受験生に伝えたい、弁理士の価値の低さを感じる場面(特に企業)

初めまして

弁理士をしているタカといいます。旧弁理士試験制度から受験をはじめ、もう2000年代に合格したものです。

私が弁理士を目指した理由は、ハッキリ言って、安定性・経済力・難関国家資格というところでした。もちろん、技術・語学・法律という専門性を活かせる仕事という仕事の側面にも惹かれたものもありますが、「稼げる資格」という本で”1億”という年収が記載されていたのが大きかったです。

当時に比べて、そこまで煽る雑誌や予備校も減っているとは思いますが、学生さんや非実務者にはまだまだわかりにくい世界だと思います。魅力的な話は資格予備校が煽ってくれますので、ここでは、資格予備校が教えてくれない、ネガティブな世界を語りたいと思います。

1.稼ぎについて

ハッキリ言って、弁理士だから稼げるということは全くありません。弁理士試験の合格者の学歴を考えると、有名企業に入った方が良いです。ちなみに、私は企業内弁理士ですが、大手企業で資格手当が出るケースは極めて稀です。その上、企業の知財部門は、開発者の支援役という位置づけですので、残業もほとんどつけられず、実質サービス残業で、多くのケースでは、企業内でも地位も低いです。開発成果を守るのが主たる仕事ですので、開発者よりいい待遇のわけはありませんよね。

2.【重要】お高いメンテナンス費:登録時9.58万&年18万

【登録時】登録免許税領収証書(60,000 円)&弁理士登録料35,800円

【維持費】毎月会費15,000円(年18万円)

https://www.jpaa.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/07/03-1_shinseitebiki20210705.pdf

弁理士になると、弁理士会費を支払わなければなりません。月1.5万円です。企業だと、この弁理士会費を払ってくれないケースが多いです。

何故企業は、払ってくれないのか?弁理士は代理業です。すなわち、クライアントから報酬を受け取って業務を行うわけです。一方で、企業勤務だと、社員である企業内弁理士は、自社のために業務をするわけです。このため、資格があってもなくても変わりません。

昔は合格者が増えたので、重宝して払ってくれましたが、今では合格者が増えて、企業にとって負担となっています。そして、必ずしも、有資格者が実務ができるというわけではない。そうなると、会社としても支払う動機が薄れます。

そうなると、年間18万無駄に出費しているという悲しい事実が出来上がるのです。また、せっかく合格したのに、登録をしないと、弁理士を名乗れません。社外の弁理士と打ち合わせしても、無資格者の名刺を出さなければなりません。

3.大手企業が弁理士費用を支払われないという具体的な事情

大手企業で有名なキヤノンの責任者が全社員に弁理士費用を支払っていないという証拠があります。

特許庁での弁理士制度小委員会の議事録です。この記事を見ると分かるように、大手企業にとって弁理士は会費を躊躇う負債・弁理士だからと言って業務ができるとは限らないと認識していると思います。

産業構造審議会知的財産分科会 第6回弁理士制度小委員会 議事録

https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/benrishi_shoi/document/index/06_gijiroku.pdf

○長澤委員代理(中澤様) 長澤の代理で来ています中澤です。
キヤノンでは 35、36 人ほどの有資格者がおります。ただ、この中で実際に弁理士登録をしているのはそのうちの約半分ぐらいです。それはうちの会社が費用を負担するとなると、弁理士としての業務をやっていただくということになります。それこそ面接審査に参加するだとか、そういうことがしっかりできる人たちをそういう業務に当てていくということでございまして、全員分を負担するのは、登録料が高いこともありましてなかなかできないという現状もありますということを御理解いただければと思います。


長々と記載しましたが、ここでお伝えしたいのは、資格を取っても評価されるものではないという、冷静に考えたら当たり前の事実です。

合格者も昔の倍に増え、士業資格としての参入障壁はなくなりました。資格を取ったら人生が変わる等の考えはもたず、もし弁理士の資格に興味があるなら、資格を取る前に、この業界に入ることをお勧めします。