食べもねんたる16

出かけるのが億劫でピザ頼んだら店員が思わぬ質問を振ってきた。

「生地のタイプ、パンタイプとラクリマ・クリスピータイプからお選びいただけますが?」

 なんか聞こえた。いらない枕詞。
 俺は『おいおい』の気持ちを込めて「え?」と聞き返した。

「生地のタイプ、パンタイプとLa'cryma クリスピータイプからお選びいただけますが?」

 いやいや。
 なんでちょっと発音良くなってるねん。
 やむを得ず、店員との攻防戦がはじまった。

「その、ラクリマってのはなんなの?」

「はい?La'cryma?」

「言い直さなくていいから。なんなの?」

「クリスピーの種類ですね。1997年にポリドールから発売されました」

「それはラクリマクリスティーのメジャーデビューの話だよね。ピザの話をしようか」

「南国の味がしますよ」

「そうなの?」

「ええ、第3のフレーバー。あるいは第3のリリース」

「単にサードシングルのタイトルじゃねえか」

「ライムもありますよ。Lime Rain」

「明らか曲名な気がする」

「いい勘してますね、お客さん。HIRAMEKIましたか?」

「多分それも曲名なんだろうし、食べ物関係ないから被せ方も腹立つ」

 どうもこの方向で話を進めるのは得策ではないので単刀直入にいく。

「普通のクリスピータイプはないの?」

「ええと、それは?何クリマ・クリスピーのことですか?」

「何クリマでもない!強いて言えばプレーン」

「プレーン?クリスピーだけにもう一言噛み砕いてもらえると助かります」

「上手くない!一般的によく出回ってるやつ!」

「OH,IT’S MAJESTIC! 2003年Majestic Ringに移籍」

「ちくしょう!」

 埒が明かないので、結局俺はパンタイプを頼むことにした。
 クリスピーが食べたかったが、それ以上にやりとりに胸焼けした。

 店員はクリスピーが絡まなくなると興味がなくなったらしく、淡々と事務的に処理された。

 そして20分後、チャイムがなる。

「ピザーロでーす。おまたせしましたー」

 なんかでかい。小熊くらいある。
 肩の上になんやねんってレベルのでかい包装が載っている。

「なんか、包装でかくない?」

 店員が質問に目を輝かせた。

「お客様、お目が高い。シルクで教会の鐘をやさしく包み焼きにしました」

「やめろ!ラクリマ・クリスティじゃねえか!そしてついに食べ物でもねえ!」

「あなたのためだけ、ですよ」

 店員は真摯な目でそう伝えてきたが、単に歌詞を続けただけだった。

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