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【FP1級実技対策】さくっと判定 小規模宅地等の特例(事例問題付き)

2つの観点で整理し直す

FP1級実技面接のPartⅠでは、小規模宅地等の特例がよく問われます。

宅地の利用状況や権利関係を把握し、要件と照らし合わせて、適用の可否を判断する。

実技面接ではこの判断をできるだけスピーディーに行う必要があります。

そのために、常に念頭に置いておきたいのは、次の2つの観点です。

被相続人所有の宅地を

  1. 誰が何の用途で使っていたのか?

  2. 誰が相続するのか?

以下、この2つの観点をキーに、特例の要件を整理し直してみました。

さらに、練習用としてミニ事例問題を付しました。

迷わずにさくっと判定するための勘所を身につけましょう。

※2023年11月16日 追記
【小宅判定無双を目指して】のミニ事例問題に2023年の税理士試験の問題を追加、また事例問題解答のコツを加筆しました。

「特定居住用宅地等」

【パターンI】

被相続人所有の宅地を

  1. 被相続人が居住用に使っていた

  2. 配偶者、同居親族(居住と所有を継続)、別居親族(3年以内家なき子※ / 所有を継続)のいずれかが相続する

(例)一人暮らしの被相続人の自宅敷地を、賃貸マンションに住んでいる会社員の子が相続する場合

【パターンII】

被相続人所有の宅地を

  1. 被相続人と生計を一にする親族が居住用に使っていた

  2. 配偶者、生計を一にする親族自身(居住と所有を継続)のいずれかが相続する

(例)子(大学生)が被相続人所有の大阪のマンションに住んでいて、被相続人の配偶者がこのマンションを相続する場合

※「3年以内家なき子」とは?

 次の(A)•(B)の要件をいずれも満たす親族(但し、被相続人の配偶者、同居の相続人がいない場合に限る)

  • (A)相続開始前3年以内に、その親族、その親族の配偶者、その親族の三親等内の親族、またはその親族と特別の関係にある法人が所有する家屋(国内)に居住したことがないこと

  • (B)相続開始時にその親族が居住している家屋(国内外問わず)を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと
     ⇒最初は(A)のみの要件だったが、3年以内に持ち家に居住している状況を避けようと、3年超前に持ち家を売却した後そのままそこを賃借して住むなどの課税逃れのケースが相次いだため、(B)の要件が追加された経緯がある。

