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【設例解説】FP1級実技面接 2024/2/18 PartⅠ・Ⅱ

2月22日、金財の公式サイトに、先頃行われたFP1級実技面接の設例が掲載されました。

各設例の主な論点について、速報で解説します。

  • 速報版のため、今後、修正や追加があれば随時更新します。

  • 設例から読み取れる範囲の論点、予想される質問について解説しました。実際の面接では、このような質問はなく、別の質問がされている可能性があります。

  • 冒頭や最後の定番問題の解説は省略しました。

  • まず、ラスパーが考える最適解(できるだけ受検生の口頭レベルに近づけたもの)を示し、それについての【解説】を付しました。

  • 設例は金財公式サイトを参照して下さい。

2024年2月18日 PartⅠ

昨年11月に亡くなった母の遺言書を発見。

その遺言書は20年前に書かれたもので、現在の状況にはそぐわないものでした。

そこで遺言の内容を変更し、現状に見合った分割方法を検討したい、という展開です。

事業承継はなく、遺産分割による資産承継のみに焦点が当たった設例です。

受遺者(知人)が亡くなっている点にはひっかかりを覚えますが、遺産分割協議による分割方法の変更で小宅が適用可能という方向性は一読で明らかです。

さらに関連で、「法定相続情報証明制度」や「相続登記の義務化」も聞かれそう・・・と、設例読み段階から期待が高まった方も多かったことでしょう。


◆ 遺言書があった場合でも、それ以外の分割はできますか?

相続人全員の同意があれば、遺産分割協議に基づく分割が可能です。

【解説】
遺言執行者がいる場合は、その同意も必要です。


◆ 遺言書にある知人Eさんへの1,000万円の遺贈についてはどのように取り扱われますか?

Eさんはすでに他界しているので、遺贈は効力を失っています。

1000万円を含めて相続財産とし、相続人で分割することになります。

【解説】
受遺者については、代襲相続はありませんが、「受遺者が亡くなった場合はその子に遺贈する」などの文言を予め遺言書に記載することは可能です。これを「予備的遺言」と言います。


◆ 遺産分割協議に基づく相続登記の流れについて説明して下さい。

戸籍関係書類(戸籍謄抄本・除籍謄抄本)を取得し、遺産分割協議書などと共に、法務局に登記申請します。


◆ 相続登記について最近改正がありましたが、どんな内容ですか?

2024年4月1日から相続登記が義務化され、不動産の取得を知った日から、または遺産分割が成立した日から。3年以内に相続登記をする必要があります。

★論点的中! 
試験直前に投稿した以下のブログで、「「相続登記義務化」と「相続土地国庫帰属法」について、概略を押さえておいたほうがいいと思います」とし、相続登記義務化を簡略に説明した東京法務局のサイトを紹介しました。


◆「法定相続情報証明制度」について説明して下さい。

法務局に戸除籍謄本等の束と共に、「法定相続情報一覧図」を提出すれば、登記官がその一覧図に認証文を付し、その写しが無料で交付される制度です。(5年間は再発行が可能です)

その後の相続手続は,この写しを利用すれば、何度も戸除籍謄本等の束を出し直す必要がなくなります。


◆ 現状に即した遺産分割をした場合、相続税額はどのように変化しますか?

小規模宅地等の特例の評価減により金額がかなり変わります。

自宅は同居親族のAさんが相続すれば、一定の要件のもと、特定居住用宅地等に該当します。(330㎡まで80%評価減)

弟Dさんが住む自用マンションについては、生計一親族の居住用ではないので、対象とはなりません。

一方、賃貸アパートは一定の要件のもと、貸付事業用宅地等に該当(200㎡まで50%評価減)しますが、特定居住用との併用調整があります。
(本件では特定居住用で使い切る形になります)


◆ 賃貸アパートを売却し、その売却資金をAさん、妹Cさん、弟Dさんで均等に相続する件は、どのように取り扱いますか?

代償分割によりAさんが賃貸アパートを相続し、妹Cさん、弟Dさんに金銭を交付します。

相続税の申告期限の翌日から3年以内にAさんが賃貸アパートを売却すれば、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができます。

2024年2月18日 PartⅡ

X社(非上場・ディスカウントストア事業)は代表取締役のAさん(65歳)と専務取締役の弟Bさんが共同で経営しています。(株式持分:Aさん50%、弟Bさん50%)

AさんとBさんが各2分の1の持分で共有する甲土地(600㎡)上には、X社が甲建物(300㎡)を所有しており、「土地の無償返還に関する届出書」を提出し、公租公課と同額の地代を支払っています。

X社のディスカウントストア事業は売上が低迷し、直近3年間は赤字経営となっています。

AさんとBさんは、甲建物が老朽化し始めていることもあり、内部留保金約5,000万円があるうちに安定収益が得られる事業への転換を図りたい考えで、不動産会社Y社から賃貸アパートの建築を提案されました。

提案内容は、軽量鉄骨造2階建て、延べ面積720㎡、総戸数16戸(専有面積平均45㎡)、建築費総額1億8,000万円(25万円/㎡)で、満室時月額賃料176万円(11万円×16室)を見込めるというものでした。

Aさんは、1億8,000万円の建築費の大半を銀行借入れで賄う予定ですが、借入額を半分程度にしたい意向です。

また、甲土地について、Bさんとの共有状態が気になっており、Y社から100㎡程度の整形地であれば2,700万円で取引可能と言われています。

甲土地を活用して賃貸アパートを建築するということで、等価交換方式が思い浮かびますが、この方式に応じるデペロッパーがいるかどうかはわかりません。

設例の趣旨は、あくまでも自己建設方式。借入金の額を半分にする案を求めています。

15分の設例読みの段階で、定石通り等価交換方式の提案をベストと考え、面接に臨んで戸惑われた方は多かったことでしょう。

内部留保金の活用と甲土地の切り売り。その他に妙案はないか・・・

「土地の有効活用」のパターン思考を一旦離れて、本設例のテーマが「X社の事業転換(ディスカウントストア事業から不動産賃貸業へ)」であることに気づくと、少し見えてくるものがあります。


◆ X社は「土地の無償返還に関する届出書」を所轄税務署に提出していますが、この手続にはどのような意味がありますか?

