世界史漫才再構築版53:ガンディー編

　微苦：ども、微苦笑問題です。
　苦：今回は「インド独立の父」マハトマ・ガンディー(1869～1948年)です。
　微：ああ、あの白い布だけを着た眼鏡掛けたヨボヨボのオッサンだな。
　苦：それはチャルカ(インドの糸車)を廻すガンディーの写真の印象が強すぎるだけで、あれはインドの指導者であることを国際社会とインド国内に示すためのものです。
　微：要するにコスプレだな。
　苦：アキハバラかよ!!　ガンディーは非暴力のインド独立運動を指導し、1937～1948　年の12年間に、5回ノーベル平和賞の候補になりましたが、本人が固辞し続け、受賞しませんでした。
　微：謙虚だねえ。受賞運動をし、ひたすら名誉博士号をもらっている人とはえらい違いだな。
　苦：いや、もう比べる事自体がガンディーに失礼でしょう。「マハトマ」は偉大なる魂を意味する尊称で、本名はモハンダス・カラムチャンド・ガンディーです。
　微：ファーストネームは京都弁の香りがするな。妹が「テホンドス」だったり。
　苦：日本語の起源話を引っ張りすぎです。彼は1869年10月2日に現在のグジャラート州にあった、当時のポールバンダル藩王国の宰相の子として生まれました。
　微：日本でいうと、家老の息子みたいなもんか。
　苦：藩王国ですから、当然ヒンドゥー教徒です。さてガンディーは当たり前のように、13歳の若さで両親が決めたカストゥルバと結婚します。
　微：ティーンエイジャーになるまで待ってくれたんだから、いいお父さんじゃねえか。
　苦：まあ、幼児婚で幼稚園児くらいで夫婦にされてしまう人もいますからね。そして18歳でロンドンのインナー・テンプル法曹学院に入学し、弁護士となるために勉強しました。
　微：大学に入るには格が低かったのか。子ブッシュなんか親の威光でイェール大学にAOで入学。
　苦：いや、実務的な弁護士になるつもりだったのでしょう。卒業後、インドで弁護士事務所を開業しますが、うまく行かず、1893年には南アフリカで弁護士として開業します。
　微：商売がヘタだったから、みすぼらしい格好をしてたわけだ。
　苦：違うって言ってるだろ！　その南アフリカでガンディーは人生を変える事件に出くわします。
　微：ツルハシの一撃で金鉱脈を発見したんだな。
　苦：それはアメリカのゴールドラッシュ時のタバコ銘柄だろ!!　一等客車のチケットを持っていたのに、「カラード」、つまり有色人種だとして、そこから叩き出されたことです。
　微：オレも新幹線で、チケット持ってなかったから車掌に追い出されたぞ。
　苦：それだけで済んだらラッキーだよ！　自分を「ジェントルマン」と思っていたガンディーは、これをきっかけにインド人、有色人種であることを痛切に自覚させられました。
　微：それまではアーリヤ人と思っていたそうです。
　苦：事件をきっかけに南アフリカでのインド人に対する人種差別に挑み、インド系出稼ぎ労働者の権利回復を実現したのです。
　微：なんでインド人がアフリカにいるんだ？　『ちびくろサンボ』の撮影か？
　苦：あれはインドが舞台なんですね、日本では誤解されてますが。危険な鉱山労働者としてです。イギリスの歴史は帝国の歴史、つまり植民地と有色人種からの搾取の歴史ですから。
　微：あー、それで19世紀アメリカでもアイルランド系は白人なのか、が議論になるわけか。
　苦：さて、ガンディーの非暴力運動ですが、1880年代以降に少しずつその「サティヤーグラハ」思想を形成していきます。
　微：沖縄からの出稼ぎ労働者のかけ声がヒントだったそうです。
　苦：「非暴力」はインド宗教史、つまりヒンドゥー教、仏教、ジャイナ教の伝統上にあります。それに新約聖書、トルストイ、『バガヴァッド・ギーター』の教えを導入したものです。
　微：ただ、『バガヴァッド・ギーター』は英語版だったよな。
　苦：特にイエスの「山上の垂訓」から自分が先頭になって共に歩むことことが運動だと確信します。
　微：さらにそれをパクったのがキング牧師の公民権運動だな。
　苦：ガンディーはインド人季節労働者の権利保護のため、インド国民会議派に倣い、ナタール・インド人会議を発足させ、その書記となります。
　微：あまりやる気の無い生徒会役員のように、責任から逃げたな。
　苦：英語を操れる能力ゆえですね。まず、ガンディー1906年、スマッツ総督のトランスヴァール政府が打ち出した指紋登録法に反対する闘いから始めました。
　微：もしかして日本でもあった外国人登録法の指紋押捺はここから来ているのか？
　苦：有色人種に対する管理・嫌がらせでイギリス系に勝てる国はありません。ガンディーが最初に逮捕されたのは1908年、インド人季節労働者の指紋登録証焼却運動違反です。
