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FP1級実技「共有」の論点まとめ

FP1級実技面接の2022年2月6日PartⅡで、共有名義の不動産の「分割」と「交換」が問われました。

以下、共有不動産の持分割合の意味、実務上も多いと言われる共有不動産のトラブルの諸相、共有の解消法、「分割」と「交換」の相違と課税関係などについてまとめました。

共有不動産とは

  • 複数人が「持分割合」で共同に所有する不動産のこと

  • 「持分割合」は不動産全体に及ぶ

【例】
 兄が2分の1、弟が2分の1の持分割合で共有する不動産について、これを分割して兄の完全所有の土地Aと弟の完全所有の土地Bに二分する場合は、兄がBについて持っていた持分と弟がAについて持っていた持分が交換されたことになる。
⇒1つの土地を分割する場合、そこには交換関係が存在する(★)

共有関係が生じる場合

  • 相続財産のほぼ全てが実家の建物と敷地で金銭がない場合などは、実家を共有名義にする場合がある。

  • 親子や夫婦間で資金を出し合って、住宅を新築・購入する場合、出資額の割合を持分として共有名義で登記する場合がある。(片方の名義のみで登記すると、登記されていない人から、登記された人に贈与があったとみなされ、贈与税が課税される)

共有不動産をめぐるトラブルの諸相

  • 共有者全員の同意がなければ、建物の取り壊し、敷地全体の売却は不可能。

  • 自己の持分については単独で売却可能だが、買取業者にかなり安価でしか売却できない。また外部の第三者が共有者になってしまうと、関係がさらに複雑化し、大きなトラブルに発展するリスクがある。

  • 相続が生じると共有者間がより疎遠な関係となり、全員の意見の集約・一致が困難になる。

  • 共有関係を解消せずにそのままにしておくと、資産価値が下がる一方で、固定資産税などの経費は毎年かかってくる。

  • 賃貸物件の場合、収入や費用負担の按分で意見が一致しない場合がある。

従って、共有者間の意思疎通を図ることができる間に、共有名義を解消しておくことが重要となる。

共有の解消法

  • 第三者に不動産を全て売却し、売却代金を持分割合で按分する。(売却にあたっては共有者全員の同意が必要)

  • 共有者間で買取あるいは贈与を行う

  • 1つの土地の場合は「分割」する

  • 2つ以上の土地の場合は「交換」する

売却・分割・交換する際の価格は、公平・客観的な「時価」であること。(不動産鑑定士の鑑定評価額が根拠となる)

分割(共有されている1つの土地の場合)

法理上は上記(★)のように交換関係が成立しているが、税務上は「共有に係る一の土地」については、分割による土地の譲渡・交換はなかったものとされる。(より詳細な説明は末尾※を参照)

但し、1つの共有地の現物分割であっても、それぞれの持分の比率とそれぞれが取得する土地の時価の比率が異なる場合は、贈与税が課税される場合がある。

【例】
 甲と乙が2分の1ずつの持分で共有する200㎡の土地を単純に面積割合で分割して、甲100㎡、乙100㎡の土地とした場合、もし甲が所有する土地が幹線道路に面しており、乙が所有する土地が幹線道路に面していない場合は、甲の土地の時価が乙の土地の時価より高くなるので、甲はこの分割により2分の1の持分よりも多くの経済的利益を得たことになり、甲に贈与税が課税される。

交換(共有されている2つ以上の土地の場合)

譲渡として取り扱い、課税関係が生じる。

但し、交換の特例の適用により、譲渡益が100%課税繰延される場合がある。

【例題】

  • 問)相続で得た財産のうち、A土地は兄が2分の1、弟が2分の1の持分で共有、B土地は兄が5分の3、弟が5分の2の持分で共有している。今回、この共有物件を分割することとなり、A土地は弟がその全部を取得し、B土地は兄がその全部を取得することとなった。分割にあたっては、不動産鑑定士による時価の鑑定評価を得ており、時価を等価で分割している。この場合、課税関係はどうなるか?

  • 答)この共有物の分割を、1つの土地について行っているのであれば、譲渡はなかったものとされ、持分に応じた時価での分割であれば贈与も認定されないが、この場合は2つの土地について共有の解消を行っているので、A土地の兄の持分2分の1とB土地の弟の持分5分の2が交換されたものとして課税関係が生じる。但し、固定資産の交換の特例の適用要件を満たしている場合は、この特例が適用され、譲渡課税が繰り延べられる場合がある。

(参考)固定資産の交換の特例の要件まとめ

  1. 交換により譲渡する資産及び取得する資産は、いずれも固定資産であること。

  2. 交換により譲渡する資産及び取得する資産は、いずれも土地と土地、建物と建物のように互いに同じ種類の資産であること。

  3. 交換により譲渡する資産は、1年以上所有していたものであること。

  4. 交換により取得する資産は、交換の相手が1年以上所有していたものであり、かつ交換のために取得したものでないこと。

  5. 交換により取得する資産を、譲渡する資産の交換直前の用途と同じ用途に使用すること。

  6. 交換により譲渡する資産の時価と取得する資産の時価との差額が、これらの時価のうちいずれか高い方の価額の20%以内であること。

尚、上記4.の交換のための取得について、共有物分割により取得した土地については交換のために取得したものに含まれないとされる。

※参照

【法理上の解釈】

1つの土地を兄が2分の1、弟が2分の1の持分で共有している。
この土地を2つに分割し、一方を兄の完全所有、もう一方を弟の完全所有とした場合。
⇒分割があった時には、自己に帰属するに至った部分については他の共有者から権利を譲り受け、他の共有者に帰属するに至った部分については、自己の権利を譲渡したものであって、実質的には交換又は売買のような関係が生ずることになる。

【税務上の扱い】

共有関係にある一の資産を現物で分割するということは、その資産の全体に及んでいた共有持分権が、その資産の一部(現物分割で取得した部分)に集約されただけにすぎず、資産の譲渡による収益の実現があったと言えるだけの 経済的実態は備わっていないと解釈される。
⇒所得税基本通達33-1の6により、個人が他の者と共有している土地について、その持分に応ずる現物分割があったときには、一の土地については、その分割による土地の共有持分の譲渡はなかったものとして、所得税の譲渡所得の課税関係を生じせないこととして取扱うこととする。

2022年2月6日Part IIの設例について

過去のツイートより。

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