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免疫

 炎症と密接なかかわりのある免疫についてお話します。免疫は一大分野で、本来病理学とは別に真剣に学ぶべきものですが、ここでは、病理学に関係のあるところだけをかいつまんでお話しします。

 まず、免疫の主役たちを知りましょう。どんな細胞がかかわっているかを知ることは大事です。

免疫細胞

 好中球に代表される顆粒球系と呼ばれる細胞たち、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、樹状細胞、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞が免疫の主役です。身体の中に有害因子が侵入した場合、これらが免疫という、有害因子を排除する反応を行います。

 免疫には大きく分けて2通りあります。自然免疫獲得免疫がそれです。自然免疫は好中球による貪食のことです。本当は、他にも相当複雑な過程があるのですが、置いておきましょう。今日のところは、有害因子の種類に関係なく、いつでも一番初めに起きる免疫と理解しておけば十分です。

 しかし、有害因子が多い場合は、好中球だけではどうにもなりません。もっと効率よく一気に有害因子を迎撃できる方法が必要とされます。それが獲得免疫です。獲得免疫もかなり複雑ですが、大雑把に説明します。獲得免疫の発動には、抗原提示細胞という細胞による抗原(有害因子の一部が切り取られたもの)の提示が必要です。名称がたくさんでてきてややこしいですが、抗原提示細胞とは別に新しい細胞ではありません。マクロファージと樹状細胞のことと考えておきましょう。この2種類の細胞は抗原をヘルパーT細胞という細胞に見せることができます。抗原を提示されたヘルパーT細胞は有害因子の侵入を認識し、精鋭部隊を送り出し、一気にせん滅を図ります。

 精鋭部隊には2つあって、ひとつは、キラーT細胞による細胞性免疫、もうひとつはB細胞による液性免疫があります。細胞性免疫と液性免疫のどちらを使うかは有害因子の種類によります。B細胞による液性免疫では抗原を選択的に破壊する抗体というものを作って排除します。これは特に抗原抗体反応と呼ばれる有名な反応なので、名前を聞いたことがあるかもしれません。抗体にはIgM、IgG、IgE、IgA、IgDの5種類があり、必要に応じて使い分けられています。抗原抗体反応が起きた場合、抗原が入ってきたという情報は保存されます。そして、次に同じ抗原が入ってきた場合、以前よりも素早く抗体の放出が起きます。

 時に、免疫応答があまりにも過剰になり過ぎる場合があります。その場合、自分自身の正常な細胞も傷つけてしまいます。これがアレルギーです。アレルギーは病理学的に重要なので、少し話をしておきます。ひとくちにアレルギーといっても実はⅠ型からⅣ型の4つに分けられます。Ⅴ型アレルギーというのもあるのですが、特殊なものなので今は触れないでおきます。まとめると表のようになります。

アレルギー

 一般にアレルギーと呼ばれているのは、Ⅰ型を指していることが多いようです。Ⅰ型は即時型アレルギーといって、有害因子への曝露後早期に起こり、症状も目に見えてわかりやすいものばかりなので、アレルギーのイメージとして定着したのかもしれません。その他、3つのアレルギーはちょっとマニアックなので、細かく知る必要はないでしょう。移植拒絶反応も実はアレルギーというのは、意外なところかと思います。しかし、アレルギーの定義が過剰な免疫応答ということを考えると、かなり幅広い概念を指しているものだということは理解していただけるでしょう。

 その他、自己免疫疾患という病気も大事な病気です。本来、免疫は自己寛容といって、自分自身の細胞は攻撃しません。ところが、自己免疫疾患では、自分自身の細胞を攻撃するようになります。関節リウマチという病気の名前を聞いたことがあるかもしれません。関節には滑膜という構造があるのですが、この滑膜を抗体が攻撃してしまいます。そして、炎症が生じ、炎症が関節まで及ぶことによって、ひどい場合には関節が破壊されてしまう病気です。

 免疫が強すぎるのも問題ですが、弱すぎるのも困ります。生まれながらに免疫細胞が働かない人たちは免疫がうまく作動しないので、細菌やウイルスにかかりやすくなります。これを先天性免疫不全症候群といいます。また、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)というウイルスに感染した場合、ヘルパーT細胞がやられてしまいます。これが後天性免疫不全症候群(AIDS)という病気です。ヘルパーT細胞は獲得免疫の要なので、AIDSになると獲得免疫が全く発動しなくなり、やはり細菌やウイルスに感染しやすくなります。

 最近のトピックスとして、腫瘍免疫学というものがあります。本庶佑さんがノーベル賞を受賞したことで、一般にもある程度名前を知られるようになりました。これについては、別のところでお話をすることとします。

 免疫は簡単に語ろうとしても、どうしても内容が盛りだくさんになってしまいますね。免疫を詳しく知りたいという方には次の本がおすすめです。

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 非常に複雑な免疫の話が、とてもわかりやすく、僕のこの記事の5万倍くらいわかりやすく書かれています。

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