【設例解説】FP1級実技面接 2024/6/15 PartⅠ・Ⅱ
2024/6/15の設例の主な論点について解説します。
修正や追加があれば随時更新します。
設例から読み取れる範囲の論点、予想される質問について解説しました。実際の面接では、このような質問はなく、別の質問がされている可能性があります。
冒頭や最後の定番問題の解説は省略しました。
ラスパーが考える最適解(できるだけ受検生の口頭レベルに近づけたもの)を示し、必要な場合はそれについての【解説】を付しました。
設例は金財公式サイトを参照して下さい。
Photo by Leonhard Niederwimmer via Pixabay
2024年6月15日 PartⅠ
Aさん(65歳)は、個人で動物病院を経営している獣医師。
論点は以下の5点です。
動物病院の法人化
所有する月極駐車場用地にテナントビルを建築する場合の名義(個人か法人か)
長男Cさんへの事業用資産の承継
分譲マンションの購入を考えている長女Dさんへの資金援助
X社株式(Aさんの知人Eさん経営の非上場会社の株式で、Eさん80%、Aさん20%保有)のEさんへの譲渡
個人事業の法人化と個人版事業承継税制の適用は、2021/10/9 PartⅠで出題された論点です。
この時は個人クリニックが「持分なし」医療法人になるケースでしたが、今回は動物病院ですから医療法人ではなく、通常の個人事業の法人化(株式会社化)です。
X社株式は、少数株主から同族株主への譲渡で、譲渡価額がどうなるかがポイント。
ここは当サイトの記事(直前対策ラスパーlog集④)がヒットしました。
◆ 動物病院を法人化した場合の所得税や相続税の負担軽減メリットは何ですか?
相続税の面では、親族への報酬支払の形で資産を分散化できる点、相続対象の資産が株式のみとなり、評価減が可能になる点などです。
所得税が法人税に転換する面では、税率差がある点、退職金を支給し損金算入する等、経費化できるものが増える点、給与所得控除などが適用できる点、欠損金を10年繰り越せる点などです。
◆ 法人化のデメリットは何ですか?
法人設立の手間と費用がかかる点、顧問税理士の費用、社会保険への強制加入、住民税の均等割などの負担が増える点などです。
◆ 長男Cさんに土地建物を含めた事業用資産をどのような方法で引き継げばよいですか?
青色申告事業に係る「個人版事業承継税制」により、特定事業用資産(※)の承継における贈与税の納税猶予・免除の特例の適用を受けます。
(※)400㎡までの宅地等、床面接800㎡までの建物、及び減価償却資産。
また、申告期限から5年後に現物出資によって会社を設立した場合、納税猶予が継続されますので、これを活用して、動物病院の法人化(株式会社化)を行うことを検討します。
【解説】
下記記事の「個人クリニックの承継と法人化の道筋」の章を参照して下さい。個人版事業承継税制適用⇒5年後に法人化(「持分なし」医療法人化)で納税猶予を継続という同様の流れとなっています。
◆ 個人版事業承継税制の申請の流れを説明して下さい。
「個人事業承継計画」を2026年3月31日までに都道府県知事に提出して確認を受け、贈与を受けた年の翌年の1月15日までに「円滑化法の認定」を申請し、その認定を受ける必要があります。
贈与の期限は2028年12月31日までで、特定事業用資産のすべての贈与を受ける必要があります。
また後継者は、贈与の日まで引き続き3年以上にわたり、特定事業用資産に係る事業(※)に従事しており、 贈与税の申告期限において、開業届出書を提出し、青色申告の承認を受けている必要があります。
(※)同種・類似の事業でもOK。
◆ 月極駐車場用地に建築するテナントビルの名義は、個人と法人のどちらがより望ましいですか?
税負担軽減の面では、法人とするほうが望ましいです。
法人がAさんから土地を通常の地代・無償返還方式で借り受け、そこにテナントビルを建築し、賃料収入を法人に帰属させます。
但し、個人版事業承継税制を活用する場合は、テナントビルはAさんが個人名義で建築して長男Cさんに特定事業用資産として贈与し、申告期限5年後に法人を設立して現物出資します。
◆ 長女Dさんの分譲マンション購入について、どのような援助ができますか?
住宅取得等資金の贈与の非課税(省エネ等住宅1,000万円、その他500万円)の活用を検討します。
◆ X社株式をEさんへ譲渡する場合の譲渡価額と課税関係について説明して下さい。
X社株式は同族株主であるEさん側では原則的評価方式、同族外の株主であるAさん側では特例的評価方式となり、譲渡価額はその範囲内での折衝で決まります。
但しこの場合の譲渡価額が、買い手であるEさん側の原則的評価方式の価額よりも「著しく低い価額」となった場合は、Eさんに贈与税が課される可能性があります。
【解説】
所得税法上、「著しく低い価額」に明確な定義はありませんが、実務的には2分の1未満の価格での譲渡は、「著しく低い価額」に該当するものと考えられています。
★論点的中!
