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世界史漫才第三中継地点

 今から12年前に書いた2009年版「世界史漫才」の「あとがき」を掲載します。これは、一番気分が高揚していた時点のものですが、既にこの時点で「自分が書いたものの限界」を感じていました。そしてその限界はいまだに超えることができていないのが2021年の現状です。これからの改訂のために、忘れないようにここに残します。

 新年度が始まった2008年4月から半年間で20本を追加し、同時に中谷功治氏の歴史学入門書『歴史を冒険するために』(関西学院大学出版会,2008)の読者カードへの返礼オマケ冊子『世界史漫才』に、「ヒトラー編」「ソクラテス編」「毛沢東編」を提供しました。実際は、提供したというよりも、「提供させて」もらいました。というのも、「このままでは歴史学は高校生から見放され、文学部が消滅する前に史学科が消えてしまう」危機感を大学現場以前の高校で日々、実感しているからです(大学の先生の危機感はどうなんでしょうか?)。
「どんな手を使っても、歴史学に高校生の目を向けさせなくてはいかん」「そのためには、高校段階の世界史を知的にも、道楽としても面白くしなければいけない」「大学での歴史研究にワクワクできる予感を抱かせることができる高校世界史が構築されなければいけない」と、自らの非力を顧みずに思いつづけてきました。思いを同じくする中谷氏とこちらのわがままに、関西学院大学出版会の担当者の方には、学術と無関係な仕事で、しかも本当に余分な仕事におつきあいさせてしまいました。本当にすみませんでした。
 その件が落ち着いたところで、世界史Bの授業のオマケとして配布していたプリントを、2008年10月に区切りとして『世界史漫才』として印刷紙、ホッチキスで留めるという形で冊子にしました。その時点で26本になっていました。そして、2008年度生徒(4回生)の授業がなくなった2009年2月から、暖めてきたネタを一気に仕上げて、「世界史漫才」の作品は2009年4月に入った時点で、合計50本になりました。しかし、6本を26本に「量産」した2008年10月時点で、既に本人の気づかぬ変化が進行していました。
 高校時代の恩師であり、世界史の授業の師匠でもある小出克己先生に「今までにない人物紹介」という好意的なコメントをいただいたことです。小出先生は純粋に褒めてくれていたのですが、「偉人を笑い飛ばすことで立体的に人物を相対化しながら理解させる」という狙いを果たせていないこと、つまり量産した24本は「漫才になっていない」ことにそこではじめて気づきました。別の言い方をすれば、あらためて自分の勉強不足を、特に戦後史について実感したのです。
 確かに、笑いをとれる会話が思い浮かんでこない材料では、どうしても紹介モノになってしまいました。そう、感動のない一人「知ってるつもり?」状態です。そう思うと、筆というかキーを叩く手は止まってしまいました。特に50本を目指してあれこれ書いている途中、スペインのフランコ将軍ネタを読み返して、「これは、笑いを少し加えただけの紹介に過ぎないよなあ」「自分の中で消化できていないのに、次の理解=昇華に届けようなんて無理だよなあ」「ネットから都合の良い部分をコピペしただけだよな」と、自己嫌悪に陥り、1ヶ月近く、パソコンに向かえなくなりました。
 しかし、根っからのお気楽人間なのか、2009年5月は、新型インフルエンザ、漢字読めないアソー首相、ETCやら、格好の時事ネタが豊作というか「入れ食い」状態になり、それらを取り込んで、何本かは多少なりとも「漫才風味」が漂う文章になっていきました。「そう言えば、この辺りは、授業で説明できずに終わるか、ドサクサのうちにプリントがばらまかれて『やったことにされて終わる(というか、している)』部分だよな。それなら、「読むだけでも理解の助けになる」「人物紹介になるだけでもいいか」と、森嶋通夫氏が言う(批判する)ところの「プリンシプルのない」私は自己正当化しながら、書きつづけました。
 ですが、詰まった人物や事件はニコライ2世、フランコ、プラハの春、ブレジネフなど、ソ連関連あるいは独裁者関係でした。客観的な史料はないにしても、「20世紀の可能性とそれを押しつぶした国際政治の圧力について、最低限の状況紹介と分析を伝えることができるなら、たとえ漫才になっていなくても、発行・配布する意味はあるだろう」と思いっきり強引に開き直り、作成を再開しました。こうして59本に増量されたのですが、質は維持できませんでした。少しでも校務が減り、取り組む時間が増えることを祈るだけです。

ということで、以後の「世界史漫才」は戦後史中心となり、かなり人物紹介的要素が強いものになっています。前にも、ご厚意で読んでくださっている方々に「批評」をお願いしたのですが、それが本当に求められているパートに入りました。

よろしくお願いします。

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