性暴力のない社会を目指すために

齋藤梓さん(目白大学心理学部 講師)

私自身は、性暴力被害の一支援者であり、一研究者です。そのため、性暴力被害とパリテ、ということでエッセイのご依頼をいただいたときに、自分でよいのかと迷いを感じました(エッセイを書く、ということもはじめてです)。しかし、ここ数年、研究や心理臨床活動の中で性暴力被害の背景に潜むジェンダーの問題に触れ、政策を考える場に女性がいることの意義に思いを巡らせることも増えましたので、今回はそのことを書かせていただければと思っております。

もちろん、性暴力の問題は女性に限らない問題です。男性も被害に遭いますし、女性も加害をします。男性議員で、性暴力被害の問題に非常に熱心に取り組んでいる方も、多くいらっしゃいます。性暴力は、性を問わずすべての人に関係する問題です。そこに議員の性別は関係ありません。そのことは、きわめて基本的な前提です。


そうした前提は踏まえた上で、性暴力被害とパリテという題で考えることは、社会の、ジェンダーをめぐる問題です。これまで支援の中で様々な被害に触れ、また研究を積み重ね、少なくとも女性が被害者の場合には、性暴力の背景にジェンダーをめぐる問題が少なからず関わっていると感じています(少なくとも女性が、と述べるのは、男性や女性以外のジェンダーが被害者となった場合の性暴力被害について、ジェンダー規範などの問題がどのように関わっているか、私自身の考察がまだ不足しているためです)。


例えば性的同意については、いくつかの研究で、性交の時に女性は積極的ではなく従順であることが女らしいと期待されるというジェンダー規範があり、それが性暴力に、女性の意思や感情を大切にしない、ないがしろにする行為に関わっていると指摘されています。私が行った研究でも、女性たちは、パートナーが日々の生活の中で(例えばデートの行き先や食事の内容など)こちらの意思を尊重する姿勢を示し、お互いに意見を尊重し合うことができてはじめて、性交にも安心して同意や不同意を示すことが出来ると語っていました。性交に限らず、女性は従順であることが求められるジェンダー規範があるからこそ、女性の意思を尊重する姿勢を普段からパートナーが示すことが重要である、ということです。こう語られる背景には、女性が安心して意思を示すことが出来ない現状があります。


また、性暴力は、関係性の中で、特に事前に上下関係がある中で生じる場合が多くみられます。社会の中では、未だ、男性が上の立場、女性が下の立場であることが多く、この関係の中で多くの性暴力が発生しています。


メディアにおける性暴力の問題が多く取り上げられていた時に、取材相手から、一人の職業人ではなく、女性として、性の対象として見られていることに苦痛を感じるといった内容を目にした時には、なぜ、目の前の人を一人の人として尊重することが難しいのか、全く関係のない仕事の文脈で、性の対象として見ることが許容されるのか、と憤りを感じました。女性がその領域でマイノリティであるという背景があり、仕事の文脈など、性的ではない文脈で女性を性的に見ることを許容(あるいは肯定)する価値観があり、関係性の中の性暴力が発生しやすい土壌を作っているように思います。


このように、少なくとも女性が被害者となる場合、性暴力被害の背景にはジェンダーをめぐる問題が関わっていると考えられ、そうであるならば、性暴力のない社会を目指すためには、女性議員が増え、政策決定の場で女性がマイノリティにならず、政策の視点に女性の置かれている立場や抱えている問題が反映され、社会の様々な領域でジェンダーの問題が解消されていく必要があるのではないでしょうか。


最後に、誰であっても、性暴力被害の実態を知り、適切な知識を持たなければ二次的被害を生みかねません。政策決定の場にいる議員の皆さまには、ぜひ性暴力被害について、被害当事者の声に耳を傾け、実態を知っていただければと思っています。


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