食べもねんたる33

「号外!号外~~~~~~!!大スクープだぁ!なんとなんとの大仰天!リンゴと蜂蜜恋をしたーー!!」

 おいらは勢いよく新聞をばらまく。
 枯れ木に花よの大盤振る舞い。紙の吹雪が街路に咲く。

「いや、言われなくても知ってるよ。バーモントじゃん。バーモントカレーのCMじゃん」

 そんな声が聞こえてくるのは100も承知、知ってるさ!!
 そいつを見越して、記事はバーモントカレーの空き箱に書いてるって寸法さ。印刷とかよく分からないからマーカーペンで手書きだぜ!

 ドッヒャー!こいつは恐れ入ったぁ!やっぱおめぇの記事は最高だなぁ、その声があちこちから耳朶を打つってもんだ。
 そう!おいらはこの街の新聞記者兼ムードメーカー スクープ衛門!!
 みんなを楽しませてなんぼの男よ!お代なんていらないぜっ!!

 そんなおいらの人気者っぷりを妬んでのことだろう、よく思わない奴らもいる。
 それがこちらの陰険な目をしたニュースペパ原親子だ。おいらと同業、新聞記者なんざやっている。

「おのれ、スクープ衛門。紙資源をあんなに無駄にしおって」

「ホントそうなんですよ。それに彼はお金に無頓着すぎる。老後のことを考えてもっと堅実に生きて欲しい」

 陰険な目をした陰険親子が隅っこでボソボソ言ってやがる。
 きっと俺に関する陰険な噂なんぞしているんだろう。でも構いやしねぇ、おいらは街の人気者だかんな!

 そんなことを言っているとおいらんちにニュースペパ原がやってきた。息子の方だ。

「スクープ衛門さん。あなた、うちのアパートの賃料4ヶ月も滞納してるんですよ。いい加減払ってもらわないと困ります」

 おいらは窮地に追い込まれた。そういや、この親子うちのアパートの大家だった。

「何も着の身着のままで追い出すつもりはないです。うちの新聞社にスペースを用意するのでそちらでお金のことちゃんと考えましょ」

 なんて卑怯な奴なんだ。おいらが人気者なもんでこの街から放り出す魂胆のようだ。
 こんなものは暴力だ!暴力に報道屋はやられる訳にはいかない。ペンは剣よりも強し、てね!
 ここでおいらは腹を括る。息子のやつに人差し指を突き付けてガツンと啖呵を切ってやった。

「ようし、そこまで言われちゃ黙ってられねえ。こうなったら、どっちが新聞マンとして上かで勝負だ!」

「え?それ今、関係あります?」

 息子め、これには痛いとこを突かれたのか目を白黒させる。こうなりゃ素早く畳みかけるだけよ!

「おめぇさんが勝ったら潔くこの部屋を明け渡そう!なぁに。毎晩、月を拝むのも悪かないさ」

「いえ、ですから。社内にスペースは用意しますよ?屋根ありますよ?一応窓から月も見れます」

「だが、その代わり!」

 なんだかんだと女々しい言い訳をはじめた息子に俺は言葉の刃を突き付ける。
 こいつで決まりだ!

「おいらが勝った暁には、これまでの滞納家賃、チャラにしてもらうってのでどうだ!?」

 息子がごくりと喉を鳴らし、冷や汗が頬を伝ったのを確認した。完全においらのペースとなった!!

「いやそんなの全然駄目ですよ。だってうちにメリット何もないんだもの」

「ですよねぇ~」

 おいらはちょっと可哀そうになり追及の手を緩めてやる。

「そしたらさ、おいらがごとき卑小なものを憐れに思って、もしだよ?もしおいらが運だけで勝っちゃったりしたら、家賃1月待ってもらえねぇかなあ」

「まあ今更と言えば今更ですし、そのくらいであれば・・・」

「ようし!話は決まった!!」

 おいらはバチンと大きく手を叩く。そうして右手を差し出した。

「お互い正々堂々悔いのないように闘おう」

「なんの対決かさっぱり分からないんですけどね・・・」

 やむなくといったようにおいらに手を差し出す息子。握った!ここを勝機とおいらは言葉を次ぐ。

「せっかくの機会だ。もう一つ条件を足そうじゃないか」

「それ、通常であればこちら側から言う言葉なんだけどなあ」

「勝負の席のお食事。そちらでご用意するってことにしようじゃないか」

「ああもうそれでいいです。好きなお店なんでしたっけ」

「豪華屋!」

「はいはい、豪華屋の懐石弁当、準備してもらいます・・・」

 言質を取るが早いか、俺は踵を返す。
 日程とかルールとか、まあ色々決めてないことに後で気付いたけどそんなことは小さなことだ。
 息子はまんまとおいらの策にはまった。
 秘策だ、これで秘策が使えるぞ。おいらは一つの目標を掲げ一目散に走りだす。

 そうして迎えた対決当日。
 日程とかルールは結局、息子が上手いこと段取りしてくれた。陰険な目の癖に大した奴だ。
 この日のために用意された公認レフェリーがルールの再確認をする。

「ルールは簡単。この会場に集まった民衆に記事を読み聞かせ『イイネ』を多く集めた方の勝利だ。先手 スクープ衛門、はじめ!」

「リンゴと蜂蜜、恋をした」

「あっれぇ?なんか前に聞いたような、あっれぇ?ひねりもゼロ~?」

 レフェリーが盛大にズッコケる。この態度はフェアーじゃない気はするのだがおいらは気にしない。
 このズッコケ男に背を向け息子を見る。
 息子も「あっれぇ?」顔をしている。

「次はあんたの番だ。頑張んな、おいらは後ろから高みの見物さしてもらうぜ」

 クールに会場最奥に去る。
 取り残された息子とレフェリーは変な間を取られて拍子抜けしていたが、しばらくすると勝負は再開された。
 息子の奴の記事は実に素晴らしかった。
 トピックは『極めれば本格派。ネスカフェゴールドブレンドを極めた者はどうなるか?』の取材記事。
 細かい質問に裏打ちされた内容は聞く者の心を熱くした。
 最後のフレーズ『遂には触るもの皆、ゴールドブレンドになってしまうようになった。私は現代のミダス王なのかもしれない』はあんまり知識ない人も騒ぎ立てた。
 あ、ミダス王って触るものなんでも金にしちゃう呪いにかかった王様ね。
 
「ジャッジ!!」

 レフェリーが声を張る。
 こいつはもう決を採るまでもあるまいと、民衆たちが最奥を見やる。そこで彼らは度肝を抜かれた。
 スクープ衛門は記事になんぞ耳も貸さず、最奥の宴会スペースで豪華屋の弁当をかっ食らっていた。その数、全て。
 こいつにとっては「好物をたらふく食える」から「もう圧勝」が決まっていた。
 なんならおなかを空かすためだけに街中走り回っていた。

 ついでに言えばここからが本領。腹が減っては戦は出来ぬ。

 スクープ衛門は対決とか無視して盛大に駄々を捏ね、暴風雨のように喚き散らした。
 結局家賃は三か月据え置きとなった。

 えー、皆々様もうお分かりかい?ペンは剣寄りが強し、てね。  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?