下記記事の「非上場株式の譲渡価格」の章を参照して下さい。
2024年6月15日 PartⅡ
Aさん(45歳)は、父Cさんから相続した甲土地および甲建物(賃貸アパート)で家賃の滞納が発生していることから、頭を悩ませています。
勤務先が倒産して失業してしまい、家賃を4カ月滞納している賃借人Eさんとの賃貸借契約書は、2021年1月に締結されたものです。(契約書は父Cさんが作成)
契約書には、Eさんの父Gさんが連帯保証人となり、連帯保証債務の範囲は「借主の貸主に対する一切の債務」となっています。
Eさんは滞納分を支払える状況ではなく、引っ越し費用もないことから、「もうしばらくここに居させてほしい」と言っています。
論点は以下の3点です。
連帯保証人のGさんに家賃滞納分を支払ってもらえるか?
Eさんが居座った場合、どう対応するか?
いっそのこと甲土地および甲建物を売却する場合は、どのような書類を揃えておくと良いか?
連帯保証や強制退去に至る手続き、収益物件売却時に必要な書類など、FPが直接相談に乗るにはあまりに酷とも思える内容です。
連帯保証は「借主の貸主に対する一切の債務」という部分に引っ張られてしまいがちですが、2020年4月に民法の改正があった点を想起できたかがポイントです。
物件売却時に必要な書類は、土地・建物や登記関係に関する従前の知識から、いくつか示すことはできたかと思います。
PartⅠの出来で、Part IIをどれだけカバーできたかが勝敗の分かれ目となりそうです。
◆ Aさんは、GさんにEさんの家賃滞納分の支払を求めることができますか?
できません。
賃貸借契約を結ぶ際の「根保証契約」(※)では、保証人となる個人が負う極度額を定める必要があります。
書面で金額が明示されていない場合、契約は無効となり、保証人への請求はできません。
(※)最終的な債務の保証内容や範囲が契約時には確定していない契約
【解説】
設例の賃貸借契約書は、2021年1月に締結されていますが、その内容はEさんの入居を紹介した前入居者のFさん入居時の古い内容のままで、2020年4月1日から施行された保証(連帯保証)に関する民法の改正が反映されていません。
◆ Eさんの退去を求めるには、どのような方法が考えられますか?
未払い家賃の督促と賃貸借契約解除の通知を内容証明郵便で送付します。
それでも家賃の支払いがない場合は、明け渡し訴訟を起こし、貸主が勝訴すると、数ヶ月の猶予期間内に借主は賃貸物件から立ち退くよう指示されます。
それでも居座り続けた場合は、貸主は裁判所に対して強制執行の申し立てを行うことができます。
【解説】
裁判は費用と時間の負担が大きいことから、「裁判外紛争解決手続」=「ADR(Alternative Dispute Resolution)」を利用し、弁護士や司法書士などの専門家の調停・あっせん、仲裁によって解決する方法もあります。
尚、ADRは2023/9/24 PartIIの設例解説で、境界を巡るトラブルの解決手段の一つとしても挙げています。
◆ 甲建物のような収益物件(賃貸アパート)を売却する場合、どのような書類を揃えておくとよいでしょうか?
売買契約書、入居者との賃貸借契約書またはレントロール(各部屋の賃貸条件が記載されている一覧表)、リフォームや修繕の履歴、インスペクション(建物調査)を行った場合はその報告書などの他に、
土地・建物については、
確定測量図
建築確認申請書及び添付図書、建築確認済証、検査済証
固定資産税納税通知書
登記関係では、
登記識別情報通知書または登記済証(権利証)
固定資産税評価証明書(※1)
抵当権の抹消に必要な書類(※2)
などです。
(※1)固定資産税課税のため役所が独自に調査した不動産の現況を示す書類。所有者が申告しない限り更新されない登記上の面積や構造よりも正確な場合があります。
(※2)ローンを完済したら金融機関から送られてくる「登記識別情報」または「登記済書」、「登記原因証明情報」(解除証書や弁済証書)、「代理権限証明情報」(委任状)
※(補足)
個人の根保証契約など、2020年4月1日施行の民法の改正事項については、2021年1月のFP1級学科試験の基礎編問34で問われています。
1) 個人が、建物の賃借人の賃貸人に対する債務について個人根保証契約を締結するにあたっては、保証人が支払の責任を負う金額の上限となる極度額を書面により定めなければ、その効力が生じない。
→適切
この問題について、何らかの記憶が残っていたかどうか。
FP1級学科の過去問周回で獲得した知識の歩留まりが、実技面接で効果を発揮する好例と言えるでしょう。