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炎症②

炎症 その2
炎症のプロセスと種類について、お話しします。ざっくりと全体像を把握しましょう。

① 血流の停滞
② 血管の拡張
③ 血管透過性の亢進
④ 好中球の遊走
⑤ マクロファージの遊走
⑥ 細胞組織破壊

前回、炎症細胞たちを紹介しましたが、炎症細胞は通常血管の中にいます。病原菌やその他の有害因子は、通常、血管の外の組織にいますから、炎症細胞はまずそこにたどり着かねばなりません。そのとき、一番最初に起こるのが血流の停滞です。炎症が起きている組織の近くの血液の流れが遅くなって、炎症細胞がそこらに溜まりやすくなります。同時に、血管も拡張し太くなります。血管にはところどころに穴が開いているのですが、その穴を通って、炎症細胞が出ていきやすい環境が整います。これを血管透過性の亢進といいます。こうしてお膳立てが整ったところで、ついに炎症細胞が旅立っていきます。まずは好中球が我先にと移動します。その後、遅れて今度はマクロファージがやってきます。好中球はとにかく病原体を貪食するのみですが、マクロファージは抗原提示というのを行うのでした。抗原というのは、病原体の一部と考えてください。マクロファージはそれをTリンパ球に見せます。これが抗原提示です。抗原提示が起こると獲得免疫という機構が発動します。これによりさらに効率よく病原体を排除することができるようになります。

炎症の4徴を思い出しましょう。発赤・腫脹・熱感・疼痛でしたね。これは今の炎症のプロセスと対応しています。まず、発赤。これは血管が拡張したことで起こります。血液が局所的に増加したために赤くなって見えます。腫脹は、血管透過性の亢進と対応しています。血管透過性が亢進すると好中球だけでなく、他の液体成分も外に出ます。それが溜まることで腫れます。液体成分が組織内に溜まることを医学用語で浮腫といいます。腫脹は浮腫が原因で生じます。熱感は、血流の停滞と関係しています。これによって、温かい血が局所にとどまるので、熱く感じます。疼痛は細胞と組織の破壊によります。また、好中球やマクロファージが放出するケミカルメディエータの中に痛みを引き起こすものがあります。

次に炎症反応の種類をみていきましょう。といっても、大きくは2つしかありません。急性炎症慢性炎症です。急性炎症とは病原体が体内に出現してすぐに起きはじめ、数時間から数日持続する炎症のことです。先に書いた炎症のプロセスは、ほぼ急性炎症に対応していると思ってかまいません。急性炎症の最大の特徴は、血管透過性の亢進と好中球です。血管透過性が亢進すると液体成分も一緒に出ていくと書きましたが、液体成分の中で特に重要なのが、フィブリンと呼ばれる物質です。フィブリンは血液を固めるのに必要なものですが、炎症の際にも病原体を動きにくくするのに一役買っています。フィブリンが組織中にみられるということは、血管透過性が亢進している大きな証拠となります。組織診断を行う際に、病理医は好中球とフィブリンに注目します。これらを見つけることができれば、急性炎症反応の真っ最中であると胸を張って言えるからです。また、好中球と関係することですが、膿みも急性炎症の証拠です。死んだ白血球の塊ですからね。ちなみに膿みは医学用語で、膿瘍(のうよう)といいます。

急性炎症でうまく病原体が排除できなかった場合、慢性炎症へと移行していきます。慢性炎症が起こる状況はある程度限られています。① 傷害性が弱いが持続的な弱い刺激を与える病原微生物(結核菌、らい菌、ウイルス感染など)、② 潜在的に毒性を有する物質への曝露(アスベストや脂質のとり過ぎ)、③ 自己免疫性疾患(自分自身を攻撃してしまう抗体による病気)、④ いったん治まった炎症が繰り返し起こる(慢性胃炎や胆石など)の4つが主な原因です。

慢性炎症では、主役が交代します。まず、好中球に変わって登場するのが、マクロファージ、リンパ球、形質細胞です。マクロファージ、リンパ球、形質細胞をまとめて単核球と呼びます。これらの細胞によって組織破壊と修復が繰り返し行われ続けます。破壊と修復の過程を反映するものが、新生血管と線維化です。組織の再生には血管を通じた栄養の供給が不可欠なため、新しい血管がたくさんできます。線維化は細胞の応答のところでやったやつです。完全な修復がうまくできない場合、とりあえず組織を線維で埋めようとします。慢性炎症のキーワードは、単核球、新生血管、線維化です。顕微鏡でこれらを見つけられれば、慢性炎症といって間違いありません。

今日は炎症のプロセスと種類についてお話しました。次回は、組織診断で重要な炎症のミクロ像についてお話します。

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