また、相続開始直前において被相続人が老人ホームなどに入所していた場合でも、被相続人が相続開始直前で要介護または要支援認定を受けていれば、特例の適用が可能。

但し、被相続人が老人ホームに入所後、その居住用家屋を貸し付けたり、生計別の親族が移り住んだりした場合は適用不可。
⇒同居親族が引き続き居住し続けた場合は適用可。

「特定事業用宅地等」

【パターンI】

被相続人所有の宅地を

  1. 被相続人が貸付以外の事業用に使っていた

  2. 親族(事業と所有を継続   / 生計一である必要はない)が相続する

(例)被相続人が小売業の店舗を営んでいた宅地を、子(生計別)が事業承継して相続する場合

【パターンII】

被相続人所有の宅地を

  1. 被相続人と生計を一にする親族が貸付以外の事業用に使っていた

  2. 生計を一にする親族自身(事業と所有を継続)が相続する

(例)被相続人所有の宅地とその上の家屋を使用貸借で借り受けて店舗を営んでいた子(生計一)が、事業を継続してその宅地を相続する場合

相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等は除く。

但し、一定規模以上の事業を行っている場合(建物等の減価償却資産の価額≧宅地等の価額×15%)は適用可。

「貸付事業用宅地等」

【パターンI】

被相続人所有の宅地を

  1. 被相続人が貸付事業用に使っていた

  2. 親族(事業と所有を継続  / 生計一である必要はない)が相続する

(例)被相続人所有の賃貸アパートがあった宅地を、別居親族が貸付事業を引き継いで相続する場合

【パターンII】

被相続人所有の宅地を

  1. 被相続人と生計を一にする親族が貸付事業用に使っていた

  2. 生計を一にする親族自身(事業と所有を継続)が相続する

(例)被相続人所有の宅地を使用貸借で借り受けてその上に家屋を建て賃貸していた子(生計一)が、貸付を継続してその宅地を相続する場合

相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は除く。

但し、相続開始の日まで3年を超えて引き続き一定規模(5棟10室)による貸付事業を行っていた場合は適用可。

「特定同族会社事業用宅地等」

【パターンI】

被相続人所有の宅地を

  1. 被相続人が貸付事業用に使い、その貸付先である同族会社(被相続人等で発行済み株式数の半数超所有※)が貸付以外の事業用に使っていた

  2. 親族(事業と所有を継続 / 申告期限時点で役員であること / 生計一である必要はない)が相続する

(例)被相続人が自ら社長を務める会社(製造業・株式100%保有)に賃貸していた宅地を、同社の取締役の子が貸付を継続して相続する場合

【パターンII】

被相続人所有の宅地を

  1. 被相続人と生計を一にする親族が貸付事業用に使い、その貸付先である同族会社(被相続人等で発行済み株式数の半数超所有)が貸付以外の事業用に使っていた

  2. 生計を一にする親族自身(事業と所有を継続 / 申告期限時点で役員であること )が相続する

(例)被相続人所有の宅地を使用貸借で借り受けてその上に建物を建て、自らが役員を務める会社(製造業・株式50%超保有)に賃貸していた子(生計一)が、貸付を継続してその宅地を相続する場合

※ 「被相続人等で発行済み株式数の半数超所有」とは

相続開始直前に被相続人及びその被相続人の親族、その他その被相続人と特別の関係がある者(事実上婚姻関係と同様の事情にある者、使用人、被相続人から受けた金銭等で生計を維持している者、上記の者と生計を一にするこれらの者の親族)が有する株式の総数が発行済み株式総数の2分の1を超えること。

尚、貸付先の同族会社の事業が貸付事業である場合は、「特定同族会社事業用宅地等」には該当せず、「貸付事業用宅地等」となる。

「特定同族会社事業用宅地等」は本来は「貸付事業用宅地等」のひとつであるが、その貸付用途が同族会社の(貸付事業以外の)事業用であるので、特別に評価減の割合が大きい(400㎡まで80&減)と理解すればよい。

【小宅判定無双を目指して】ミニ事例問題にチャレンジ!

小規模宅地等の特例は適用できるか?

(1)

  • 被相続人Aの相続により、子B(生計一親族)が宅地とその上にある建物を取得した。

  • Bはこの建物をAから使用貸借により借り受けており、Bの営む事業(小売業)の店舗の用に供されていた。

  • 継続要件は満たしている。

⇒ 〇
 被相続人と生計を一にする親族が貸付以外の事業用に使っていた宅地を自身が相続した。
 ∴「特定事業用宅地等」に該当。

(2)

  • 被相続人Aの相続により、子B(生計別親族)が宅地を取得した。

  • この宅地上にはBが賃貸アパートを所有していた。

  • Bはこの宅地について固定資産税・都市計画税のみを負担していた。

  • 継続要件は満たしている。

(FP1級実技面接2018/6/16 PartⅡより)

⇒ X
 被相続人と生計を別にする親族が貸付事業用に使っていた宅地を自身が相続した。
 ∴「貸付事業用宅地等」に該当しない。

(3)

  • 被相続人Aの相続により、子B(生計別親族)が宅地を取得した。

  • この宅地にはB名義の建物があった。

  • この建物はAの営む事業(小売業)の店舗の用に供されていた。

  • AとBとの間で地代・家賃等の支払いはなかった。

  • BはAの事業を引き継いでおり、継続要件は満たしている。

⇒ 〇
 被相続人が貸付以外の事業用に使っていた宅地を親族が相続した。
 ∴「特定事業用宅地等」に該当。

(4)

  • 被相続人Aの相続により、子B(生計一親族)が宅地を取得した。

  • この宅地にはB名義の建物があった。

  • Bはこの建物を子C(生計別親族)に賃貸借契約により貸し付けていた。

  • AとBとの間で地代の支払いはなかった。

  • 継続要件は満たしている。

⇒ 〇
 被相続人と生計を一にする親族が貸付事業用に使っていた宅地を自身が相続した。
 ∴「貸付事業用宅地等」に該当。

(5)

  • 被相続人Aの相続により、子B(生計別親族)が宅地とその上にある家屋を取得した。

  • この家屋に一人で暮らしていたAは相続開始前に老人ホームに入居し、要介護認定を受けていた。

  • BはAが老人ホーム入居後に、この家屋に移り住んだ。

  • AとBとの間で地代の支払いはなかった。

  • 継続要件は満たしている。

⇒ X
 被相続人が居住用に使っていたが、被相続人が老人ホーム入居後にその居住用家屋を貸し付けたり、生計別親族が使用貸借により借り受けて居住していた場合は、「特定居住用宅地等」に該当しない。

(6)

  • 被相続人Aの相続により、子B(生計一親族)が宅地を取得した。

  • この宅地にはB名義の建物があった。

  • この建物はAが発行済み株式総数の100%を持つ法人の事業(製造業)の用に供されていた。

  • 申告期限においてBはこの法人の役員であった。

  • AとBとの間で地代の支払いはなかった。

  • 法人はBに家賃(相当の対価)を支払っていた。

  • 継続要件は満たしている。

⇒ 〇
 被相続人と生計を一にする親族が貸付事業用に使い、その貸付先である同族会社(発行済み株式100%所有)が貸付以外の事業用に使っていた宅地を自身が相続した。
 ∴「特定同族会社事業用宅地等」に該当。

