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パラリンピックを大層楽しく拝見した一般人の感想

2021年9月5日、東京2020パラリンピックは全日程を終えた。
多様性を意識した見ごたえのある閉会式は最後まで開催側の努力がうかがえるすばらしいものだった。
7月23日のオリンピック開幕以降続いた私のスポーツ(観戦)漬けの毎日が終わったことになる。

私は自他ともに認める運動音痴だが見ることにおいては30年ほどのキャリアをつんだベテランだ。
野球を中心に各種スポーツを広くたしなんでいる。

この夏は忙しかった。本当に。

そんな私は一視聴者として、沢山の苦難を乗り越え開催された東京パラリンピックについて思いをはせる。

始めてじっくり視聴したパラリンピックスポーツはどれも刺激的だった。団体競技の細やかなルール運営にも感心したし個人競技でのサポート体制など普段見ているスポーツとは違った楽しみ方を知ることで興味が出た。
もちろんすべてを見れたわけではないが、思っていたより多種多様な競技があり素人でも楽しく盛り上がることができた。

多くの選手の活躍を見て、私の中に3つの疑問がわいた。

・なぜオリンピックのように一般の盛り上がりが感じられないのか
・パラリンピックを見る敷居が高いのはなぜか
・パラリンピックとオリンピックのつながりを感じられないのはなぜか

この疑問を私なりに考え、結論をここに書く。

ひとことで言うとオリンピックとパラリンピックが全く別物過ぎて一種の燃え尽き症候群みたいになっていたと思う。

なんだかんだあったけどオリンピック意外と楽しかったな、メダルもたくさん取れたしよかったよかった」

SNSにはびこるその雰囲気を、パラリンピックが払しょくできなかった理由は何があるだろうか。
私が素人ながらに考えた改善点、今後多くの人とパラリンピックを楽しめるにはどうするべきか。
もしパラリンピック関係者様の目に留まるならと願い、素人考えをここに置いておこう。


パラリンピック視聴者が助かったテレビ演出

先に申し上げたように私は2020パラリンピックをとても楽しくみることができた。
理由は放送上の工夫にとても助けられたからだ。

①競技前にルールや見どころを紹介するVTRが用意されている
➁健常者人気タレントのパラ種目体験談でパラスポーツは誰でも楽しめるという言及が随所にみられた
③有名アニメクリエイターらが作成した競技の紹介アニメが魅力をつたえてくれた(アニ×パラ)

順番に紹介していく。

①競技前紹介VTRは格好よくスマートでわかりやすい

スポーツ観戦時の大きなハードルのひとつが「ルールがわからない」というものだ。
よく、デートで彼氏に野球観戦に連れて行かれてわからないからつまらなかった、なんて話を女性から聞くが(私だったらむしろ解説してしまうけど)複雑なルールを理解できずスポーツを楽しめない人も多い。
パラリンピックは競技の性質上障害の度合いによって細かくクラス分けがある。

たとえば車いすラグビーは同じチームの選手でも障害の重さにより0.5~3.5まで点数が割り振られ、メンバー5人の合計が8点以内になるようにきめられている。
試合中で意識することは少ないが、途中でメンバーを変える場合は2.3人同時に変更するシーンがよく見られた。あれはそのルールの中で最大限の力が発揮できるように工夫された作戦なのだろう。

このルールのおかげで障害の程度や男女さえ関係なく誰でも同じ競技を楽しめるのが車いすラグビーの特色だが、試合開始前の紹介VTRではそのほか細かいルールをさらっと触れてこちらが構えることなく試合を見ることができた。
とてもうれしい試みで、今後の大会でも続けてほしい。

②櫻井君と武井壮さんの体験談がリアルで熱くて楽しかった

オリンピック閉会式後、NHKのオリンピックメインパーソナリティだった櫻井さんと相場さんはそろってパラリンピックへの思いを口にした。

パラリンピック開始以降出演時には櫻井翔さんは車いすバスケのドラマ出演時の苦労やその中で聞いた選手の思いなどを実感を込めて伝えてくれた。
取材で出会った選手との交流もあるそうで、熱い思いで感極まるシーンもあり、思いのこもったコメントでこちらも応援に力が入った。

余談だが軽い気持ちで車いすラグビーの感想をツイートしたら人生最大のいいねが集まったのはなんというか、びびった。嵐すごい。

武井壮さんはほぼすべてのパラスポーツを体験したそうで、体験時の映像も放送された。
スポーツ万能な健常者=武井壮でも苦労するパラスポーツの奥深さを実感をもって話してくれた。
さすが百獣の王、説得力が違う。

