食べもねんたる37

ここはファンタジー世界。
 魔王が復活してからなんかいろいろ「イヤン」なことが起きており、人間みんな困っちゃっていた。
 そこで勇者率いる討伐隊が選抜されるに至った。
 その旅もついに終盤!彼らは魔王と対峙する!!

「フハハハハハハ!勇者よ、その胸に秘めたる属性の力とやらワシに見せてみよ」

 見せてみよとウェルカムしてもらったところ悪いのだが、勇者は困っていた。
 いや、胸に秘めたる属性の力とやらがない訳ではない。
 旅の準備段階で、村の入り口のおじさんが気軽に目覚めさせてくれた。修行とか代償とかなあんもなかった。
 問題はその先だ。胸に秘めたる属性の力についておじさんこう言った。

「ほい出たよ。あんたの力、『グレートチキンパワーズ』だってさ」

 グレートチキンパワーズだった。
 グレートチキンパワーズ?なんやねんな、それ。

「うおー!!」

 勇者は「うおー」とか言って走り出し魔王にボディブローを見舞う。

「げふぅ」

 魔王の体がちょっと「くの字」に折れた。いける。
 勇者が背後を振り返る。仲間たちが休めの姿勢で見返していた。
 こいつら・・・!「胸に秘めたる属性の力、どんなのかなー」って見物の体になってやがる。 

「ついに正念場だ。畳みかけるぞ!」

 言われて「そうだった、そうだった、俺たちも闘うんだった」と動き出す仲間たち。
 ほんともう頼むよ、と勇者は思う。
 なんだかよく分からないグレートチキンパワーズには極力頼りたくない。みんな頑張って削ってくれ・・・!

 最初のうちなんだかんだとやられてくれていた魔王が魔術師の炎を受けて息を吹き返す。
 丸まって耐えていた体を大の字に開くと、勇者と仲間たちは分かりやすく四方に吹き飛ばされた。

「フハハハハハハ!だらしがないぞ勇者一行。胸に秘めたる属性の力を使わなければこんなものか」

 ああ、ややこしいところに話戻された畜生。そっとしといて欲しいのに。
 こちとらグレートチキンパワーズなんだよ、なんなんだよ!

「うおー!!」

 勇者はまた「うおー」とか言って走り出す。走りながら考える。
 あれか?すごい鶏の力ってことか?それってどう強さに反映するんだ?
 まず鶏の特徴ってなんだ?コラーゲン多め?多いけどさ確かに。
 どう戦いに使うんだ?使えねえだろ!
「くらえ、コラーゲンボール」引かれるだろ!

 再びボディブロー。

「げふぅ」

 魔王が体をちょっと「くの字に」折る。こいつ、ガード疎かだな。

「攻撃は通るぞ。畳みかけるぞ!」

 振り返るとやっぱり「俺たちじゃ無理か。やっぱ胸に秘めたる属性に頼るか」とおねえさん座りになっていた仲間たちに発破をかける。
「なら頑張るか」とよっこらしょと仲間たちは立ち上がり魔王をぼかすかやりだす。
 で、魔術師の炎。魔王むっくり。吹き飛ばされる仲間たち。
 それさっき吸収されたじゃん。さっきも元気になったじゃん。

「フハハハハハハ!言っておいてやろう勇者一行。ワシは胸に秘めたる属性の力しか通用せぬぞ。持っているのは分かっているんだからな!」

 ずるいぞ。順番抜かししやがった。
 そこは「まさか秘めたる属性の力を持っていないのか?」って聞くところだろう。
 そしたら元気に「はい!」って答えて済んだのに。

「うおー!!」

 勇者はまたまた「うおー」とか言って走り出す。そうして再び考える。
 あるいはだよ?あるいは、その、『たけしの元気が出るテレビ』の方だったらどうする?
 元祖レベルの高校生芸人。
 いやちょっと古すぎない?あーいや、古さで言ったら食べもねんたる16でラクリマクリスティーの話題あったわ。さらに古いわ。
 でもだからって言ってもこれ通じる?芸人のグレートチキンパワーズ、話題として通じる?ネタ1つも覚えてないよ?

