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寄生虫の話

感染症に便乗して寄生虫の話をしましょう。

ある生物が別種の生物の体内または体表に生活の場を得て、一時的あるいは生涯にわたって栄養をとりながら生活することを寄生といいます。生活の場と栄養を得る方を寄生体、提供する方を宿主(しゅくしゅ)といいます。寄生体が原虫、蠕虫、衛生動物の場合、特にそれらは寄生虫と呼ばれます。

寄生虫は進化の過程で宿主と密接なかかわりを築いてきました。宿主は寄生虫に生活の場や栄養を提供するだけでなく、感染や伝播の経路としての役割も果たしています。栄養状態が非常に向上したおかげで、寄生虫は過去の疾患となっているかと思いきや、世界に目を向けるとまだまだ寄生虫疾患は多いです。日本でも地域によってはいまだに寄生虫疾患が絶えない場所もあります。長い年月をかけて、築かれた寄生関係は容易に断ち切れるものではないのかもしれません。寄生虫感染という概念自体が忘れ去られてしまうことによって、逆に、無防備になり、再び感染が拡大してしまうというのもよくあることです。

ところで、何を隠そう僕は『インハンド』という漫画の大ファンです。ドラマも最高に面白かったですね。というわけで、僕の個人的趣味もかねて、これから時々寄生虫学も語ります。今日は初めてなので、寄生虫がどのようにして感染するかについて、お話します。まずは次の絵を見てください。

感染経路

ネコ(仮称トム)からスタートします。トムのお腹の中に、にょろにょろしたやつ(仮称パラちゃん)が見えます。パラちゃんはトムのお腹の中が大好きです。というか、トムのお腹の中こそがパラちゃんの最高の住まいです。パラちゃんは基本的にトムのお腹の中にしかいません。寄生虫は宿主と1対1の関係があり、この宿主を終宿主(あるいは固有宿主)といいます。しかし、パラちゃんは生まれながらにトムのお腹の中にいるわけではありません。パラちゃんの生まれる場所は外界です。だから、パラちゃんはどうにかしてこの最高の住処にたどり着く必要があります。そこで、利用されるのが、中間宿主です。これはパラちゃんにとって最高の住処ではありませんが、何とか飢えをしのぐことはできます。いわば仮の住処です。ある日、ネズミ(仮称ジェリー)が、パラちゃんの卵をうっかり口に入れてしまいました。しめしめですね。後はトムがジェリーを捕まえてくれれば、パラちゃんは晴れてトムのお腹のなかという最高の住環境を手に入れることができます。パラちゃんはどんどん卵を産みます。その卵はトムの糞とともに、体外に排出されます。トムがお散歩中にうっかり糞をしてしまったとします。外に放置された糞はやがて乾燥するでしょう。そこを通りかかった牛(仮称花子)が、糞の近くで草を食べました。ところが、そこには、乾燥した糞から飛散したパラちゃんの卵が付着していたのです。パラちゃんチルドレン(めんどくさいのでまたパラちゃん)はまんまと花子に潜入することに成功しました。ここに病理医である僕が登場します。僕は大の牛刺し好きです。今日は、知り合いの牛肉屋さんが特上の牛刺しを用意してくれるそうです。僕はお酒をたらふく飲みながら牛刺しを食べました。それはいつかの花子です。かわいそうな花子。しかし、実は僕もかわいそうなのです。あの、牛刺しにはパラちゃんがたくさん隠れていました。パラちゃん、次は僕に侵入です。一般に、終宿主内では、寄生虫は一つの臓器内にいることが多いですが、中間宿主内は迷走して、いろんな場所に行ってしまいます。僕は今後パラちゃんの甚大な被害を受けることでしょう・・・。

その他、虫が寄生虫を媒介することもあります。蚊が描かれていますが、パラちゃんの糞に止まった蚊に卵がついて、それが僕を刺し、刺し口から卵が入り込むという感染経路もあります。

このようにして、寄生虫感染が起こります。なかなか巧みだと思いませんか?

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