(7)

  • 被相続人Aの相続により、子B(別居親族)が宅地とその上にある家屋を取得した。

  • この家屋にはAが一人で暮らしていた。

  • Bは相続開始4年前に自宅を他者に売却し、それを賃借して住んでいた。

  • 継続要件は満たしている。

⇒ X
 被相続人が居住用に使っていたが、別居親族のBは相続開始時に居住していた家屋を過去に所有していたことがあるため「3年以内家なき子」に該当せず、「特定居住用宅地等」に該当しない。

(8)

  • 被相続人Aの相続により、子B(生計一親族)が宅地を取得した。

  • この宅地上には相続開始2年前からBの経営する賃貸アパートがあった。

  • Bはこの宅地について固定資産税・都市計画税のみを負担していた。

  • Bは相続開始4年前から事業的規模で不動産貸付業を行っていた。

  • 継続要件は満たしている。

⇒ 〇
 被相続人と生計を一にする親族が貸付事業用に使っていた宅地を自身が相続した。
 相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地だが、Bは相続開始前3年を超えて引き続き事業的規模による貸付事業を行っていたので、「貸付事業用宅地等」に該当する。

(9)

  • 被相続人A(国内在住) がニューヨーク州に所有している賃貸アパート(一棟)の一室に子B(大学生)が無償で居住していた。

  • Aの相続により、Aと二世帯住宅に同居している子Cがそのアパートの宅地を取得した。

  • 継続要件は満たしている。

(FP1級実技面2022/2/19
Part Iより)

⇒ X
 小規模宅地等の特例は財産の所在地は規定しておらず、海外不動産も対象となる。
 アパートのうち、賃貸に供している部分は被相続人の「貸付事業用宅地等」に該当するが、B(大学生)が無償で居住していた部分は被相続人と生計を一にする親族の居住用となる。この場合「特定居住用宅地等」が適用できるのは、相続人がB本人かAの配偶者(所有・居住要件不要)の場合に限られる。

(10)

  • 父が死亡し、父所有の宅地を母が相続した。

  • 父は相続開始前3年を超えてこの宅地を貸付事業の用に供していた。

  • 母は引き続き貸付事業を行った。

  • その後、父の死後3年以内に母が死亡し、子がこの宅地を取得し、貸付事業を継続した。

⇒ 〇
 一次相続(父⇒母)では「貸付事業用宅地等」に該当する。
 二次相続(母⇒子)では、相続開始前3年以内(母が死亡する前3年以内)に母は貸付事業を開始したと言えるが、この貸付事業は、相続により父から引き継いだものであるから、相続開始前3年以内に「新たに」貸付事業の用に供された宅地等ではない。
∴二次相続においても「貸付事業用宅地等」に該当する。

【事例問題追加】第73回(2023年度)税理士試験 相続税法 問1より


小規模宅地等の特例は適用できるか?

(11)

  • 被相続人Aの相続により、Aが所有していた甲宅地を配偶者Bが取得した。

  • 甲宅地には孫Dの居住の用に供されていた家屋があり、被相続人Aへの地代の支払いはなかった。

  • 孫Dは被相続人Aと生計を別にしていた。

⇒ X
 甲宅地は被相続人AまたはAと生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた宅地ではないため、特定居住用宅地等に該当しない。

(12)

  • 被相続人Aの相続により、Aが所有していた乙宅地を子Cが取得した。

  • 乙宅地には被相続人Aとその配偶者Bの居住の用に供されていた家屋があった。

  • 子Cは被相続人Aと生計を一にしていた。

  • 子Cは所有と居住の継続要件を満たしている。

⇒ X
 被相続人Aの居住の用に供されていた宅地を、同居親族でない子(別居親族の)Cが取得しているが、被相続人Aには配偶者Bがいるため、特定居住用宅地等に該当しない。

(13)

  • 被相続人Aの相続により、Aが所有していた丙宅地を子Cが取得した。

  • 丙宅地には子Cの居住の用に供されていた家屋があった。

  • 子Cは被相続人Aと生計を一にしていた。

  • 子Cは所有と居住の継続要件を満たしている。

⇒ 〇
被相続人Aの生計一親族である子Cの居住の用に供されていた宅地を、C本人が取得し、所有と居住の継続要件を満たしているため、特定居住用宅地等に該当する。

【事例問題 解答のコツ】

  • 建物の名義は無視する。
    ⇒建物の名義が誰のものであっても、そこに住んでいる人、そこで事業をしている人が「誰であるか」が問題

  • 使用貸借(地代の授受がない)も無視する。
    ⇒ そこに住んでいる人、そこで事業をしている人が「誰であるか」が問題

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