パラスポーツ=障害者スポーツ

ではなくて、だれにでもできるスポーツであるというメッセージを感じた

③アニ×パラ企画はパラスポーツを身近に感じるだけじゃない細やかな作り

パラリンピックスポーツの紹介アニメを有名クリエイターが作るというNHKの企画。各5分の短いアニメーションだがそこは名のあるクリエイターの取材と演出の妙が光りとても奥深い作りになっている。(以下リンク)

おススメは、こち亀のゴールボール。おなじみの面々がゴールボールに挑戦する様は、まるでこち亀の本編をみているようににぎやかだ。
あとはパラ陸上の義足のランナー編もアニメーションがとにかくきれいで5分の短編にもかかわらず見ごたえ抜群だ。

パラリンピック期間中はこのほかにもたくさんの作品がNHKで放送されていたので目にした人も多いのではないだろうか。
いつまで掲載しているかはわからないが、特設サイトでそのほかの作品も視聴可能なのでぜひ見てほしい。

パラリンピックに感情移入する人を増やすには

様々な取り組みのおかげでおもしろくみれた一方、オリンピックの盛り上がりと比べるとどうしても盛り上がりにかけたと感じる部分も多かった。
特に個人的には以下の点が気になった。

⑴パラリンピック選手とオリンピック選手の交流はないのか
⑵パラリンピック競技の裏番組でオリンピック特番
⑶同じ競技をずっとやってるように見える

順番に説明していこう。

⑴パラリンピック選手とオリンピック選手の応援合戦で相乗効果

私は東京2020オリンピックをきっかけにTwitterをフォローしたオリンピック選手が何名かいる。
その選手たちの中にはパラ選手と交流がある方もおり、応援のツイートを発信している。

オリンピックフェンシングエペ団体金メダルの宇山選手

同じくフェンシングの見延選手はパラリンピックの閉会式にサプライズ登場。

私が見れていないだけで他の選手も練習場所や団体で応援していた人はいるでしょう。
しかしテレビを通してそれを知る機会は少なかったように思う。
SNSでももっと、いい意味でお互いを利用して盛り上げていくべきだ。
たとえばテレビの取材で同じ環境で練習を共にする映像などが映ると「パラリンピックとオリンピックの壁」を感じさせない演出につながるのではないだろうか。

⑵民放各社のパラリンピック期間中番組方針に疑問

これはオリンピック選手を責める意図は全くない。
なぜなら先の記事で述べたようにオリンピック選手たちも自分の団体や企業の威信を背負ってメダルをゲットし、その結果として民法特番への出演という大きなチャンスを得ているからだ。

けれど民放各社の特番があるからオリンピック選手たちはそちらの宣伝をする必要があり、パラリンピックの試合の宣伝に力を入れられないという苦しい事情がみうけられたように思う。

民間放送局の事情として、スポンサーや出演者の日程の都合でオリンピック選手を呼んだ特番をオリンピック直後、つまりパラリンピック期間中に組むまでは百歩譲って納得する。

しかしお笑いタレントやミュージシャンを集めた大型バラエティ番組をよりによってパラリンピック期間中に放送する神経は理解に苦しむ


相互理解だ差別排除だと日々ヒステリックに報道する割にはこのありさまであるから信用ならないと感じてしまうのだ。
出ている芸人さん、タレントさんに罪はないだろう。お仕事だもの。
問いたいのはあくまで放送局の意識の問題だ。

民法各社にはぜひパラリンピックのメダル速報はやめにしてもっと大会を盛り上げるために協力してほしい。

⑶放送競技にかたよりがある?もっと多様な競技に焦点を

私がすべて追い切れていないというのを抜きにしても、地上波で放送されている競技に偏りがあったのではないか?と感じている。

もっと言うと、ずーっと水泳ばっかりやっている気がした。
でも実際は様々な試合も同時進行だった。

水泳は泳法や障害の程度によりたくさんの種目があるのでそう見えるのは仕方ない部分があるだろう。しかし私は別の競技ももっと見たいと思った。

パラリンピックは多様性を認め合う格好の機会だと私は考える。
その多様性とは、障害、性別、国籍、多岐に渡るが
競技の多様性こそがそれを表しているように思う
相互理解を深めるきっかけにするために多くの競技を多くの人に興味を持ってもらうべく、目に止める機会を増やすべきだ。

