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憧れと尊敬

 今日も誰もいないカフェテラス。ホットのカフェオレを頼む。今日もまた友人はまだ来ていないが、彼は相変わらず分厚い仮面を被って、友人に囲まれていた。彼は変わらない。でも私は変わった、いや気付いてしまった。ふぅ、と溜め息のような息を吐くも彼のことを眺めることは止められない。

「まだ諦めてなかったの?」
友人が現れた。友人はハーブティーを頼む。
「我が親友よ。今日は愚痴と慰めを我は所望する。」
「なに、フラれた?なわけないよね。あんたにそんな度胸があるわけない。」
「そうだね、フラれた方が良かったな。世の中の真理に我は気付いてしまったのだ。」
「はいはい、傷心なのは分かったから、普通に話しなさい。」
「ノリが悪い。」
「あんたのノリに付き合うほどの優しさは持ち合わせていない。」
友人はつれなく言って、ハーブティーを堪能している。
「そんなにハーブティーは美味しいの?」
「あんたの話を聞くときは、ハーブの効果が必要なの。」
「冷たいなぁ。友人だと思っているのは私だけ?でも私もハーブの力を借りようかな。」
「ふむ、カフェオレだけは一途なあんたがそんなこと言うなんて、相当参っているんだね。グダグダ言ってないでさっさと本題に入りなさいよ。」
「裏表ないあんたが好きだよ。」
そう言って、私は少し冷めたカフェオレを飲む。
「あそこにいる前に話した好きな人ね。どうやら好きではなかったみたい。」
「ふーん、それで?好きじゃないと分かったところで落ち込む理由がないでしょう。」
もう一度私は溜め息をつき、カフェオレを飲む。
「ねぇ、憧れと尊敬ってどう思う?」
「は?それってそんなに違いがある?」
「全く違うことに気付いてしまったんだよ。私は彼に憧れていたらしい。」
「良く分からん。詳細を所望する。」
「お、ノリに付き合ってくれるか。さすがは我が親友。
お前には尊敬している人間はいるか?
お前には憧れている人間はいるか?」
「うーん、尊敬しているのは、復興支援をしているバンドマン。憧れているのは才能に溢れた例のドラマー。」
「うむ、意義なし。では尊敬しているバンドマンを見てどう思う?憧れているドラマーを見てどう思う?」
「うーん、そうだなー、彼らがしている復興支援の手伝いをしたいよね。少しでも彼らの役に立てれば、私1人では不可能な復興支援が出来るはず。
ドラマーは……ただ彼の音を堪能したい、グッズとか買ってもっとたくさんライブ出来るよう、もっと良い音を聴かせてもらいたいから応援したい、かな?」
「それじゃ!尊敬している人間に対しては、その人間に合わせて行動し、追いつこうとし、ときには悔しく思うこともある。だが憧れている人間に対してそのような思いは抱くことはない。」
「分かるような分からないような……結局彼との話にどう繋がるのかは全く分からない。」
「つまりな、尊敬している人間に対してはその人のようになりたい、負けたくないなど努力したり、恋愛対象になることもあり得る話だが、憧れている人間になりたいとは思わないと違うか?」
「うーん、確かに見ているだけで、というか今回の場合は音を聴ければ充分かな?あのドラム、努力+才能だもん。無理無理。」
「そこなんじゃ!憧れとは、自分にないものを持っていて、横に並ぶことも、恋愛対象にもなりえない存在なのだ。『憧れは理解から最も遠い感情だよ』と人気漫画『BLEACH』の登場人物の愛染惣右介が言っておった。我はその言葉に感銘を受けたのじゃ。」
「その漫画、微妙に古くない?でも確かに真理かもね。さてそろそろ普通に話そうか。」
「傷心の身ゆえ、まともに話せず、申し訳ない。ちなみにネットの名言集で見つけた。」
「つまり、彼は好きな人ではなく、憧れの人で、あんたがどうやっても近付けないことを理解したってことね。でもそもそも近付く気もなかったくせに、何故悲しいのか分かんない。」
「理解が早くて助かるよ。近付くつもりなんてなかったけど、彼は常に雲の上の存在で、横に並ぶこともない、という事実を叩ききつけられたことに意外とショックを受けたんだー。近付く気はなくても、近付けないとは違うじゃない?」
私は残りのカフェオレを飲み干す。
「良かったじゃん。世の中の真理を一つ学べたんだから。未練たらたらのあんたにオススメのハーブティーを頼もうか?それとも移動する?」
「今日で最後だから、もう一杯楽しむよ。話して少し楽になったしね。」
友人が店員さんを呼ぶ。私はカフェオレを頼む。
「そこはブレないのか。」
友人が笑う。人生ブレブレの私だからこそ、一つくらいブレないものを持っていたい。

たかがカフェオレ。されどカフェオレ。

気持ちの切り替えが上手くない私だから、まだ彼を目で追ってしまう。だから今日で終わり。もう会わない。さようなら、好きになりなかった人。

最後まであなたの名前すら知ることはなかった。私が憧れたあなたの分厚い仮面だけ、私の思い出にして、あとはデリートキーを押すだけ。

冷え切った心身を新しくきたカフェオレが温めてくれた。


【あとがき】
 「恋 会話Ver」の続きと言いたいところだけど、前の話の全否定(笑)ただ今回のテーマをどう書くか考えてたら、2人の会話のテンポがちょうど良かった。会話のテンポだとムロとエリカ(誕生日ケーキ)もけっこう好きで、続編で結婚式編書きたいかも、と密かに思ってます(笑)
 最近ストーリーが考えて書けないんです。いや、書いているけど面白くない。泣きながら、笑いながら書いてみたい。日常を書いてみたい。まだまだその境地には辿り着けない。足りないものを補えるよう、自分の言葉を紡げるよう、いつかなれるのかなぁ。その前に挫折しませんように(笑)




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