移民とパリテ:ハンガー・ストライキで訴える人々

稲葉奈々子(上智大学総合グローバル学部 教授)

議員の数に、現実に即した男女比を反映させるのが「パリテ」の考え方だ。女性の声を法律や制度に盛り込むためである。「私たち抜きに私たちのことを決めないで(Nothing About us without us)」という障がい者運動のスローガンが端的に示しているように、マイノリティ当事者の意見を意思決定の場で尊重することは、もはや世界的な潮流といってよい。


マイノリティの声を政治に反映させる基本は、声を代表してくれる人を議員として選出すべく選挙権の行使である。では、参政権が認められていなかった時代に、女性たちはどのようにして、政治の場に声を届けたのだろうか。19世紀末から20世紀初頭の女性参政権運動のなかでも、ラディカルなことで知られるサフラジェット(イギリスの女性参政権運動の担い手)の運動のレパートリーのひとつは、ハンガー・ストライキであった。


ラディカルな手段に訴えたがゆえに投獄されたサフラジェットの、監獄のなかでの数少ない抗議の方法が、ハンガー・ストライキだったのである。衰弱して収容に耐えられない状態になると釈放され、回復するとふたたび投獄された。政府は、口に差し込んだチューブで流動食を強制的に流し込んでハンガー・ストライキをやめさせようとまでした。なぜならば、ハンガー・ストライキという行為は「雄弁」で、世論に訴えるものであった。事実、こうしたラディカルな手段を用いた運動により、1928年にイギリスで女性参政権が実現した。


女性参政権が実現してから1世紀近くが経過した今日も、声を政治に届けるためにハンガー・ストライキを行う人々が、日本に存在する。日本で生活することを求めて強制送還を拒否し、入国管理センターに収容されている非正規滞在外国人である。


日本では、外国人は参政権が認められていないだけでなく、政治的な発言をするだけで、「日本が嫌なら帰れ」というヘイトスピーチの対象となる。国家主権によって、政治的のみならず、社会的にも存在が認められていなくても、非正規滞在外国人は、地域社会の一員として生活してきたことはもちろん、日本人と法的に結婚している人も多い。非正規滞在の子どもたちのなかには、日本で生まれ育って大学にも進学している人も珍しくない。しかし非正規滞在ゆえ、「存在しないはずの人」とされて、その声が顧みられることはない。ハンガー・ストライキによる訴えすら無視されて、入管収容所内で、餓死する人もいる。そこまでしても政治の場に声が届かないのが日本の現状である。現代のサフラジェットたる非正規滞在者が、ハンガー・ストライキによって訴えようとしていることに耳を傾けてほしい。

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