家族とパリテ

太田啓子(弁護士)

 私は、弁護士業務として、日常的に離婚案件を扱っている。女性の離婚専門というわけではないが、離婚案件の依頼者の8割ほどは女性で、だいたい、「夫の浮気」「暴力」「暴言」のいずれかを理由に離婚したいというパターンがそのうち8割ほどを占める。「暴力」には、殴る蹴るという身体的暴力のみでなく、経済的暴力や性的暴力も含む。


詳細に聴き取り、事案を把握する経験を重ねるなかで、社会のマクロレベルでの性差別構造が家庭というミクロレベルで噴出している最前線に自分は向き合っているのだとつくづく感じさせられるようになった。

 とにかく女性には経済力がない。高収入の夫がいて、結婚している間は安定した生活をできていても、その夫に耐えられなくなったら、貧困に耐えるか夫の浮気や暴力、暴言に耐えるかの二択を迫られるケースがほとんどだ。この経済力の無さが、荒廃した家庭生活に女性を縛り付ける足枷になる。
女性に経済力がないのは、能力や意欲がないからではない。女性が経済力を得ること、得たあと持続し続けることがあまりに難しい社会の仕組みがあるからだ。「男性並み」に働けば同じような経済力は得られるかもしれないが、そもそも「男性並み」に働く機会を得るハードルもあり、そして、長時間労働や転勤がセットになった「男性並み」の働き方では家庭生活でのケア労働をすることは到底できない。家事育児は女性がメインでやるべきもの、という性別役割分業観が当然の前提になった社会の仕組みにからめとられて、多くの女性たちが、「自らの意思で選んだ」形で、経済力を持ちづらい働き方を「選ばざるを得ない」ことがずっと続いている。大学のジェンダー論の教科書で習うようなこのような現象を、離婚事案で日々生々しく目の当たりにし、やりきれない思いだ。


 男女共同参画白書(令和2年版・Ⅰ-特-12図)「妻の就業時間別共働き世帯の推移」を見ると、1985年から2019年にかけて、就業する女性の数は増えていても、「フルタイム妻」は全く増えていないことが一目瞭然である(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-00-12.html) 。当然、「部長妻」「取締役妻」も全く増えていない。家庭を持つことがイコール女性の経済力を抑制し、重要な意思決定に関わる地位に就くことを阻害し続けているなんてあまりに理不尽でやりきれない。


政治で、こんな社会の仕組みを変えないといけないのに。今までずっと、今の仕組みを「都合がいい」と感じる人達が政治的権力を握ってきたからこういう状態だ、というのを変えるには、やっぱり、「私たちの代弁者」と思える人を政治の意思決定の場に送ることこそが本質的に重要だろう。パリテは、社会を変えていく革命だと思う。ケア労働を当事者として担ってきた人、現役の人が政治の中枢にいたらどれだけいいだろう。パリテが進んだら、どれだけ、性差別解消と弱い立場に目配りした政治がおこなわれることになるだろう。ケア労働と両立した働き方をしやすい職場が増えるだろう。パリテが進めば家族の風景も少しずつでも変わっていくだろう。


今までが都合がよかった人たちからの激しく陰湿な抵抗はあるけれど、その人達をこそ権力の場から追い出さなくてはならない。そして、今までのような構造を都合がいいと感じる人達を今後は生まないようにしなくてはならない。私はそういう思いで『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大月書店 2020年)という本を書いた。ありがたいことに増刷を重ね(4月1日現在8刷)、メディアで多数紹介された。男性が「男らしさ」の呪いから解放されること、同時に、性差別に当事者として対峙し、解消に向けて主体的に努力することが大事で、そのような大人になるよう子育てにおいて男の子に働きかけることが重要だ、というメッセージに対し、読者からの好反応が大きいことに希望を感じる。パリテが拓いていく社会に希望をもって、各自の持ち場で、小さいことでいいから、バックラッシュに抗っていきましょう。

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