　微：アメリカのベトナム反戦運動の徴兵通知焼却の原点だな。
　苦：1910年には、自治領南アフリカ連邦ができました。1913年に原住民土地法が制定されるなど人種差別政策の体制化が進んだんです。
　微：少数派が多数派を支配して搾取するには、制度の複雑化と見せしめ制度が最適だもんな。それはアメリカのジム・クロウ諸法がよく示してくれている。
　苦：その後、1913年にトランスヴァールの行進を企画して初めて投獄されました。しかし制度の不正を追及して撤廃させることに成功し、初めて勝利を手にしました。
　微：なるほど、「刑務所入って勉強して、自分を見つめよう」という方法を実践したんだな。
　苦：一方でダーバン近郊でアーシュラマ共同農園を創設し、「禁欲、断食、清貧、純潔」を実践して精神面を強化します。ここではカーストと仕事のつながりは一切断ち切られました。
　微：奥さんも泣きながらトイレ掃除していたのはそういう意味だったのか。
　苦：カーストというかヴァルナはガンディーのアキレス腱でもありました。ただ、途中からヴァルナとカーストを区別し、カーストで割り当てられていた仕事は切り離せると主張します。
　微：奥さんを叱った手前、そう言わざるを得ないわな。
　苦：こうして南アフリカでの運動と成功から、インドのイギリスからの独立を展望でき、1915年にインドに帰国します。てからの民族運動にも生かされている。
　苦：そんなもんと違うだろ！　非暴力については後で説明します。英領南アフリカ連邦でのインド系移民の権利回復運動で名声を上げ、第1次世界大戦中の1915年にインドに帰国します。ナタール・インド人会議のヒントとなったインド国民会議参加は自然な流れでした。
　微：1906年のカルカッタ大会から戦闘姿勢に変わったもんな。
　苦：第1次世界大戦が始まって２年後の1917年、イギリスは将来の自治を約束して、植民地統治下のインドに財政面・人的資源面で協力を求めました。
　微：そりゃあれだけ人口がいたら、いくら死者が出ても大丈夫だもんな。
　苦：いや、一つはイギリス軍として展開していても、義和団事件の時から海外展開していたイギリス軍はインド帝国軍でした。オーストラリア軍よりも役に立ってました。
　微：それでも映画『ディヴァナー』ではオスマン帝国で活躍している設定だったけどな。
　苦：財政的にも第１次世界大戦を経る中で、インドは本国イギリスに対して貿易黒字国になり、イギリスは赤字をロンドンの「インド会計」で積み立てているフィクションでごまかしていました。
　微：ハクション大魔王ならぬフィクション大魔王だな。
　苦：古いよ!!　インド側が「インド会計」をロンドンではなく自国で運用すると、もうイギリスの国家財政は破綻するところまで来ていたのです。
　微：大英帝国というより「ダイエー帝国」だな。ハゲタカ的にイオンが吸収する展開か。
　苦：余計な譬えはいいよ！　ガンディーは留学経験から「ジェントルマンの口約束は契約書よりも強い」と信じ、インド人へイギリス軍への志願を呼びかける運動を行いました。
　微：若い看護師さんを使って献血ルームのふりをして集めていたそうです。
　苦：無視します。戦争に勝てたイギリスは自治を認めるどころか、1919年インド統治法でお茶を濁しただけでなく、独立運動を令状無しで逮捕・収監できるローラット法を制定しました。
　微：ローラット法がなくてもやってたんじゃねえの？
　苦：この法の酷さが明かになり、ガンディーが怒りを露わにしたのは、パンジャーブ地方で起きた1919年のアムリットサール事件でした。
　微：あれね、デモ参加者を機関銃で銃撃しまくった。イギリス側は犠牲者の数を「インドの人口から考えたら、誤差の範囲だ」ってコメントしたそうです。
　苦：それは毛沢東の中国だよ！　ガンディーは同年から2年間の第１次非暴力・不服従運動を煽り、警察も裁判所も刑務所もパンクしてインド統治はマヒします。
　微：ハロウィーンの渋谷以上の混雑ぶりだったそうです。
　苦：ガンディーは1922年に6年間の懲役刑の判決を受け投獄されます。
　微：その間に不服従運動に苦しみながらも牢名主にのし上がったそうです。
　苦：不服従の相手はイギリスだよ!!　運動が投獄の理由ではありませんでした。インド民衆が警察署を襲撃して20人ほどの警官を焼死させる事件の責任です。
　微：ガンディーは暴動参加者を非難したのにな。「少なすぎる」と。
　苦：話を捏造するな!!　その後、不服従運動は非協力運動という表現に変わってきていますが、それには理由があります。
　微：本当は「卑怯」力だったそうです。
　苦：自己紹介はいりません。少数のイギリス人インド官僚がインドを支配できるのは、彼らの能力によってではなく、インド人自身が協力しているからだとガンディーは訴えたのです。
