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”招待状”プロデューサーズ・ライナーノーツ公開

プロデューサーとして自分が手掛けるにあたり一番大切にしたことは、「路上系シンガーというブランドを一度剥がし、ポップアーティストとして何処でも漂流できる姿をしっかり見せること」だった。そのためにまず行ったのは、今回の楽曲制作、そしてVIVA LA ROCK 2024への出演だった。

声だけで世界を変え、誰もの足を止める個性的かつ圧倒的な歌唱。歌うだけで多くの人とわかり合える神秘的ですらあるエネルギー。繊細にして鮮烈な、誰もが惹きつけられる歌声とスキルを持っているからこそ、彼女は「凄い歌い手」として見られがちだが、そこを目指している彼女は実は何処にもいない。自分の作った音楽をしっかり歌で伝えることによって、自分の境界線を、あなたと自分の境界線を、シーンの境界線を、世界の境界線を超えたいとずっと願い続け様々なトライをしてきたユナは、路上だけではなく、あらゆる音楽の鳴る場所に自分らしく立ちたいと願っている。路上だけで23万人以上の方々にsnsでフォローされているのも相当なことだが、そのエネルギーと可能性と希望は、まだスタート地点にすら立てていないのかもしれない。だからこそ、パクユナは「変わらないまま生まれ変わる」新しいストーリーと音楽をここから始めたいと思ったのだ。

今までしっかりとしたコライトを行ったことがなく、ソングライティングに関しても自分の世界の範疇でほぼ全てを完結させていたパクユナに、大海に出ていくにあたり共同制作を体験してもらおうと思ったが、お相手を探すに要した時間はほぼなく、すぐに1人のアーティストの名前が彼女と僕の中で上がった。それがこの曲を作ってくれた青木慶則だった。HARCO名義で数々の作品や活動を行なってきた青木は、「聴き手を選びそうな癖と音楽的なハイブリッドさを持ちながら、本老若男女の胸の中にスッと入る名曲を沢山生み出してきた」ポップミュージックの達人だ。ユナは彼の楽曲の中で一番聴かれている“世界でいちばん頑張ってる君に”を昔から愛聴し、カバーもしていたが、ジャズ、ロック、シティポップ、R&Bなどへの造詣が深い青木と共に楽曲を作り、そして歌うことによって、必然的に今までのパクユナの世界観以上の世界を描くことになると思い依頼をした。有難いことに青木は即答でオッケーを出し、そして徹底的にパクユナを推敲し、驚くほど早く5曲のデモを届けてくれた。

この“招待状”は、その中で青木のパクユナへの読解力が深過ぎないデモを敢えて選んで制作を進めた。いうまでもなく、今回の楽曲は「これまでのパクユナ」ではなく「これからのパクユナ」を響かせたいと思ったからだ。歌詞に関しては彼女の幼少期の思い出、さらに言えばアートに惹かれ、それを自分の表現にしようと思った原点の場所――これは実際にある三重県の場所と彼女以外誰も踏み入れなかった彼女自身の心の居場所の両方を指しているがーーのことを歌っているが、それもノスタルジーや過去をイメージしたわけではなく、今までの自分と訣別することなく、それら全てを抱えて新しい場所へ飛び込もうとするユナの覚悟が言葉を生み出したと思っている。

洗練されたアレンジ、穏やかだけど跳ねたリズムやメロディーが確かなことを伝えてくれるエモーショナルさ。明らかに新鮮なパクユナが響く楽曲になったが、デモを一聴した瞬間に反射神経的に彼女の眼から涙が溢れたのも、レコーディング中一貫してずっと楽しそうに歌い続けていたのも、さらに言えばかつてなく歌詞を作る上での葛藤が続いたことも、全ては「自分の中にある、今まで出てこなかった自分」をこの曲の中で出し切ろうとしたからだろう。そういう意味で、この楽曲は新パクユナでありながら真パクユナでもある、彼女の第二章の最高の幕開けを告げる鮮やかなファンファーレのようなものではなかろうか。

実は、青木との制作は“招待状”のみならず、もう一曲ある。

本来はそのもう一曲も含めてVIVA LA ROCK で初披露し、そして配信しようと思っていた。そのもう1曲は明らかにライヴのラストを飾るべき楽曲で、セットリストを決める時に当たり前のように最後に置いてユナと打ち合わせをしたが、今までにないほど強い意志で「このライヴの最後は“歩み”にしたいです。新しい自分を照らす大事なライヴだからこそ、“歩み”は絶対に連れて行かなきゃいけない」と彼女から言われ、僕はそれに同意すると共に、ならば無理してさらなる新曲を披露するより“招待状”の新鮮さをガシッと楽しんでいただき、その上でもういい曲を届ける最高のタイミングを別に作ろうと思い、今はまだベールで包んでいる。

その最高のタイミングはほぼセッティング出来ました。もう少し待ってください。

鹿野 淳(プロデューサー)

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