 もうちょっと小慣れてきた感もあるボディブロー。

「げふぅ」

 当たり前のように通った。くの字だ。

「攻撃は通る。だが気を付けろ。こいつ、炎を吸収して元気になるぞ」

 なぜだか当たり前のように休んでいた仲間たちに攻撃の再要請をする。炎に関する釘差しも忘れない。
 仲間たちは緩慢に起き上がって魔王をぼこすかやりはじめる。
 釘差したから炎も控えている。いける。
 って思ったら魔術師が吹雪を出してみた。嫌な予感がするまでもなく魔王が元気になる。四散。

「フハハハハハハ!ねえ、さっきからなんで素手なの?せめて剣とか使わない?」

 魔王が痛いところを突いてくる。勇者は焦った。
 だって剣とか抜いちゃったら「お、ついにやるか?胸に秘めたる属性の力か?」どうせ期待するんでしょ?
 仲間たちも一緒に期待するんでしょ?
 そしたらいやがおうにも使わざるを得なくなるじゃん?多分しょぼい力なのに。
 期待しといて引かれるとか最悪だろ!

 勇者は「うおー」からのボディブロー「げふぅ」をコンパクトにやりながら後ろに叫ぶ。

「攻撃は通る。そしておそらくだが魔術全般は吸収して元気になる!」

 魔術師がしゅんと肩を落とす。
 ごめんな、でも流れ的になんとなく分かってたろ。
 とりあえずみんなでぼこすかだ。魔王さっきより元気なくなってきた気がする。いける。
 と、シャーマンがなんか急に興が乗ったみたいに雨乞いの儀式とかはじめる。
 いやお前いままでそんなんしたことないじゃん!この冒険で一度もしなかったじゃん!
 
 案の定、なんか魔王は元気になる。またみんな吹き飛ばされる。

「フハハハハハハ!え?まだ素手なの?頑なすぎてちょっと引くんですけど」

 うおー!ついに引かれた。胸に秘めたる属性の力、使うまでもなく引かれた。
 勇者は苦悩に悶える。

「連続フハハハハハハ!もしかしてなんだけど、本当に胸に秘めたる属性の力、使えない系」

 だから順序が違うんだよ。先それ言ってくれたらこんな困らなかったのに!もう怒った!

「いーや!使えるとも!っていうか今使いだした。俺の胸に秘めたる属性の力、それは『めっさ観察力』」

「フハハハハハハ!何ぃ?」

「みんな、魔王の弱点が分かった。素手でぼこすかに弱いことだ。しかし気を付けろ!素手でぼこすか以外をやってはいけない・・・と胸に秘めたる属性の力が言っている」

 あーそうかそういうことだったのか、という顔をして仲間たちは俄然やる気を出す。
 俄然ぼこすかやりだした。
 ついに崩れ落ちる魔王。でも、絶対1回目の下りで勝てたよね、これ?属性の力言うただけで信じる流れいらんかったよね?
 最後の力を振り絞るとばかり魔王はちょこっと首を上げる。

「よくやった勇者一行よ。褒美をくれてやろう。ワシが今から渡す宝箱を背後の台座に置くがよい。胸に秘めたる属性の力に対応した宝に変化するだろう」

 最後にいらん親切を発揮して魔王は息絶えた。
 いや、めっちゃしっかり両手で宝箱持ってるか確認してから倒れたから狸寝入りの可能性が高い。
 結局、グレートチキンパワーズがなんなのか明らかになる流れか。もういいか、冒険終わったし。

 勇者は宝箱を台座に置く。途端、響き渡るコール。

「97キロバトル!」

 あー、やっぱり『たけしの元気が出るテレビ』の方だった。でもこれはオンエアバトルの時だ。
 勇者はどっちの時のネタも覚えてなかったし、どっと疲れが出て元気は失った。

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