　微：しかし、平気で寡婦を一緒に生きたまま焼くサティーを見てたら説得力ないよな。
　苦：「良き法律に見えようと、イギリスの法律はあくまでインド支配の道具で、それにインド人が自ら従うからイギリスの支配を可能にしている。だから、イギリスの法や制度に協力しないことが独立運動なのだ」という論理です。
　微：でもボンベイ裁判所がなければヒンドゥー内部の争いはもっとひどかっただろうにな。
　苦：そしてイギリスがどんどん運動参加者を逮捕・収監すればするほど、独立運動の担い手は増え、支配のための強制装置はパンク状態になって機能停止するわけです。
　微：つまり、借金しまくって自己破産すると借金がゼロになるのと同じってことだな。
　苦：それはキミ自身です。1930年からの第２次の非暴力・不服従運動が始まりますが、その目玉が「塩の行進」で、イギリスが専売品目としていた塩税を標的にしました。
　微：イギリスは「20世紀の黄巣の乱」と非難したそうです。
　苦：独立運動参加者が海岸に行って塩を作った運動です。これに手を焼いた首相マクドナルドはインド独立を協議する円卓会議をロンドンで開催することを決め、ガンディーを招待します。
　微：だけど、集められた指導者はガンディーを含めて80名。インド帝国が宗教国や藩王国がモザイクだったことを逆手に取って、インド独立要求に「うっちゃり」をしかけた。
　苦：はい、まさに塩対応です。そしてインド帰国後に再び収監されますが、その時には労働組合の支援を受けたネルーが独立運動の指導者に成長していました。
　微：なるほど。それでネルーの娘インディラはガンディーの息子と結婚したんだな。
　苦：敗れはしましたが、本国イギリスがすべてを決定するという帝国方式は転換を余儀なくされ、自治領に本国と対等な関係を認めざるを得ませんでした。ウェストミンスター憲章です。
　微：給付金の面倒な事務作業を丸投げして「これが地方分権」と開き直る首相よりはいいかも。
　苦：さて、第2次世界大戦中のインド指導者はネルーでしたが、基本路線は「クイット・インディア」です。しかし、その路線を巡ってチャンドラ・ボースとも対立していました。
　微：インド国民軍ね。ガンディーはその将校の助命を嘆願してたな。愛国者だと。
　苦：第2次世界大戦終結時、インド独立運動を押さえつける力も、また統治者として印度内の宗教紛争を解決する力もはイギリスに残っていませんでした。
　微：「国民投票で離脱を決めろ」と大衆紙が批判したそうです。
　苦：それはEU離脱だよ!!　大戦終結直前の下院選挙では、チャーチルの保守党が敗れ、独立容認の労働党が勝ち、アトリーが首相になりました。彼は独立の年を1947年と宣言します。
　微：インドのことを全く知らないマウントバッテン卿を最後のインド総督にするくらいだから、アトリーもやけくそ気味だよな。トットナムハット卿だったら線路を延長しそうだな。
　苦：それは『機関車トーマス』だろ！　1947年8月15日インドは初代首相ネルーのもとで独立しますが、前日にジンナー首相のもとにパキスタン・イスラム共和国として分離独立していました。
　微：何千万人規模の「もう、キミとはやっとられんわ」「ほな、さいなら」だな。しかも流血の。
　苦：分離独立前後、宗教暴動が吹き荒れました。ガンディーは何度も断食し、身を挺してこれを防ごうとしましたが、ヒンドゥー原理主義者からはムスリムに対して譲歩しすぎだと敵視されます。
　微：大同団結運動と同じで緩く集めると内部争い、思想的に絞ると少数集団で影響力なし。難しい。
　苦：そして翌年の1948年1月30日にニューデリーのビルラー邸で狂信的なヒンドゥー原理主義青年ナートゥーラーム・ゴードセーによって3発のピストルの弾丸を撃ち込まれました。
　微：口径が３つとも違っていたそうです。
　苦：大事件だよ！　ガンディーは額に手を当てました。それはイスラームで「あなたを許す」という意味の動作です。そして、「おお、神よ」とつぶやいて事切れたそうです。享年78歳でした。
　微：オレもトイレで「おお、紙よ」と叫んだことがあるな。
　苦：どうでもいいよ!!　聖者のように見えるガンディーが目をそらした問題はけっこうありますが、アキレス腱となったのがアウトカーストの問題です。
　微：それを鋭く衝いたのがインド連邦憲法起草者アンベードカル(1891～1956)だな。
　苦：彼はヒンドゥー社会の最下層、アンタッチャブルあるいはダリットとして知られるカーストに属する両親のもと14人兄弟の末っ子として生まれました。
　微：こいつを法務大臣に任命したのがブラフミーのネルーというのが最大の皮肉だな。