議会や行政を「ケア・パリテ」に!

荒田 花(パリテ・キャンペーン実行委員会)

私は週一回、ホームヘルパーとして夜勤の仕事をしている。毎週、同じお宅に行く。一人暮らしの方の家だ。私とその人の関係は良好で、私はこの仕事にやりがいと誇りを感じている。また、貴重な収入源でもある。しかし、つい最近、私はヘルパー登録をしている事業所を「辞める」ことになった。

4日前に事業所から、新年度の契約のために来所し、対面指導を受け、契約書に記入しなければならないと連絡が来た。新型コロナウイルスの感染を心配した私は、郵送や電話で手続きをしてもらえるように頼んだが、できないと言われた。その事業所は「感染拡大警戒地域」にある。

私がこの新しい感染症を警戒しているのは、もちろん自分自身のためでもあるが、夜勤先の人に絶対にうつしたくないからだ。夜勤のケアがないと生活できないお宅に危険なウイルスを持ち込むわけにはいかないし、私が体調を崩して夜勤のシフトに穴を空けるわけにもいかない。

「行政からお金をもらっている以上、事業所は対面指導をしなければならない」「事業所に来ていないのは、あなただけなんですよ」と言われた。他のヘルパーさんたちは、どういう風に自分を納得させて契約書にサインしに行ったのだろうと想像し、気持ちが暗くなった。

私は事業所を「辞めて」も、そのお宅に毎週行くだろう。夜勤のシフトに穴を空けられないし、その人が心配だからだ。幸か不幸か、有償のボランティアとして同じお宅に夜勤に行くという選択肢がある。もらえるお金はこれまでの半分になるが。

有償ボランティアとして私が夜勤に行くのは、私の選択の結果であって、自己責任なのだろうか。そんな所は辞めればいいのか。正直、辞められるのなら、辞めたい。でも、自分の生活も、その人の生活もかかっている。簡単には辞められないし、急には辞められない。ケアは、そういう気持ちになることを要請する営みだ。

自分も相手も危険にさらすことなく、ケアしたいと思っただけなのに、それは適わなかった。「行政」からお金をもらっていたら、自分が危険だと思う経路で、危険だと思う場所に行って、対面で説明や指導を受けなければならないらしい。しかも、感染者が急増するであろう、この4月に。「行政」からのお金は、元をたどれば、私も納めている税金なのに。

聞くところによると、「行政」は言うとおりにしない事業所に「目をつけて」、さらに厳しく管理するそうだ。だから、事業所は「行政」の指導通りに、私に対面指導をしようとした。「行政」からの管理と指導、そして事業所の余裕のなさが、私の失職を招いたのだろう。

雇用形態や職種でいえば、私は非正規職員として訪問介護員をしていた。介護労働実態調査(2018)によれば、訪問介護員は約8割が女性。非正規で働く訪問介護員も5割近くにのぼり、介護労働職の中でもずば抜けて高い比率になる。社会環境の変化と、コミュニケーションのすれ違いで、すぐに職を失ってしまうような不安定な労働環境だったのだと痛感した。今の制度や体制では、ケアをする私はまったく大切にされていない。

「女性が8割」という比率と対照的な組織がある。議会や行政機関だ。制度の根拠となる法律を成立させる議会も男性ばかり、制度を運用する行政機関のトップも男性ばかり。そこには、ケアを分かっている人が本当にいるのだろうか。ケアを知らない人が制度とその運用について決定しているから、ケアする人とケアされる人は「管理」や「指導」に縛られているのではないか。それがケアにとって一番の障碍なのではないか。

ケアの経験があり、ケアについて真剣に考えている人が、議会や行政のトップに少なくとも半数いないと話しにならない。つまり、議会や行政は「ケア・パリテ」になるべきだ。現状がそうではないために、私は4日前、仕事を「辞める」ことになった。でも、私はケアをあきらめない。賃金労働ではなくなっても、支えるべき日常がある。そしてそれに応えることが、ケアする私のプライドだ。ケアをなめるな。

※個人や団体が特定されないように詳細を変えています

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