食べもねんたる7

組まれた足は長く、美しく、優雅に過ぎる。
 
 インタビューに答えるそのロックシンガーは完璧な美貌を称えていた。
 美しく雄々しく、工芸品の美と野生の美を兼ね備えている。
 歌唱力にも同じことが言える。天才的な技術と、信じがたい音域・音量を持つ。
 パフォーマンスレベルも世界に通用する。

 これだけ揃って人気が出ない訳がない。
 訳はないのだけど、そうなんだけど、なんかあんまり大した人気じゃない。
 その理由は、

「俺たちはさ、地球という箱舟に乗り込んだ、翼の折れたエンジェルなんだよ」

 痛すぎるキャラクターカラーにある。

「そう、例えて言うなら。『伸び切ってコシの無くなったインスタント麺』」

 しかもいろんな意味でだ。

「ほ、ほう」

 例えて言うならって、翼の折れたエンジェルは例えとちゃうんかいと思いながらとりあえず記者はメモを取る。
 今の部分は絶対使えないから、帰りに受付横にあったゴミ箱に捨てようと誓う。
 ついでに今夜は絶対ラーメンは食わないと誓う。

「なるほど。ところで来月には新しいアルバムが発売されますね。そのお話を聞かせてください」

「OK」

 優雅に笑い鷹揚に頷くその姿。記者はつい心奪われそうになる。
 なんたる魅力、同性だというのに。この磁力はなんだ。

「今回のアルバムは僕の活動の集大成の意味を込めて、自分の名を冠した。
 そう、『アンリミテッドディザイアー・トキヒト・レプラコーン』ってね」

 そして、たった一言で気持ちが萎える。
 そうだった。磁石には反発もある。

「えーと、『福住 時仁』ですよね?」

「なにが?」

「あなたの名前っていうのなら」

「いや、アンリミテッドディザイアー・トキヒト・レプラコーンだよ」

「いやいや前のアルバムに『TOKIHITO FUKUZUMI』って書いてあるもの」

「それは現世(うつしよ)を欺くためのフェイクさ。
 言わば『食品添加物 記載義務違反』・・・・・・みたいな?」

「義務違反やったらあかんがな」

 ついに堪えきれなくなって記者はツッコンでしまった。

「なるほど。じゃあ、レプラコーンは外そう」

「前の奴もだよ、前もいらん」

「そしてカプリコーンを付けよう」

「山羊座は関係あらへん!」

「え?グリコのお菓子だよ?」

「それはカプリコや。ジャイアントカプリコや。不思議そうに言うてるけどお前が間違えておるのや!」

 寒いオチもついたのでいろんな意味でクールダウンする。
 アンリミテッドディザ(以下 トキヒトとする)は何事もなかったように語りに熱を入れる。

「アルバムの話だったね。今回の曲順は『一大叙情詩を紡ぐ』ように。且つ『巨大体系を紐解く』ように作られてる」
「一曲目『天が恵む清き水の準秘蹟』は全ての始まりを指す。『お料理で言うと洗剤でお野菜を洗う』あたりね」

「洗剤で洗っちゃダメだろ」

「じゃあ漬け置くことにしよう」

「洗剤を使うなっつってんだよ」

「OK。粉セッケンも常備してる」

 この調子で、全15曲分の間に、
 
 原罪を背負った子供が楽園を追放されて、
 裏新宿に住んで奪還屋となり、
 天使と闘って悪魔と恋して、
 天空に浮かぶ大陸を見つけて、
 深海に超科学を称える王国も見つけて、
 紙ヒコーキあの曇り空割って、
 サムライがなんだかトルーパーして、
 超電導マイクロパルサスフォン機関を使って第16宇宙に旅立つに至った。
 
 同じく、スパゲッティに例えられ、ハンバーグに例えられ、寿司に例えられ、八宝菜に例えられ、
 サラダと煮物と焼き物と炒め物と乾き物に例えられた。
そのどれもになんか絶妙に食欲をそそられなかった。

 記者はその全てを今晩食わないと誓い最後の質問を口にした。

「そして、アルバムの発売に合わせ、全国ツアーを行うということですが・・・・・・」

「そう、ここで全ぶっこみ。要は『お鍋を使う料理の全般』みたいなものなんだ。ぐっちゃ煮だね」

「もうなんも食えねーじゃねぇか!!!」

 記者はちゃぶ台をひっくり返しながら、もう酒飲んで寝る以外何も考えないようにした。

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