2020パラリンピック自転車競技において金メダルを獲得した杉浦選手は”趣味”のトライアスロンに意欲を示すコメントを残している。

スポーツの種類すら問わず自分の限界にチャレンジする姿勢こそ我々健常者がパラリンピックから学べることだ

注目選手が出場する競技に放送が偏るのは理解できるものの、もう少し多様な種目をライブで見る機会が増えるとうれしい。

パラリンピックを見る環境の問題も

実は体調を崩してこの度仕事を辞している私。
自国開催のオリンピック→パラリンピックの流れをテレビを通して体感できたことは不幸中の幸いだ。(甲子園も久々にじっくり見れた)
オリンピック期間同様Twitterのフォロワーさんとも盛り上がりを共有できると思っていた私にはパラリンピック期間中のタイムラインの静まり方は予想以上だった。

なんとなくムキになって速報ツイートしたので何人かにミュートされたかもしれない。

これはSNS上だけにかかわらず実生活でもパラリンピックを見ていないという人の話を聞いた。
それぞれいろいろ意見はあったが、要約すると障害者を見るのがつらいというものだった。

障害者を守ろうという気持ちが強い、やさしい人の口からきかれることが多かったのがこの意見だった。今までの教育で保護すべきと学んできた障害者が必死にプレーする姿を見て痛々しいと考える人もいたのだ。
これはまったく見当違いで選手の方に失礼極まりない感想なのだが、これこそが今の障害者スポーツと一般の視聴者の壁の一つだ。

民法の24時間耐久テレビを全否定する気はないが、お涙頂戴のエピソード以外に障害者の方をテレビで見る機会は少なく感じる。

世間の障害者報道の違和感はパラリンピックナビゲーターになっていた作家の岸田奈美さんが記事で伝えている。
家族が障害者であり世間のイメージと当事者の葛藤。実感のある率直な気持ちが垣間見える。

これは主観になるが、実生活で障害をもった方と接する機会が少ないことも背景にあると考える。
パラリンピック開会式・閉会式で流れたIPCのキャンペーン動画に「私たちは特別じゃない」という言葉があった。

世界の15%が多いか少ないかはおいておくとして、職場の同僚、学校の友人、近所の住人などに障害をもった方が居れば立場の違う人との接し方も自然と身に付き、過剰に保護したり忌避したりする傾向が少なくなるだろう。

しかし一方で明らかに合わない環境に平等の名のもとに重度障害者を入れ込む行為は慎重になりたい。理解の無いまま環境を変えるとそれこそが争いの火種になるからだ。
問題を浮き彫りにし、その壁を認識し、乗り越える方法を考える。

あくまで相互理解。障害のある人も、ない人もお互いに考えるのが理想でありそれが特別じゃない15%と同じく特別じゃない85%との付き合い方なのではないだろうか。

まだまだ壁があることを認めたうえで、スポーツを通して相互理解を進める意味でもオリンピック選手とパラリンピック選手の交流は今後より一層進めてほしいと願うばかりだ。

きれいごとだけども、理想は理想として掲げたい。

今後私たちがとるべき行動

私は東京2020パラリンピックが開催されたことに感謝している。
様々な気づきをもらえたからだ。

障害の有無にかかわらず共生社会実現のありかたのひとつがパラリンピックだと理解した。

車いすラグビーでは男女分け隔てなく同じコートでプレイすることができ、競技に使う車いすは特殊なもの。そして試合中にパンクしたタイヤを素早く取り換える技術者など障害のある人もない人もそれぞれの役割を持って試合に臨む姿に感動した。

これも東京でこの夏にパラリンピックが無ければ絶対出会えなかった事実だ。

私たちにできる一番簡単なことは試合を見て選手を応援する人を一人ずつ増やすこと。
見れば面白いのは間違いないわけだから。
せっかくあるパラリンピックというコンテンツを利用して、パラスポーツに触れる機会を増やしたい。

パラリンピック競技には練習や試合で体育館が使用できないなど様々な問題が山積していると聞く。
その問題もファンが増えれば自治体も無視できなくなるはずだ。

ともかくまずは見る人を増やすこと、これにつきる。

選手、サポートスタッフ、かっこいい車いす、義足技師、ガイドランナー…きっかけはなんでもいい。

人に興味をもってもらい、競技に親しむこと。

見て何を感じたかは各々の感情だから自由だ。
一人一人がまずは何かを感じて実生活に広げていく活動が必要だと感じる。

パラリンピックを、パラリンピックだけで終わらせない。

今後ますます発達するテクノロジーと人類の可能性が共存するスポーツの祭典がもっとたくさんのひとと共有できる世界になるように私も微力ながら応援したい。


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