権利金の認定課税を回避できるメリットがあります。


◆ 権利金の認定課税とは何ですか?

法人が個人から土地を借り受ける際に、権利金を支払わず、地代が「相当の地代」未満である場合、法人税法上、権利金相当分の経済的利益を無償で得たと認定されて、法人税が課税されることです。

【解説】
この場合、地代が「相当の地代」(自用地価額の過去3年間の平均額 × 年6%)である場合は、「土地の無償返還に関する届出書」を提出しなくても、権利金の認定課税は行われません。


◆ 貸主であるAさんとBさん側では、この土地はどのように評価されますか?

地代が公租公課程度ですから、X社は使用貸借で借り受けていることになり、自用地評価となります。


◆ X社が通常の地代を支払っている場合は、貸主側でどのように評価されますか?

自用地価額×80%です。

【解説】
この場合、同族会社であるX社側では、貸主側で減額された自用地価額×20%分が、その会社の株式の評価(純資産価額方式)において、相続税評価額の資産総額に加算されます。

論点的中!
以下の記事で「土地の無償返還の届出」のモヤモヤを解消できていた受検生の方は、スムーズな受け答えができたことでしょう。

この記事は借地権や地代について基本的なところから解説しています。上記の面接の問答がよくわからない方は、ゆっくりじっくり読んでみて下さい。


◆ 甲土地の有効活用にあたって、Aさんが希望する建築費借入額(Y社提案額の半分程度)に抑えるためには、どのような方法が考えられますか?

当初の借入予定1億8000万円を9,000万円程度に抑えるためには、次の3つの方法の組み合わせが考えられます。

  1. 甲土地の一部(100㎡)を売却:2,700万円

  2. X社の内部留保金の活用:最大で5,000万円

  3. 「事業再構築補助金」の活用:最大で3,000万円

【解説】

  • 1. 甲土地(600㎡)について、建築予定の賃貸アパートの延べ面積720㎡を確保するためには、最低でも敷地面積480㎡(720÷指定容積率150%)が必要となります。そこで、敷地面積500㎡を残し、残り100㎡を分筆して売却し、2,700万円を調達します。
    甲土地はAさんとBさんが2分の1ずつ共有していることから、売却代金はAさんとBさんで案分します。X社は2人からこれを借り入れます。(譲渡所得税はそれぞれが負担)

  • 2. 内部留保金5,000万円の一部を使います。3. の補助金の額との兼ね合いで、使用する金額を決めます。

  • 3. ポスト・ウイズコロナの時代の事業再構築のために2021年度に創設された「事業再構築補助金」に応募します。
    業種転換するX社が該当する「回復再生応援枠」では最大3,000万円が交付され、過去の採択率は平均40~50%でした。
    この補助金は令和6年度以降も運用方法を変えて継続されることが決まっていますが、交付決定した後に対象経費を補助するのが原則です。
    交付が決定してからの賃貸アパート建築となり、X社にとっては少し先の計画となりますが、本件の事業再編は、すぐに着手・実行できるものではなく、ディスカウントストアの従業員の雇用の問題をどうするかなど、少なくとも1~2年のスパンで進めていくものです。認定経営革新等支援機関に相談して綿密な再編計画と資金繰り策を検討する必要があります。

    ◆ 1つの土地の共有状態を解消するためには、どのような方法がありますか?

    持分に応じた共有分割、共有者間での売買・贈与、外部の第三者への売却の3つの方法があります。

    【解説】
    2つ以上の土地の場合は、「交換」もあります。


    ◆ 共有分割の場合の課税関係を説明して下さい。

    持分割合で等価に分割すれば、譲渡所得税はかかりません。

    但し、それぞれの持分割合とそれぞれが取得する土地の時価の割合が異なる場合は、経済的利益を得たほうに贈与税が課税されます。

    論点的中!  
    共有不動産の解消法、分割の場合の課税関係などを詳しく説明しています。


    ◆ 甲土地の一部を売却した後、残りの土地をAさんとBさんで共有分割し、そこにX社所有の賃貸アパートが建った場合、AさんとBさんの土地はどのように評価されますか?(無償返還方式・通常の地代にて賃貸)

    2筆の土地が一体で利用されているため、一体となった土地全体の評価額に、AさんとBさんの土地の面積比または評価額比を乗じた額で評価し、その上で貸宅地の評価(自用地評価×80%)を行います。

    【解説】
    このような問いは面接では出なかったかもしれませんが、2筆の土地を一体で利用するケースは、2023年2月5日のPartⅡで出題されています。
    「複数の土地の上に共同ビルが建っている場合」の評価です。

    Photo by Corentin Julliard via Pixabay

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