葉や豆腐である。だからどの商店街にも観光地にもほとんど、大豆製品を売りにする店がある。京都に来るからにはそれらを一度は食さなければならないというのがあたしの京都旅のルールである。なので錦市場におけるウニやウナギやホタテなどの食べ歩きを断念してでも豆乳ソフトクリームはたとえ冬の寒さに凍えながらとはいえ食べるのである。これは本当に美味い、ただし寒い。

さて、あちこち眺めていたら日が暮れてきたので自転車を返却して晩御飯の場所を探すことにする。今回は祇園近辺で新規開拓をしてみようと思い立つ。ちなみに祇園近辺は一見さんお断りの高級店ばかりのイメージが強いが近年はあたしみたいな貧乏人でも気軽に楽しめるお店も増えていると予め伝え聞いていた。

祇園近辺、鴨川沿いという超高級感が漂うご飯屋さんに思い切って予約なしで飛び込んでみることにする。

日ごろ通っている安居酒屋と比べれば確かにちょっとお高いけど決して出せない金額ではないことに驚いた。

くみあげ湯葉

くみあげ湯葉というお料理。大豆の豊穣な香りが軽やかに通る。


刺身盛り合わせ


銀だらの西京焼き

生ビールと熱燗2合で三品いただいた。断言するが全然高くない上に絶品である。祇園近辺、鴨川沿いというブランドに負けず飛び込んでみてよかった。ノープラン旅にはこういう出会いがある。

入店から90分ぐらい経ったころお酒をいただきすぎてお猪口に醤油を注いでしまったので帰ることにする。
皆さま長々とした自己満足文章にお付き合いくださりありがとうございました🐶

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