業界を超えた繋がりに支えられて

竹下 郁子(Business Insider Japan記者)

3月27日、厚生労働省は、国が企業に求めるハラスメント対策を記したパンフレットを更新した。6月から施行されるいわゆるパワハラ防止法に加え、セクハラやマタハラについても従来の規定が見直され、強化されたためだ。

これまで雇用関係にないとして保護されていなかった就職活動中の学生へのハラスメントや、グラビア女優の石川優実さんが声を上げ続けてきた、職場で女性にのみヒールやパンプスを強制することに異議を唱える#KuTooなど職場の身だしなみ規定についても盛り込まれたことは、大きな一歩だろう。

このパンフレットは企業のハラスメント研修などで活用されることも多い。就活セクハラや、#KuToo、メガネ禁止について昨年1年間取材を続けてきた記者として、これまでの国会答弁や労政審での議論が改めて文字になったのを見て、じーんときてしまった。

アクティビストとしての石川優実さんの奮闘はもちろん、知識面で限りないサポートをしてくれたジェンダー研究の専門家、記事を引用して国会で質問したり、小さな勉強会にも出席して被害者の声に耳を傾けていた議員など、志を同じくする女性らとの連帯があったからこそ、成し遂げられたことだと思う。

#KuTooも就活セクハラも 、根底にあるフェミニズムの思想はもちろん、目指す法改正や社会のあり方が近いということもあり、皆で1つのチームのように情報を交換したり、励まし合ってきた。

私が働くメディア業界は男社会だ。新聞も在京テレビ局も女性従業員の割合は全体の2割ほど(日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)、民放労連女性協議会調べ)
。「クリティカル・マス」には遠く、女性蔑視なコンテンツが批判されてもなお繰り返されるのはもちろん、「男の生きづらさ」の解消を女性に背負わせるような発言が女性のメディア関係者から出るのも、こうした業界の体質に一因があるのだろう。

だからこそ昨年1年間、取材を通じて出会った上記のような人たちとのネットワークは、仕事だけでなく、生きることを支えてもらったと感じている。

就活セクハラや職場の身だしなみ問題、どちらのテーマでも繰り返し院内集会や大学でイベントを開いて問題提起してきたが、その中で特に感じたのは、若い世代のフェミニズムの盛り上がりだ。イベント終了後、石川さんに駆け寄って涙を流しながらSNSでの中傷を心配したり、石川さんがきっかけでフェミニズムを学び始めた、背中を押されて社会運動をするようになったという女子大学生も何人も見た。イベントで性暴力に無理解な発言をした大人に対し、毅然と抗議する女子学生もいた。マイクを持つ彼女の震える手を、私は一生忘れない。

メディア業界から外に目を向ければ、手を取り合える、心から尊敬する人たちがこんなにもたくさんいる。その事実を支えに、これからもペンを取っていこうと思う。頑張っていれば、ヒラリー・クリントンやシンディ・ローパーにまで届くしね。

いま気になるのは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う、外出自粛や在宅勤務、経済不安などを背景に、世界中で女性へのDVや児童虐待が増えていることだ。
安倍首相は緊急事態宣言を出した7日夜の記者会見で、この問題について問われ、「海外ではDVが増加しているということを承知をしているが、国内でそういう兆候が出ている報告は受けていない」と述べている。

3月30日に「全国女性シェルターネット」が首相ら宛てに提出した要望書には、支援現場にはすでにそうした相談が入ってきていることが現場の声をもとに詳しく書かれており、4月3日の参議院本会議でも共産党の山添拓議員が、要望書にあった「夫が在宅ワークになり、子どもも休校でストレスがたまり、夫が家族に身体的な暴力を振るうようになった」という被害の例をあげて首相に質問。首相は「被害者支援体制の充実を図る」と答えている。

前日の6日には、コロナの影響で収入が減ったことなどが原因で口論になり、夫から暴行された妻が死亡したという報道があったばかりだ。

あったことをなかったことにさせてはいけない。

災害などの緊急時に女性への(性)暴力が増えたり、支援が行き届かないことは、かねてより問題になっていた。同じことを繰り返してはいけない。
今も支援現場で奮闘している女性たちがいる。家の中で暴力に怯える女性たちがいる。女たちの声が混乱の中で掻き消されないよう、メディアはその役割と責任を果たさなければならない。


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